山の中で1
さて、今私たちは昨日話に出てきた山岳地帯の一番人里に近い山の中にいる。
この辺りはたまにホワイトファックスが現れるという場所だ。なぜここを選んだか。理由は私がこのホワイトフォックスで行動するための下準備。
シナリオはこうだ。生態系の調査をしていたら私(ホワイトフォックスの子供)を発見。けがをしていたので手当をしたらなぜか懐かれた。森へ戻そうとしても離れないので、調査もかねてけがの様子見が終わるまで世話することにした。
「さて、適当に調査しつつ夕方まで時間を潰すか」
調査というより狩りでもしそうな格好のエルランドが横にいる。
美形とは何て得な生き物だろう。何を着ていても様になるなんて。思わずジーっと見てしまう。
「うん?どうした?気分でも悪いのか?」
こっちの嫉妬など露知らず不思議そうに尋ねてくる。
「いいえ。平気です」
「そうか。転移する際に魔力を消費しすぎたのかと思ったが、杞憂だったようで何よりだ」
実は馬車でゆっくり向かうのかと楽しみにしていたら、エルランドの時空魔法の転移で来たので風情も何もあったものじゃない。ただでさえ手間をかけているので、文句は言わないが色んな景色が見れなかったのは残念だ。
しかし、この森は本当に気持ちがいい。残念な気持ちも消えるほど澄んだ雰囲気で、このまま日向ぼっこしていたい。少し冷たい風が私の毛皮をサラッと撫でていく感覚が心地よい。
「ところでシルバーフォックスはしゃべれるという証言があるが、しゃべれるか?」
何それ。楽しそう。気合を入れて自分の名前を言ってみるが、出てくるのはかわいらしい「きゅうきゅ」という音だけ。
「無理か。又は個体が若すぎるのか」
再び念話に切り替えて質問する。
「じゃ、永遠に無理ですね。時空魔法でこの仔の体内の時間は止まってますし。残念です」
「いや、そうとも限らない。なぜかはわからないがそのモンスターに君が入ると時空魔法が弱まるようだ。なので、成長する可能性があるかもしれない。あと、すぐにどうこうなるものではないが念のためその体から出ることがあるならこの魔石で時空魔法を掛けなおしておくといい。入っていない間に魔法が弱まったままだとどういう変化があるか分からないからな」
首輪というには繊細な物が差し出される。そこには小さい魔石が幾つかついている。
エルランドはしゃがんで、いつまで受け取らないことを不思議そう思っていそうだが…少し天然なのだろうか?
「あの…この体では自分で付けるのは無理なので付けてもらえます?」
「やってみればできるかもしれないだろう?」
天然ではなく実験オタクだ…。
渋々前足で握ろうと試みるが、うまくいかない。不満げに唸るが口から出るのはかわいらしい音だけ。ちょっと不機嫌になり地面を見つめて落ち着こうとしていると頭に重さと暖かさを感じた…と同時にわしゃわしゃと毛皮が乱れる。文句を言おうと顔をあげるとエルランドが予想外に優しく微笑んでいるので固まってしまう。さらにボソッと「かわいいな」っと聞こえ体が熱くなる。生身なら真っ赤になっているだろう。
固まっている間にエルランドが首輪をつけてくれ、暖かさが離れると少し落ち着いた。
(冷静になって考えると、かわいいのは私じゃなくてこの仔だわ…勘違い甚だしい…)
先ほどとは違う意味で恥ずかしい。
エルランドの後に続き森の中へ入っていく。とても静かでエルランドの足音のほかは木々が揺れる音だけだ。
少し疲れてきたかなっと思い始めたところで、小さく開けた場所に出た。
「ま、ここまでくれば心配ないだろう」
地図を開いたエルランドが呟く。
「さ、魔法を使ってみてくれ。あの木に向かって1発水魔法を撃って次に地魔法だ」
「いきなり過ぎません?!学校のあの部屋でできるじゃないですか?!」
「大事なことだ。ちゃんと魔法が使えるか使えないかで君の扱い方が違ってくる。仮にもモンスターに学校で魔法を使わせるとなると許可の手続きが簡単じゃない。ここなら許可はいらないから楽だろ?」
確かにそうかもしれないが。なんだかんだで従って、難なく魔法を使うことができた。
何か変化はあるかと聞かれ、全身で魔法を使っている感覚だったと伝えるとなんだか楽しそうに何かを考えている。
とりあえず、放っておいて少し休もうと丸まると風向きが変わった。
流れてきた匂いはこの森の心地よさとは真逆のなんとも嫌な匂い。うっすらとしか匂わないのは距離があるからだろう。
嫌な匂いと嫌な予感。動物の直感だろうか。
すっと立ち上がると走って匂いの元を確認しに行く。
後ろからエルランドの焦った声が聞こえた気がしたが、気にせず走る。
さすが、子どもとはいえモンスター。結構な速さで景色が後ろへ流れていく。
匂いがきつくなると速度を落とし、気配を消すように身を低くして匂いの元へ近づく。
茂みの隙間から周辺を見渡すと人影が2つ。大きさからみて男。それとその男達より若干小さめな白いものが対峙している。
その白いものを認識すると。なんとも言えない気分になり、お腹がカッと熱くなる。
たぶん、怒り。でもなんで怒っているのかわからないが、その白い物を助けるために人との間に躍り出る。
そして思う。お前らになんかやらないと。




