呪いの主
楽しそうに告げる彼女の手には真っ黒い石にどす黒い赤が混じったどう見ても良くない物が握られている。
「わかってないみたいね。ま、仕方ないけど。まさか主人公が遅れて転入してくるとは思わないでしょ?初めはカトリナさんが主人公と同じ色合いだから注意してたけど、なんかどんくさいから主人公はいないと思ってたのに。遅れてきたにも関わらずレイフ先生から気に入られるってどういう事?ストーリー通りに主人公が向かう場所へ行ってもレイフ先生は来ないのに、ストーリーに沿う様に事件を起こすと私じゃなくて、ちゃっかり貴方が親密度を上げれるみたいだし。納得できないでしょ!だからリセットするの。主人公が死ねばゲームオーバー。初めからやり直し。記憶持ちになっちゃうリスクもあるけど、学園入学前に消せば私が主人公になるわ。私にはコレがあるし。ま、失敗してリセットできなくても邪魔者が居なくなればそれでもいいし。」
にこやかに微笑みながらこちらに向かってくるシファさんとは対照的に私はズルズルと後退する。
「貴方がすべての呪いの原因だったっという事ですか」
「さぁ?どうでしょう?」
ふふっと楽しそうに笑う彼女に腹が立つ。
何がそんなに楽しいのか。こっちは生きた心地がしなんですけど!
「しらばっくれてもそんな禍々しい物見せられたらほぼ確定でしょう!」
「貴方の感覚だけで証明なんてできないのに?ただの気味の悪い石。他の人にとってはそれだけ。あぁ、でもあなたのお友達は信じるかもしれないし、証明できてしまうかもしれないか。優秀だものね、エルランド様。ミルド様もレイフ先生も。証明できなくても権力でなんとかするかもしれない線もありか。王子達とも仲がいいもんね。世界は主人公に優しいから」
困ったなーっと言いながら全然そうは見えない。
「そんな邪悪な力使って先生に好かれると思ったの?努力の仕方間違ったんじゃない?」
ズルズル下がりながらなんとか隙を見てあの石を奪えないかと考える。もっと情報が必要だ。
挑発が良い手かは微妙だけれど他に思いつかない。今の彼女は冷静過ぎる。
「そんなことわかってる!先生に気に入られたら使うつもりなどなかった!あんたが現れたからでしょうが!努力もせずに好かれるあんたが言っていい事じゃない!」
カッとなった所を全力で石に浄化を掛けるが色が少し薄くなった程度。今、聖水を使うべきところだったのに。焦っているのは私の方の様だ。
「何するの。流石、レイフ先生も一目置く特待生ね。でも残念。呪はどんなにあなたの力が強かろうがそんなに簡単に魔法で解呪できるものではないんだよ?だって物が違うんだもん。さて、話過ぎた感もあるしそろそろ呪わせてね。大丈夫、今は死なないから。だって私が疑われるでしょ?」
シファさんがどす黒い石を握ると黒い靄が爆増し、私に絡みつく。
そして彼女はなんとも優し気に言葉を紡いだ。
「ルーナ・カリスタ、貴方は今見聞きしたことは誰にも話せない。そして、呪により衰弱し、死に至る。又は私に被害があると判断した場合呪いにより即死。手をこちらに」
まずい!まずい!まずい!呪われたくない!
私の石とは関係なく黒い靄により強制的に片腕が上がる。
「い、嫌!!」
「うるさい!なんで抵抗できるの?!無駄だから大人しく従いなさい!」
靄によって口がふさがれる。絶体絶命とはこの事とか!
人ならざる者の力に抗っていると掛かっていたフッと力が抜けた。
「残念でした。主人公相手に何も対策してないわけないでしょ?ヒロインはいつもヒーローに助けてもらえるもんね。でも、なんでここがわかったんだろう?」
ギュッと閉じていた目を開けるとそこにはエルが悔しそうな顔をして立っていた。
「うん。これもきっとヒロイン補正ね。ちゃんと結界張ったのにヒーローが来ちゃうなんて。2のヒロインなのにルートのレイフ先生じゃなくエルランド様なのかはよく分からないけど、とりあえずあなたも呪わせてもら────!!」
エルが隙を見計らってシファさんの手から石を吹っ飛ばした。舌打ちをしたシファさんの横をエルが走り抜け、後少しで石に手が届きそうな所で膝を着く。
「全く。本当ヒロイン以外には優しくない。ヒロインでなくてももう少しやさしくしたらどうなの」
弾かれ赤くなった手を振りながらシファさんがエルに歩み寄る。
「なぜ…?!」
「浅慮でしたね、エルランド様。確かに石は大事な媒体ですが、呪術も魔法と同じく奥が深いのですよ?この子達も私の大事な術具ですから」
落ち着き払ったシファさんの周りには黒い蝶と足元に蛇が居た。
「流石ヒーロー。黒蝶で少し神経を麻痺させてたとは言え素晴らしい反応でした。まさか黒蛇まで使うことになるとは。大丈夫。エルランド様は殺さないのでご心配なく。後々色々面倒だし、貴方もレイフ先生程ではないけど、結構好きなキャラクターだもの。今見たこととルーナの存在を忘れてもらう。部分的記憶喪失と数日間眠ってもらう、それだけです」
エルの先に転がった石を拾い上げエルに向き直る。
「エルランド・カッセル、貴方は今見聞きした事とルーナ・カリスタを忘れ、そして呪により数日間の眠りを命じる。手をこちらに」
エルが呪われるなんてダメだ。それよりなにより存在を忘れられてしまうと言う事に胸の痛みを覚える。
嫌だ!忘れないで!そう思ったとたん10倍の重力が掛かっていたかの様に重かった靄が軽くなる。すぐさま聖水を掴みエルの元に投げつけ風魔法で割る。
目の端で状況を瞬時に理解したシファさんが石を握るのが見えると体に力が入らなくなった。




