留学生
あの呪術事件の後はバタバタだった。
事件により今年の上半期に行われるはずだった王子の婚約者の決定が今年の終わりへと伸びた。万が一にでも祝福の花束が怖らせることを懸念して対策ができるまで延期に下らしい。その原因の最たる呪術の痕跡の解析は難しいらしく神殿、王宮共に何かと試しているが成果は今のところ芳しくないようだ。それもあって師匠は忙しく、その補佐で呼ばれるエルも忙しい。私も呼ばれることが多いが、何といっても魔法ド素人。魔力はあっても理論が理解できてないので大体の場合はお荷物。黙って静かに渡された本を読んでいるかのんびりしているだけだった。
そんなこんなしている間に春祭事の後の春休みも開けて新学期が始まった。
久しぶりに友人に会えて楽しそうに話している生徒達で学校全体が活気にあふれている。春休み中も師匠とのやり取りに都合がいいからと公爵家に帰らなかったエル。なので私も必然的に学校で過ごす時間が多かったが、静かすぎる校内は何となく寂しかったので今日の様な活気は私の心もウキウキさせる。
周りの雰囲気につられ少し浮かれてエルの後に続いて教室に入る。同級生たちは見慣れた様子でエルに挨拶した後私にも挨拶をしてくれる。エルは挨拶を返した後席に着き何やら難しそうな本を読み始めた。
「おはよう、エル。今日は早いんだね」
「なんだ?珍しく浮かれて早起きでもしたのか?」
「フリクセル…新学期ってだけで何が変わるわけでもないですよね…おはようございます、エル」
王子とお付きの2人がエルの左右を囲んだ状態で席に着く。
「おはようございます。王子、トビアス、それとフリクセル」
「うん?なんか俺の呼び方に棘ない?」
本当に不思議そうな顔をしているフリクセルに他の面々は苦笑いになっている。
フリクセルの天然且つ毒舌なことは何となく会う度の言動で分かってきた。皆様お疲れ様です。
「パールもおはよう」
エルと私を挟んで座っていた王子は私にそういうと私を優しく撫でる。
春休みの間エルが王宮にいる時に癒し要素で王子に貸し出されたことが何回かあったので慣れた様子で撫でてくれる。はじめはこんな高貴でかっこいい人に撫でられるなんて居心地悪かったが、慣れとは恐ろしいもので今では不意打ちでない限りやりたいようにしてもらっている。なんたってこの体は撫でられるのが大好きなので至福の時間なのだ。かっこいい+かわいいで周りの人々の目の保養、そして撫る側、撫でられる側の心の保養。良い事しかない!
「そういえば、今年は留学生を預かるのが我が国の番だったらしい。昨日先に父上と母上と共に挨拶したが、学園長が今別室で挨拶していてこのクラスにも何人か来るらしいよ」
「そうそう。俺もすっかり忘れてた。あの事件のせいで身辺強化だのなんだの色々勝手が変わってそんなこと気にする暇なかったもんな」
「今年の春休みは皆、地獄でしたね…」
「同感だ…」
4人とも教室内の賑やかな雰囲気を背景に若干灰と化している。実情を見ていただけにお疲れ様ですとしか言いようがない。
少しの間遠くを見ていた彼らは気を取り直したように話し始める。
「今年は何人来ているんだ?その年によって留学に出す人数は国ごと違うんだろう?」
「ああ、今年は各国2人ずつ来ているよ。だから6人」
「父に軽く資料を見せてもらいましたが、爵位はバラバラでしたね」
「最高学年は3クラスだから2人ずつクラスに入れるのか?」
「さぁ?流石に私もそこまで関わってないからそれは先生方しか知らないよ」
そんな話をしているとこのクラスの担任の先生が入ってきた。昨年と同じく優しそうな年配の女性だった。
「皆さんおはようございます。今年もよろしくお願いします。さて、知っている人も多いかもしれませんが、今年はわが校で留学生を迎えることになっています。私たちのクラスにも2名の学友が加わります。短い間ですがお互いに切磋琢磨しあい、より良い関係を築いて下さいね」
生徒一同が気持ちの良い返事をすると先生は留学生を教室に招き入れた。
2人の内1人は男の子で柔らかそうなライトブラウンの髪に赤目、名前はアラン。利発そうな顔立ちでハキハキと話すその姿に好感をもった生徒が多そうだ。
2人目は女の子で柔らかそうなストロベリーブロンドのおさげに碧眼メガネの名前はカトリナ。ちょっと地味だけどよくよく見るとかなり整った顔をしている。こちらは男の子とは逆で緊張しているのか少しおどおどしている。
2人共自己紹介が終わると先生に促され空いていた後ろのスペースの席に着いた。
その後は大まかな今年の流れと、学校の校則の注意点などの説明で1限目は終了した。
授業と授業の間の小休憩になると先ほどの留学生2人がこちらへやってきた。
「ウルリク王子、昨日もご挨拶させて頂きましたがモーディグ国より参りましたドナート公爵家が次男アラン・ドナートにございます。王子と同じクラスで学べること光栄に存じます」
「私はティスナド国より参りました、クレメンティーネ候爵家次女カトリナ・クレメンティーネにございます。アラン様と同じく王子と学びを共にできること光栄に存じます」
「学校は対等である場所、そんなに畏まらなくていいよ。こちらこそよろしく」
「「ありがとうございます」」
「それと、彼らは私の友人だ。トビアス、エルランド、フリクセルだ」
王子がそう言い終わるとお互いに自己紹介をして少し談笑した後、先生の入室により授業が再開された。




