神殿にて
「そろそろ時間か」
そう言ったエルが帰る準備を始める。いつもより早く帰ることにまた何か用事でもあるのだろうと深く考えずに付いて行く。
一旦寮に着くとヴォルフリートさんにカバンを渡しダイニングに向かうとビアンカがお茶をサッと出す。私には適度に暖かいミルクが置かれた。
エルは一口紅茶に口を付けた後に話し出した。
「さて、今日はこれから以前に面会を申請した神殿へ行くんだが理由は覚えているか?」
「確か、私のこの状態について何かしらの情報があればいいなみたいな感じでしたよね?」
「まぁ…簡単に言えばそうだな。一応この地位だから宛は神官長だったがたぶん副神官長が対応すると思う。神官長は高齢で通常業務で手一杯。最近は春の祭事で忙しくお体の調子もよくないと聞く。兎に角、副神官長にどこまで話すかは人となりを見てからパールが決めてくれ。君の状態は書庫の書物から見つけたと言う事にして説明する」
「わかりました。頑張って判断します。エルの知り合いではないんですか?」
「一応知ってはいる。先に私主観の情報を知りすぎるとパールの直感や判断基準が鈍るから気になったことは後で聞いてくれれば答える」
コクリッと頷くとエルは再度お茶を飲み腰を上げた。
魔法とはなんと便利なものでいつもの寮の転移場から神殿前に直接行けるらしい。
そうはいっても転移を使える人は少なくはないが、多くもないらしいので通常の手段としてはまだ馬車などを使う様だ。また、公式な訪問の場合は威厳を誇示する為にあえて馬車で赴くこともあるという。
神殿の入り口に着くと外観は思っていたよりもシンプル。しかし、近づいてよく見ると細かい細工がされていて、この大きな建物全体に施してあるとは流石と言える。
中に入ると優しい色の色とりどりの丸いランプが温かく迎え入れてくれた。奥に進むと天井から大きな白い幕が飾ってありそこには大きな図鑑の様な絵柄が草木と共に描かれていた。
『あの、これは?』
『神話の話はしてなかったか?今は時間がないから単刀直入に言えばこのヴィグ国に加護をもたらした知の神の象徴がこの本で、この国の神殿ではこれを崇めている』
話ながら足を進めていたエルは神殿の奥にいた神官に声をかけると応接室のような場所に案内された。
案内される間、案内役の神官はエルに抱えられていた私をチラチラ見ていた。やっぱり魔獣が神殿に入るのはまずいのかな?でも、エルならそんな非常識なことはしないはずだし…
『どうした?』
この人どこかに疑問感知センサーでもついているのだろうか?いや、装備されているのは機微センサーか?
『あ、いえ。神官さんがチラチラ見てくるので私まで入って来て大丈夫なのかと今更気になりまして
『それなら大丈夫だ。前もって知らせてあるし、パールは白いから』
大丈夫な理由が白いからって?
顔に大きくどういう事?と書いてあるだろう私を見てエルは続ける。
『動物自体はダメとは言われていないが、連れてこないことが常識になっている。でも、白い動物は神の使いと言われているから祭事で祭壇に上がることすらある。パールはホワイトフォックスだから珍しかったんだろう』
この世界も前世も神の使いは白いのかっとそんな事を思っているとおじいちゃんと白いフードを目深に被った人が部屋へ入ってきた。
「エルランド様お久しぶりです。御待たせして申し訳ありませぬ。なんせ老いぼれ。歩くのも一苦労でして」
老人ジョークを交えながらおじいちゃん祭司が挨拶をする。
「いえいえ。神官長様はお忙しいと聞いておりますので、そんな中お時間を作っていただき有難く存じます」
「いやはや、大きくなられて。春の祭事が近くなければ私が対応したいところですが、色々立て込んでおり、泣く泣く副神官に対応をお願いしました。しかし、久しぶりにエルランド様にお会いしたく、年甲斐もなく我が儘をいってご挨拶だけでもと参りました。副神官の彼はエルランド様も知っての通り多岐にわたる知識がございます故お役に立てるかと」
「お心遣い感謝いたします」
「では、申し訳ありませんが早々に席を立たせて頂きます。今度お会いするときはもっとゆっくりお話しできればと思います」
「私も次回を楽しみにしております。お忙しいと存じますがご自愛ください」
おじいちゃん神官長さんは優しく双眸を緩めエルをみた後、外で待機していたであろう他の神官たちと部屋を後にした。
「では、本題に入りましょうか。エルランド様」
フードを目深に被った人が単刀直入にそう告げる。
「その前に神官長が居ないのであればそのフードは取っても良いのでは?顔が見えないのは何となく居心地が悪い」
それを聞いたその人はおかしそうに笑った後フードを取る。
「これでよろしいですか?エルランド様」
声から察するに男性だと思っていたが、どちらかと言うと中性寄りの綺麗な顔がフードの下から現れた。ボブのサラサラ銀髪に紫の瞳。新たなイケメンの登場だ。




