春の祭事3
会場に入ると視線が突き刺さる。
もしやこのお願いは鬼門だったのでは?見目の良い公爵跡取り2人に連れらている身元不明の見知らぬ少女…視線が痛いのは当然で…胃が、胃も痛い。もっと違う恩返しにしとくんだった!
心の中はわちゃわちゃしつつもヴォルフリートさんの教育の賜物で外面は微笑を浮かべて2人に連行…エスコートされている。心の中で悲鳴を上げつつヴォルフリートさんの教えを繰り返す。
(なるべくしゃべらず、常に笑顔。なるべくしゃべらず、常に笑顔。なるべくしゃべらず、常に笑顔…)
メインのステージらしきものの近くに着くと丁度良く夜の部開催の旨が響き渡った。
続いてこの前あった神官長とフェルさん達神官がステージに上がり、神官長による祝詞が捧げられた。
「では、皆様。今宵は新たな春の息吹に感謝し、今年も穏やかな年であることを願い本日をお楽しみください」
神官たちが下がると司会者の合図で音楽が鳴り出した。
「とりあえず、挨拶とダンスを済ましてしまおう」
師匠の合図とともに手を取られ王家の面々へ挨拶に行く。
人の波を掻き分けてメインステージの近くに滞在している彼らの元に着くと初めて王子以外の王家の人を目にする。
国王様も王妃様も見目麗しく。王子には彼らの面影がある。第二王子は母親寄りの可愛い顔。王子は王様寄りの端正な顔立ちだ。何を言いたいかというと王族オーラ凄い…。
「おお。ミルド。今年はしっかりパートナー連れで来たな」
「どこかの誰かに強制されましたから」
にっこりした師匠から圧を感じるのはなぜだろう。
「年下の親類を心配するのは当然だろ?で、その子が例の子か?」
「はい。彼女はルーと申します。事前にお話しした通り隣国からお忍びですので今回は家名は伏せさせていただきます。丁度友人から知り合いの娘の滞在先の推薦をお願いされまして。陛下のお気遣いもあり今回の祭事に同伴頂きました」
師匠の嫌味に動じずニコニコしている陛下がこちらを見る。
「お初にお目にかかります。ルーと申します。貴国の素晴らしい祭典に参加でき大変嬉しく思います」
この日の為に特訓したマナーを総動員して恭しく礼を執る。
「うむ。楽しんで行ってくれ。ミルド、エルランドも客人をしっかり楽しませるよう」
2人が礼を執り慌てて私も頭を下げる。
国王様の前を辞した後はダンスが行われているスペースへ移動する。
「さて、とっととダンスも済ませちゃいましょう!」
「では、私は師匠たちが踊っている間に知り合いに挨拶を済ませてきます」
そう言ってエルは人ごみの中へ消えて行った。いつも一緒にいるエルが一時的に離れただけなのになんとく不安になってしまうのはこの慣れない空間のせいだろうか。
「では、お嬢様。1曲お付き合い頂けますか?」
曲が終わると同時に師匠が茶目っ気たっぷりに言う姿はとても様になっている。
「はい。喜んで」
推しと言えるほど知らないが、ドストライクのイケメンからダンスを誘われるこのシーン…叫びたくなるのを我慢して今度はビアンカの教え〈何が何でも微笑んでいろ!〉を心の中で繰り返す。
曲が始まると慣れた様子でリードしてくれる師匠。ヴォルフリートさんのスパルタ特訓で鍛えたのでちゃんと踊れている自分に満足する。
「短期間で頑張ったにしては上出来だ」
師匠の賛辞に口角がさらに上がる。
少し余裕ができたので周りを見ているとエルが他のご令嬢と踊ってる。少し頬が高揚している令嬢を見てモヤモヤする…
「私と踊っているのによそ見するとはいい度胸だな」
引き寄せられビックリして師匠を凝視する。
「ルーは私が好みだという割にいつもエルばかり見ているな。少し意地悪したくなるんだが…」
妖艶に微笑んでそういい終わるや否や体がグッと傾き、師匠が間近に迫る。
「ふふ。これでしばらくよそ見は出来まい」
ヒエーっと心の中で悲鳴を上げる。色気がやばい!顔近い!いつもと違う男性のしゃべり方で迫られて心臓止まりそう…抗議したいが誰がどう聞いているかも分からない状況でできるわけなく。そういう技術に疎い小心者の私は火照る頬を隠すため少し下を向くしかない。そんな私をからかう様にさらに近づいた師匠が耳元で囁く。
「真っ赤になっちゃってかわいいわね」
「………もう勘弁してください……」
白旗上げると曲の残りを師匠はそれはそれは楽しそうに踊っていた。
精神的に疲れを感じているが微笑みを張り付けたまま曲の最後に礼を執るといつの間にかエルが近くに来ていた。
「ご令嬢。次は私と踊って下さいますか?」
あけましておめでとうございます。勢いで書き始めたこの作品。2020年は皆様にご拝読頂き、更にブックマークや評価まで頂き大変うれしく思っております。感謝の意を込めて三が日は毎日更新(20時)したいと思います。
今年も幽霊令嬢を楽しんでいただけたら嬉しいです。




