春の祭事4
いつもあまり表情が変わらないエルが優し気に微笑んで私の手を取る。
しかし曲が始まるとこちらを凝視してなぜか真顔になってしまった。
「で、何を楽しそうに話していたんだ?」
「…え、えーと…?」
言えるわけない!エルばっかり見てからかわれたっなんて。
「…キョロキョロしすぎて揶揄われました」
ジッと見つめられると何となく居心地悪くて周りを見てしまう。
「嘘だな。一緒にいる時間だ長いんだ。何となくわかる」
なんで納得してくれないのかな…ホントの事なんて恥ずかしくて言えるわけない!
「私に言えないような話をしてたのかな?」
また笑顔に戻ってくれたがこれは本当は笑っていない奴だ…万遍の笑みの向こうに暗雲が立ち込めている幻覚が見える…そして逃がさないとでもいう様になぜか必要以上に近い!
遠目で見れば笑顔を張り付けた私と素晴らしい笑顔のエル。仲睦まじく見えることだろう。
しかし実際は猛吹雪にさらされている私。会場内にいるはずなのに極寒だ。
「まぁ、いい。今答えないなら帰ってからゆっくり、じっくり聞かせてもらうとしよう」
え…帰ったら休みたい。兎に角寝たい。しかもゆっくりじっくり聞かれるって恥ずか死ぬ…
今ここで白状するのと後で白状するのを天秤にかけ、今白状することに心の天秤がガタンと傾いた。2人の状態でで白状するなんて告白しているみたいで絶対無理。
っとは決めたもののやぱっり恥ずかしい…黙って少し下を向いた私をエルが見つめているのがわかる。もう、なんの罰ゲームだろう…早く済ませて解放されよう…やけくそだー!
「笑わないで下さいよ。ちょっと踊るのに余裕ができたので周りを見たらエルが踊っていて、それを目で追ってしまっていたら師匠にパートナーを見ないで他の男を見るなんてマナー違反だと揶揄われました!これが真実です!」
少しぽかんとした顔をしたエルはすぐに笑顔になる。先ほどとは違う本当の笑顔だ。なぜ?
「ルーは私の事が気になるんだね」
艶やかな表情にドキっとしつつも何となく居心地悪くて下を向いてしまうと体がふわっと浮いた。エルが前触れもなく抱きかかえたのだと分かったのだけれど驚きすぎてされるがままになる。そんなを見上げながら私をいたずらが成功した子供のように楽しそうにクシャっと笑う。くるっと1回転した後に床に降ろされたが先ほどの笑顔を直視した私の心臓は今までにない位働いていて…できることなら部屋の隅に行って落ち着きたい。いや、今すぐ行かせて!
ヴォルフリートさんとビアンカの教えなど思い出せないほどにテンパりながら踊れる技術があるはずもなくステップを間違えて体が傾く。
(あ、転ぶ…!)
目を閉じて衝撃を待つと逆の方向に重力を感じた…お尻に衝撃が来ると思っていたらなぜおでこに?恐る恐る目を開けると壁?服?
「ターンしろ。それで誤魔化せる」
言われるがまま慌ててダンスのステップを踏む。一瞬の出来事だったのか周りが大きくざわつくことは無かった。
段々冷静になって見上げると何事もなかったかのようにエルがいる。
「一体どんな魔法で助けてくれたんですか?」
「うん?魔法なんて使ってないぞ。そもそもこの会場は魔法禁止だ」
「え?でも、転ぶと思ったのに転びませんでしたよ?」
「ふふ、相当テンパっているんだな。それとも私がルーを支えられないほど非力だと思われているのか?」
「???」
「要はただ単に強引に引っ張って抱き留めただけだ」
「は?」
そういえばさっき目の前に壁が服着てた…あれはエルの体だったのか。なんか爽やかないい匂いがする壁だと思った…って違う!抱き留められるとか!キャパ超えてるんですけど、どうしろと?!
「その…あんまり凝視しないでもらえるか…」
心の中で右往左往していたが顔はエルを見つめたまま固まっていたようで、それが恥ずかしかったのか耳が少し赤い。そしてきっと私は全体的に真っ赤だろう。
残り少しの曲を無言で踊る。
曲が終わるとそのままエルにエスコートされ師匠の下へ向かう…はずだった。
「ご令嬢。もし宜しければ私とも一曲お願いできますでしょうか?」
後方から呼び止められビクッと立ち止まる。まさか他の人に声を掛けられるなんて思ってもいなかった。公爵家の人にエスコートされていた素性の分かるぬ私に声をかけてくる度胸のある人などいないと言うのがヴォルフリートさんの見立てだったがそうではないらしい。
意を決して振り向くと、思いもよらぬ人が立っていた。
神様!なんで今日は私の心臓に負担ばっかりかけるのですか!




