編入初日
ガタガタ馬車に揺られること数十分。ようやく学校が見えてきた。
目の前にはハンサムなおじ様。そしていつもは見ているだけだった制服を着ている私。
そうです。お察しの通り作戦が決行される運びとなり、ドナドナ状態のパールでございます。
なんて脳内ナレーションをしながら外を眺めてしまう位車内は静まり返っている。
あの後色々準備をしたのであれから1週間くらい経っているだろうか。悠長に1ヶ月くらい猶予あるだろうと思ってたのにできる人間が揃うとこうまで物事が早く進むのかと呆気に取られた。
まず私たちがしたのは人形の容姿をカトリナさんに似せた。今回の私の見た目は彼女と同じストロベリーブロンドに碧眼。但し、彩度は全体的に控えめだ。カトリナさんと比べるとストロベリーブロンドも暗めで、目も彼女はスカイブルーだけど私はオーシャンブルーと微妙に違う。 誰も春の祭事の時のルーだとは思うまい。
使える属性や身分設定など細かい部分も決め、一応カトリナさんの情報に出てきたみなも様にも事情を説明しておいた。
今回も留学理由と身分はフェルさんが頑張ってくれたようだ。師匠がやっぱり持つべきものは有能な親戚ね♪と嬉しそうに言っていた。いつもお世話になります、フェルさん。
今回、表面上は魔力の強い孤児をこの国の辺境貴族が引き取ったが手続きで手間取って入学が遅れたということ、国王側にはフェルさんの部下の親類で呪いに関する情報収集とと王子達のの警護と言う様に報告しているらしい。設定だとしても責任重大すぎません?っという私のつぶやきは見事にスルーされたのは言うまでもない。
目の前のハンサムなおじ様は私を引き取った辺境貴族(仮)のフェルさんの部下らしい。
そして、今彼は親として娘を学校まで送り届ける道中である。初対面、初めましてをした後会話がないのは必然だ。
現実逃避をしている間に正面入り口に着き、校長室へ向かう。
ノックをした後室内に入ると師匠が私達を迎え入れ、机の前に用意された席に着く。
おじ様は業務連絡のように話した後恭しく礼を執り校長室を後にした。出ていく間際に私の肩を叩いて少し微笑んで頑張りなさいと言ってくれた。私についてどんな説明を受けたのか分からないけど、良い人だ。
「さて、パール。ここからが本番よ。この前実施した実力テストもそれなりにできていたから最終学年に在籍して問題はないでしょう。エルと共に色々叩き込んでおいてよかったわ!さすが、私ね!」
「…今日はこれからどうしたらいいですか?」
「もうちょっとしたらエルのクラスの担任を呼ぶから、彼女について行きなさい。あとは手はず通りに。きっとカトリナ嬢とエルが話しかけてくれるから今日のところは王子達と挨拶して、レイフ先生の授業で目に掛けてもらえば任務終了」
「わかりました。事件進展すると良いですね」
「そうね。期待しすぎず頑張りましょう。そうそう、私は今回あんまり協力できないからこれ上げるわ」
そう言うと師匠は小さい魔石の付いたネックレスを渡してきた。
「わー!良いんですか?ありがとうござい…ます?」
疑問形になってしまったのは出した手にいつまで経ってもネックレスが乗らないから。
え?くれるって言ったよね?っと不思議そうにしていると、師匠はにやっと笑ったかと思うとスッと席を立ち私の椅子の背後へ回った。
「髪が邪魔そうだから付けてあげる。髪を少し上げなさい」
言われるがまま髪を上げると小振りなネックレスが首元を飾った。
お礼をもう一度言おうと振り向く前に師匠の両手が肩に置かれた。
「自分の身を第一に。これは校長権限で1度だけ校内で魔法が使える様にするための魔道具だ。肌身離さずつけてなさい。いいね?」
オネェ言葉でない師匠のハスキーボイスが耳元で囁かれぞわっとしたと同時に顔に熱が集まる。声を出すと裏返りそうだったので勢いよく頷くと後ろから忍び笑いが聞こえた。
師匠は姿勢を戻し、いい子だっと言って頭を撫でる。揶揄われた不満が顔に出ていたのだろう楽しそうに2、3度頭を撫でると自分の席に戻る師匠を恨めし気に睨む。…効果はないようだ…寧ろ余計に楽しそう。
「ま、兎に角無茶はしちゃだめよ?何かあったらすぐにエルに言いなさい」
そう言い終わると師匠はエルのクラスの担任の年配の女性を呼び、私は彼女に続いてエル達のいるクラスへ向かった。




