春の祭事
やっと訪れた春の祭事当日。そう気分は”やっと”っとつけたくなる程疲れていた。
あれからヴォルフリートさんとビアンカによる鬼の様な特訓。
当初は学校で習うとのことだったが、何事も内密に動いた方が良いと言うヴォルフリートさんの提案によりマナーとダンスをヴォルフリートさんが、パーティでの女性の在り方等女性の常識をビアンカが担当してくれた。ビアンカは飴と鞭を上手く使って時に姉のように時に鬼のように指導してくれた。ヴォルフリートさんは…黒かった。私の周りにいる男性は黒い笑顔が上手で怖い…しかもなんとなくヴォルフリートさんは別格。優しい笑顔に狂気を乗せるってあの人何者だろう。泣き言言ったら何か怖いものを見そうでヒーヒー言いながら頑張った。何でもできるあの執事オソロシイ…。
エルに愚痴ると、ヴォルフリートを怒らせると地獄を見るぞっと的確なアドバイス?を頂いた。蛇足だがエルが怒らせた内容は教えては貰えなかった…従者も従者なら主人も主人で黒い笑顔の使い方がお上手で。
しかし、あからさまに怒ってくれないから反抗できないとかストレス以外何でもない。簡潔に言えば質が悪い。ヴォルフリートさんの〈この位パール様ならかんたんですよね?〉with黒い笑顔…思い出しただけでも身震いしそうだ。何回か精霊の泉に癒しを求めに行ったのは不可抗力です…。みなも様は他人事とばかりに楽しそうに愚痴を聞いてくれたな…っと意識が遠くに行きそうな位には頑張った。
という訳で今日までよく頑張った自分の為に今日は楽しむ!っと言っても今は昼の部。
昼はキツネ型なのでエルに付いてしか周れないのがちょっと残念だけど、校舎入り口地付近にたくさんの露店が出ているのでそこに来ている。
「エル!あそこの串焼きもお願いします。あとは…あ!あのカップに入っているのも」
「おい。買い過ぎではないか?」
「フフ。パール様は本当は食べることが好きなのですね」
朗らかに笑うビアンカと呆れたような顔のエルと露店を周り美味しそうなものを買い、お気に入りの日本庭園エリアへ向かう。
「ここまでくると流石に静かだな」
学園の端にあるので今日の賑わいでもここまでは聞こえてこない。いつの間にかビアンカによって手早くテーブルとお茶の用意が済んでいる東屋で先ほどの屋台飯にありつく。
「昼の部は満足できただろ。後は夜の部でお手並み拝見と行こう」
「う…大丈夫だと思いますが…頑張ります…」
当日のお楽しみと言う事でビアンカとヴォルフリートさんしか私の上達ぶりを知らない。一応合格のお墨付きをもらっているけれど小心者の私は心配でたまらない。
「この後ですが、寮に戻りその後にエルランド様と一緒にミルド様のお屋敷に行きパール様の準備をすれば宜しいでしょうか?」
屋台飯を貴族様風にナイフとフォークで食べながらエルが頷く。かぶりつくのが醍醐味だと思ってしまうのは私が平民気質のせいでしょうか…。いや、それを言ったらキリがないか…。
「でも、いきなり女性が館に現れて大丈夫なのですか?」
「ああ、師匠はいつも突拍子もないことをしでかすからあの家の者は慣れているらしい。一応友人の友人の妹を春の祭事に招待したから部屋を貸して準備させるとは言っているらしいが。ま、あっちは師匠が何とかするだろう」
あれ?なんだかんだで買ったご飯の大半がエルのお腹に消えて行ってるような気がするんだけど…ま、いうなればエルのお金だし、ね。
私がエルに負けないように食い意地を張って食べている間にビアンカとエルによってこの後の打ち合わせがされていた。
そして打ち合わせ通り寮に戻って主にビアンカの準備を済ませるとエルと共に師匠の元へ向かう。入り口で執事の男性に挨拶をされた後以前訪れた師匠の執務室に通された。
しばらくすると先ほどの執事を連れて師匠が現れた。
「御待たせ。ライは下がっていいよ。エルとビアンカは少し待ってて。彼女を連れて来るから」
ライと呼ばれた人はそのまま下がり、師匠はどこかへ消えてしまった…っと思ったらすぐに帰ってきた。
「演技ですか、師匠」
「そうよ。だって私たちが何もしてないのに部屋に新しい見知らぬ女性がいるわけにはいかないでしょ。ビアンカも今日はよろしくね」
「はい。誠心誠意頑張らせて頂きます」
「じゃ、エル人形を出して。パールはすぐに入って頂戴」
エルは時空間収納から人形の入った箱を取り出し、私は人形に入る。
「じゃ、ビアンカとパールは付いて来て。エルは準備ができたらいらっしゃい」
エルは子狐パールを抱えて帰っていき、私たちは別室に案内された。
「何か必要なものがあったらその辺の誰かを使いに寄越して。思いつく限り用意はしてあるけど。私も用意があるからあとでねー」
そう言って師匠は私とビアンカを1室に放り込むとサッサと去っていた。
「さて、パール様お覚悟を」
うん?やる気なのは分かるけど、ビアンカの発言が物騒に聞こえるのはなぜ?
ビアンカの宣言通り端から端まで綺麗に仕上げられていく。とは言っても人形の体は標準体型なので可もなく不可もない。究極美人でスタイルが良いと言う訳ではないので見目のいい男性二人の前に霞んでしまうのではと懸念していたが、寧ろ目立たず、騒がれずが1番なのだと気づいた。…のもつかの間ビアンカの化粧技術に感嘆する。化粧前がその辺に入そうな子ならば化粧後はちょっと綺麗な子にはランクアップしたと思う。用意されていたドレスはティールグリーンのドレスにパールのアクセサリー。ゴテゴテしたのは止めて欲しいとお願いしただけあってシンプル且つ高級感のあるデザインを選んでくれた。
「とても美しいですよ、パール様。綺麗な方を着飾るのはいつでも楽しいですね」
「そ、そうですか?ありがとうございます、ビアンカ、さん」
心の中のビアンカ呼びが思わず出そうになったのは秘密。
全て終わった後に改めて自分自身を鏡で見るとちゃんと良いところのお嬢様に見える。
2人は何と言ってくれるだろう。
そんなことを考えているとタイミングよくドアがノックされた。




