春の祭事5
振り向くとそこには先ほどまでと違う装いのフェルさんがいた。
前回あった時下ろしていた髪は後ろでちょこんと結われていたので雰囲気が全然違う。服装も神官のシンプルな服装からゴージャスな夜会用の正装に変わっていて、この人もまた超絶似合っている。
「ルー様?踊っていただけますか?」
優しく少し困ったように微笑むフェルさんに周りの女性の視線が集まっている。
「ええーっと…」
確認の為エルを見上げるとなんとも言い難い困った顔でこちらを見ていた。私と目が合うと私の表情を確認した後フェルさんに向き直る。
「フェリックス。久しぶりですね。踊る前に確認ですがルー嬢の事情は分かっていますか?」
「もちろん承知しております。微力ながら少々お手伝いさせて頂きましたので」
2人共何とも含みのある言い方だ。まさかこの視線が集まっているこの場で何を話ているんですか?なんて聞く度胸は皆無。私は黙って微笑むのが仕事だ。
その後も表面上はにこやかな会話に見せつつ何やらやり取りをした後エルがこちらを向いた。
「ルー嬢。フェリックスと踊り終わった後は打ち合わせ通りに私たちのところまで送ってもらって下さい。もし仮に他の方からの誘いがあったとしてもフェリックスが交わしてくれるはずなので、私はミルド様と一緒にあちらで待っています。では、フェリックス。くれぐれも失礼のないように」
エルからフェルさんにエスコートが変わるとエルは師匠の元へ歩いて行った。
「フェルさんは先ほどまで神官様でしたのに、お忙しいですね」
「いえ、私は基本パーティには出る必要はありませんが、あなたが出ると聞きまして出ることに致しました。美しい装いのあなたを見れたので出た甲斐があります。よろしければ私の花も貰って頂けますか?」
「あ、ありがとうございます。でも、私が貰ってしまっていいのでしょうか?感謝していただけるほど私は何もしていませんし…」
「おや?彼らはもう1つの意味を説明していないようですね。ま、あなたが知ったら受け取らないのが目に見えていたのでしょうけど」
「もう1つの意味?」
「このパーティ以外では感謝の意という意味になりますが、このパーティに限って自分の魔力で色付けしたソフィラの花を渡すと言う事は〈あなたに好意があります〉と言っていることになります。初めからいろんな方の視線が集まっていたのはただ単に見知らぬ令嬢と公爵家の長子2人ということだけではなく、あなたがあの2人のソフィラを髪に刺していると言う事は2人の好意があなたにあると示しているんです」
マジデスカ?冷や汗が出る。突き刺さる視線にも納得がいく。まさかそんな意味があるとは…ビアンカ教えてくれたらよかったじゃない!と盛大に脳内で文句を言いつつ、頭を抱えてしゃがみ込みたくなるのを必死に我慢する。しかし、顔に出ていたのかフェルさんの苦笑いが目に入る。
「ですので、私の花を貰うのはあなたです。言いましたよね?ひとめぼれしたって」
内緒話をするように少し身をかがめてそういうと、私の返事を聞く前に自身の手に合った薄紫色のソフィラ私の髪に刺し優雅に微笑んだ。
…本日イケメン過剰摂取によりもう退場したいです。私はモブですらないはずなのに…お腹いっぱいです。心臓が持ちません…許してください…。
私の心情など露知らず、顔を赤くした私を満足げに見たフェルさんから更なる追い打ちが…。
「この人形だとあなたの表情がよく分かる。私のせいで赤くなるあなたはなんともかわいらしいですね。このまま連れ去ってしまいたい位に」
先ほどから身をかがめているフェルさんは呟くように言ったのにはっきり聞こえた。前世も今世もこんなに甘い対応をされた覚えがないので反応に困る。キャパオーバーでもう無理です…。
「さて、今回はこの位でやめておかないと2人が怖いですからね」
おどけたようにそう言うとフェルさんはスッと少し距離を執った。
「あと、2人が花の事を言わなかったのはどんな形の好意であれあなたにこの花を身に着けて欲しかったからでしょう。今日の虫除けにこれ以上のものはありませんしね。この3色を身に着けたご令嬢を相手にできる度胸の男は早々いないでしょう。もちろん女性の嫉妬からも守られますよ」
好意ではなくお守りだと思えば少しは気持ちが軽くなるし、3人ともそこまで気にかけてくれたことが素直に嬉しい。今日だけ有効のお守りらしいがどうせこの姿は今日だけだろうし。素直にこの時間を楽しむことにしよう。
その後フェルさんとは世話話をちょこちょこしつつ楽しく踊れたのだった。




