開校日3
中から出てきた蛇は閉じ込められたことに憤慨した様子でこちらを睨んでいるが、先ほどと少しも変わらないレイフ先生がお構いなしに浄化をかける。もちろん大蛇はめちゃくちゃ怒って周りの木を薙ぎ倒しているので破片がどんどん飛んでくる。
「うーん。この程度ではだめですか。ちょっと色々試したいので2人はここで少しの間待っていて下さいね。物理も魔法も通さないので安心してください」
私達が何か言う前に大蛇の前に出て行ってしまったレイフ先生。私達が唖然とする中、ヒラヒラと飛び回り色んな魔法で攻撃しているが、特に効いている様子はない。というか、レイフ先生チート過ぎない?遊んでるようにしか見えないんだけど…
ハラハラ成り行きを見守っていると思いのほか集中したのか蛇の周りに呪いの靄が見え始め、それが細い糸状であるが、蛇の後ろの林の方へ続いているのが見えた。
「うん。浄化以外は効かないようですね。浄化も効きがあまりよくないので効率悪いですね。読んだ書物と同じという検証ができて満足しました。ではエル君、君の聖水と僕の聖水で片付けてしまいましょうか、ね?」
私が靄を発見したと同時に戻ってきたレイフ先生はやりたいことはやり切ったとばかりにさっさと片付けよう宣言。私とエルがいる意味が分からない。先生だけでいいのでは?
エルが自分の持っていた聖水を手渡すと自分の持っていたものを霧状にして大蛇に振りかけると、大蛇は苦しそうに悶えたあと動かなくなりパラパラとその姿が消えて行く。騒いだ割にあっさり終わってしまい拍子抜けにも程がある…。
唖然としていて忘れそうになっていたが、細長い靄も蛇が居なくなったら消えてしまうのではないか?
慌てて見てみるとやはり消えかかっている。この事件の大事な証拠がその先にあるかもしれないと慌てて駆けだす。
「おい!ルー?!」
「靄が!確かめないと!」
エルの慌てた声に短く答える。エルならばこれである程度分かってくれるだろう。
靄に集中すると薄くなりつつあるが、まだ先に続いている。
痕跡は蛇の側から消えているようで辿れば辿るほどはっきりとしたものに変わっていく。
以前見た黒百合の花の濃度と同じ靄に警戒して速度を落とす。
警戒しながら進むと急に後ろから声を掛けられた。
「ルーナさん?どうしたんですか?こんなところで?」
靄に集中していたため後方への警戒を怠っていたようでドキリと肩がはねた。
「大丈夫ですか?」
「え?シファさん?なんでこんなところに?」
「学園にはいろんな薬草が自生しているので休みの日はいろんなところを歩き回っているんです」
リークリングの学生らしく、植物に愛着のあるのはいい事だけれど危ない!もし彼女が先に蛇の所に行っていたら間違いなく被害に遭っていただろう。想像しただけで背筋が冷えた。
「ルーナさんはどうしてここに?」
「えっとー…実はこの先の小さな庭園近くに大蛇が出まして…危ないから逃げる様にとレイフ先生とエルに言われて逃げてたら迷いました」
嘘はほぼ言っていない。本当のことでもないのだけれど。
困ったように言うとシファさんは女子寮近くの庭園まで案内してくれると言う。途中薬草を積んでから帰るからちょっと遠回りになるけど良いかと聞かれ頷く。
呪いの跡も気になるけれど、彼女を巻き込むわけにはいかないだろう。後で転移で戻って来よう。
5分程先ほどの所より奥に進むとシファさんがここで待っててくださいと言い残し薬草を取りに行った。
彼女のいない間に周りを見回すとやはり黒い靄が漂っている。この近くに何かあるのだろう。
(…ってシファさん1人で歩かせたら危ないじゃん!倒れてたりしたらどうしよう!)
危険があるかもしれない場所に行くのに待っててくださいと言われて大人しく待っていた私は馬鹿なのでは?
自己嫌悪に陥りながら慌てて後を追う。
「シファさん!」
こちらに向かって歩いて来る彼女は一見なんともないように見える。
「どうしたんですか?!そんなに慌てて…」
「さっきの大蛇の事もあるし1人でいるのはお互い危ないと思って」
「そうですね。危機感が足りませんでした。薬草はまだ育ち切ってなかったので今日はもう帰りましょう」
少し歩き、先ほどよりも靄が薄くなったところでもう1度彼女を確認する。
おかしい。彼女の周りだけ靄が改善されていない?寧ろ濃い。なのにシファさんは平然としている。
嫌な予感は当たるもので、彼女のスカートのポケットから靄が上がっている様だ。
もしかして目当ての薬草は無かったけれど他の薬草を摘んだのだろうか。早くなんとかしないと彼女に影響が出るかもしれない。でもどうやって?少しはこちらの秘密を曝すしか方法はないだろう。ドキドキうるさい心臓を黙らせるように大きく息を吸う。
「シファさん。つかぬことを伺いますが、何か右ポケットに入れてます?」
「え?どうしたんですか?急に?」
「私、昔から何か危険なものがあると何となくそれを察知できるんです。シファさんのポケットから何か嫌な感じがするので何か悪い物を拾われたのかと。今すぐレイフ先生たちの所に行って処理してもらいましょう!」
シファさんは一瞬ビックリしたように目を見開いた後にっこり笑った。
訳が分からない私に彼女はポケットの中身を手に取り笑みを深めた。
「やっぱり、主人公には不思議な力があるんだね。だから生き残って幸せになるのがメインストーリーなわけだ。でも、残念今回はバッドエンド。リセットさせてもらうね」




