春の祭事6
「はぁー…落ち着きますね」
会場内の1室でようやく張っていた気を緩めることができた。会場の喧騒から離れ一息つく。
あの後フェルさんにエスコートされダンスホールから脇で待っていたエルと師匠と合流した。何人か話掛けたそうな人はいたけどフェルさんがそういう人たちに止められない様上手く逃げていた。
2人の元に辿り着くと、2人共用はとっくに済んでいたらしく休憩を兼ねて会場近くの個室で軽食をを食べることになった。ちなみに私は飲み物だけ。食べても味がしないことを発見したので時間つぶしの為に飲み物だけ摂取している。摂取したものは体内の魔石でどっかに飛ばされているらしい…勿体ない。
「…にしても目立ちましたね」
「ああ、いつも以上に視線が痛かったな」
「仕方ないわよね。パールを王子を除いた独身の結婚候補有力Top5の内3人がエスコートしてるんだから」
ブホッとは飲み物を噴射しなかった私はえらい。確かに3人とも見た目がいいけれど、まさかTOP5とは…明日からちょっとの間この体は封印かな…身の危険を感じるわ。
「師匠もフェリックスも多少行き遅れですが狙う令嬢等々はいますからね」
「ま、望んでそうなっておるのですから行き遅れと言われても文句ありませんが」
「そうね。特にどうしても結婚したいわけではないし。でも、エルなんかその言い方他の意を含んでない?」
「まぁ、私は婚約者候補ができましたけど、ね?」
フェルさんはかわいらしくコテンと首をかしげながらこちらを見た拍子に危うく飲み物を再度噴射しかけた。
「あら、あなた本当に本気なのね?」
「今回の件に関わる際にも話しましたよね?信じてなかったんですか?」
「まぁ…実感が伴わなかったって所かしら、なんせフェルだし」
「ミルもなかなかパール様を周りに見せつけてたのでライバルが増えたと思いました」
「あんたそんな時からいたのね」
「ええ。ないとは思いましたが、あなた方の他にパール様がダンスを申し込まれるのも癪でしたし、私と踊って終わらせる方が色々都合がいいでしょう?」
フェルさんの様子に師匠は苦笑いをするしかないようだ。っと他人事のように聞いている。私の話なんだけど。イケメンを茶菓子にお茶がおいしい気がする。
「そういえば師匠その話聞いていませんでしたが?」
「あら、そいえば言い忘れたわね」
エルの問いにあっけらかんと師匠が答える。
「ちょっとパールを参加させるにあたって身元とかの裏工作が必要で、そういうのは仕事上フェルが得意でしょ?だからお願いしたんだけど、初めは余計な仕事を増やさないで下さいって言われちゃったのよ。で、パールに惚れた話を思い出してそれをエサに交渉したら1発ok!その交渉材料がダンスの申し込み許可って訳」
「安易な理由で…」
「惚れた弱みとでも言いましょうか」
にっこり笑うフェルさんをエルは表現しがたい顔をしている。
「…フェルさんのお仕事って神官だけではないんですね」
「ええ、王家の諜報部の仕事もしてますよ」
「はぃ…?」
何となく神官で他の役割もあって大変そうだなーっというノリで特に何も考えずに聞いたらかなりの爆弾発言に被弾した。神殿の指導・管理以外に事務処理もしてるのかー程度の認識だったのに…師匠とエルの方をギギギっと音がしそうな位ぎこちなく振り向くと2人も予想外だったらしくぽかんとしている。
この話には突っ込まない! 色々気になることはあるけど、なんか墓穴を掘る気がする…。
「おい。フェルあんた…」
「考えなしに教えたわけではないですよ。ミルなら分かるはずです。それに彼女の秘密を知っていて私だけ隠しているのは卑怯でしょう?パール様は言いふらすような方ではありませんし、王家をどうこうしようという気もありません。なら私の事を信用していただく為にも、何かの時に力を貸して頂く為にもフェアに行こうと思いまして」
「ま、正論ね…」
「というわけで、パール様。何か秘密が知りたい時は私に相談してください。王家と大神殿の事は無理ですが、その他大勢の事なら大抵何とかなりますよ。ミルとエルランド様も含めて」
「「怖い事いうな!」」
師匠もエルも慌ててそう言ったが疚しいことがなければ大丈夫ですよっと流されていた。
なんだか怖いけど頼もしい伝手?を得たようだ。
その後も3人は楽しそうに文句を言いあっていたのでぼんやり天井に目をやる。
学校といえども豪華な作りでここは前世で言うロココ調と言う雰囲気。エルの住んでいる寮はヴィクトリアン調という感じか。奥の庭園は日本庭園っぽいし色々混ざってるな、なんて思いつつ久しぶりに魔力の流れを見る。そういえばエルが魔法禁止と言っていたので魔法無効の魔道具でも使っているのだろう。空気中に漂っているのは無属性の魔力だけだ。キラキラ光るその流れをぼーっと見ていると違和感に気づく。黒っぽい靄のようなものが漂っていてそれは闇の魔力と違い嫌な感じがする。量は多くないものの見ているとなんとなく不安になってくるそんな感じに耐えられず眉間にしわが寄る。
「おい、どうした?」
エルに呼ばれそちらを向くと3人がこちらを見ていた。
「エル精霊のメガネは今持っていますか?」
「ああ、今日も持ち歩いているがどうした?」
「魔力の流れに見慣れない物があるんですが見えますか?」
エルがメガネを掛けて辺りを見回して首を振る。
「もともとパールの目程の性能はないから無属性の流れしか見えなかった」
「そうですか…」
「で、何が見えるの?」
「黒い靄のようなものです。でも、闇の魔力ではないと思います。何となく嫌な感じがするので」
それを聞いた3人は難しい顔をして黙り込んでしまった。
もう1度靄に視線を向けると何となく濃くなっている…気がする。
「…もしかして呪術?」
師匠のその言葉に全員の視線が集まった。




