憑依⁈2
心配を余所に授業中の校舎はほとんど人がいなかった。たまたま居合わせてもこの小さい体なら隠れられたので何とか研究室に辿り着けた。
問題はドアだったが、この仔は運動神経がいいのかジャンプして何とか開けることができた。
この体に入ると疲れを感じるようでエルランドが座る椅子の上でウトウトしてしまう。
眠りが浅かったせいか夢を見た。あまりいい夢ではない。 嫌な匂いが近づいてくる。なんとかして追い払わなければそんな気持ちになった。
しかし、場面が変わりいい匂いがしてきた。爽やかな森のようなにおいに意識が浮上してくると同時に驚いた声でしっかり目が覚める。
(なんか既視感があるな…)
「お前!ホワイトフォックスの子ども?!なぜそこにいる?!」
昨日と同様に驚いているエルランドに念話を送る。
「エルランド様。落ち着いて下さい。私です!パールです!」
「はぁぁ?!」
怒気に当てられてビックっとする。
「君は何をやっているんだ…」
「すみません…。」
「で、どうしてそうなった?」
「さぁ?」
何をしていたかを話すが、なぜこうなったかは私にもわからない。
「で、どうしたら出れますかね?」
「吸い込まれるように入ったようなので逆に自分を外に出すイメージをしたらどうだろう?」
吐く息に自分を乗せるような感覚で外に出るイメージをする。
次の瞬間ふっと解放感に包まれると白いからだが前にある。
「あ、出れました」
「それはよかった。これもまた今度検証しなくてはな。じゃ、こいつを資料室に戻しに行くぞ」
「待ってください!この仔と一緒にいることはできますか?」
「君は何を…」
「久々に色々肌に感じて嬉しかったんです。それに、この子に会った時に惹かれたんです。他の子じゃなくてこの仔に。死者への冒涜かもしれませんが、これも何かの縁。この仔と一緒にいられればエルランドさんの検証とやらにも協力できます!」
食べたいものが食べれるという下心を隠して懇願する。この仔がいいのは本心だけど。
検証という言葉に贖えなかったのか諦めたようにため息を吐いた。
「もっと普通のモンスターなら色々簡単なのに…」
エルランドがボソッと呟く。
「え?なんでですか?」
「このホワイトフォックスは珍しく、ほとんど人前に現れることが少ない。見た目の可愛さからペットにする者もいるが、今は大概は保護目的だ。一時期密漁が横行したため、国の審査に通過したものでなければ飼えない。だから、君がこれに入るなら色々手続きがいるんだ。…とりあえず生態系の調査で使いたいからと言う理由でこいつを買い取ろう。他の希少モンスターの剥製も寄付する方向で」
なんか申し訳ないけれど、この仔を諦めることはいけないような気がしてお願いすることしかできない。
「…お手数をお掛けします」
「ちょっと事務部門へ行ってくる」
そういうと部屋を出ていき、1時間ほどすると戻ってきた。
「交渉成立だ。うちにある別の剥製を寄付することで交換という形になった」
「すみません。ありがとうございます。あの…今更なんですが交換してもらていいんですか?」
「別に要らないし。貰いものなんだよ。うちは誰も興味ないから遅かれ早かれ寄付していただろう。1体に対して複数寄付するんだからあっちも乗り気だ。気にしなくていい」
「そうですか。ありがとうございます」
「ただし、今週末が終わるまで学校でこいつに入ってはだめだ。対策ができていないと騒ぎになりかねない」
「構いません。ありがとうございます」
エルランドが置いた仔を撫でながら言う。
フッと笑った音が聞こえたので顔をあげる。
「きみは先ほどからありがとうしか言ってないな。とりあえず、明日ここから一番近い生息地、2時間ほど離れた山岳地帯に行く。今日より早めに来るからそのつもりで来てくれ。では、また明日」
そういうと、エルランドは寮へ帰っていった。
よし、明日から助手としてこの仔の事の恩返しもしつつ頑張ろう!