真相3
何をやってるんだ彼女は…。
「家の者より知らせが参りまして、お父様が王宮に監禁されているらしいのです!エルランド様のお力でお父様を開放していただけませんか?!」
彼女は家の人の話をちゃんと聞いたのだろうか?それとも家の人達は詳細を知らないのだろうか?
「お父様はきっと誰かに嵌められたのです。何が原因かは知りませんが、お父様が捕まる理由がありません!」
そこまで黙って聞いていた師匠が話に割って入るとその隙にエルはヴァレリアからそっと離れた。
「ヴァレリア嬢。少し落ち着きなさい。なぜ君がここに?」
「ミルド様。急を要した為ご無礼をお許しください。父の元へ向かう途中、城の者がエルランド様がミルド様を訪れていると話しておりまして、父の開放にお力添えを頂けないかとこちらに参りました」
淑女の礼を取り、普段よりも100倍丁寧な態度で受け答えするヴァレリアは少々奇妙に映る。
「なるほど。でも、エルにお願いするのは筋違いではないかな?」
不思議そうな顔をしているヴァレリアにエルが大きなため息をつき、師匠何とも言えない顔になり私は固まるしかなかった。
本当にこの人は…自分のしたことがどれだけの事か分かってないのか。
「なぜ君が私に頼れないか、明白だと思わないか?それは私が君の父親の逮捕に関与しているからだ」
彼女にしてみればまさかの発言につい先ほどまで縋っていたエルを睨んだ。
「なぜそんなことを!エルランド様はお父様と面識がないじゃありませんか!」
「面識は今日までなかったね。彼が私のペットを誘拐するまでは、ね」
そこまで聞いてやっと彼女の顔色が変わった。
「何をおっしゃってますの?なぜお父様がエルランド様のペットを誘拐するのです?」
「きっと君なら分かると思っていたんだけれど全て言わないとダメなのか?」
エルが冷たくヴァレリアを見る。
その様子を見てもまだ何か言おうとするヴァレリアを師匠が遮った。
「ま、そう言うわけだから。君がここに来てくれたのはある意味都合がいいんだ。君の父君と一緒に調査が終わるまで貴族牢にいてもらうよ」
「なぜ私まで?!私は何もしておりません!牢に入れられる言われはありませんわ!」
「おや?おかしいな?調査の結果、君が学園内の情報、主にパールの事と警備面だね、それを君の父親に流してその情報に基づいて計画がされたと言う事までわかっている。そもそもパールの始末を君が父親にお願いしたことが騒動の始まりと言う事なんだが?君が違うと言うならその理由を述べてみるがいい。証拠もすべて揃っているが君の言い分を聞こうか。おい、彼女を別室に連れていけ」
師匠が事務的に告げると部屋の外に集まっていた兵が彼女に向かって行く。
悔しそうに下唇を噛みしめ俯いていたヴァレリアが突然足早にこちらに向かってきたかと思うと思いっきり蹴り飛ばされた。
「な…?!」
驚いたエルの方を向き鬼の形相で歩み寄る。
「あんな役に立たない毛だらけの獣をなぜ私より優遇されるのです?!私の邪魔をする獣などどこか遠くに放ってしまうのが当然ではありませんか?!私は、それでも、私の優しさで殺さなかったのです。なのに、なぜこの様に貶められなければならないのです!」
蹴られた場所がジンジンと痛むが何とか体を起こし彼女の方を見る。
もう言っていることがハチャメチャだ。
ヴァレリアはエルの近くに立つと歩みを止め、今回は縋りつくことなく更に語尾を強め鬼の形相で言い放つ。
「あなたもあなたです!この私が何度も誘って差し上げたのに一向に頷かず、あの毛玉ばかり構う!社交もできない変わり者と言われるあなたにこの私が!声をかけてあげたのに!あなたは私の自慢できる夫となるのが幸せなのに!私の全てで公爵家を支えてあげようと思っていたのに!あなたは私に地位とその見目で貢献できたのに…!その機会をふいにするなんて。なんて馬鹿な公爵跡取りなのかしら。役立たず」
そこまで言うと勝ち誇ったように笑ったヴァレリアに私の中の何かがプッツンと切れた。
『調子に乗るなよ。世間知らずの馬鹿お嬢様が』
ヴァレリアに念話を飛ばすと彼女は驚き、辺りを見回す。同時に彼女の目の前に氷の壁を出現させる。 驚いて2、3歩下がった所に今度は背後に。そして左右にも壁を作り最後に上下も塞ぐ。
慌てたヴァレリアが中から火魔法で壊そう試みているが、構わず厚みを増して中のスペースを減らしていく。彼女より少し広いスペースを残したところで彼女の前に出る。氷の箱のせいで少し高い位置になってしまった彼女がそんな私に気づきこちらを見る。
『これ以上エルを馬鹿にするようならおまけに水を入れて差し上げましょう。毛玉も役立たずではないんです。もし今後エルに害をなすことがあれば今回以上の報いがあると覚えておくこと。エルが悲しむようなことがあればあなたは倍以上苦しむことになるから覚悟しておきなさい』
最後の脅しとばかりにウォーターボールで氷の箱を包み床から引きはがし宙に浮かせる。
寒さのせいかあるいは脅しが利いたかヴァレリアは両手を握りしめ声もなく震えている。
「師匠。この人もう見たくないんで廊下に出します。後はお好きにどうぞ」
浮いた彼女を廊下へポイッと出しつつ振り返って師匠にそう告げると師匠はハッと我に返り、同じく師匠の声で我に返った兵に他の部屋に運んで解凍した後貴族牢に連れて行くように指示した。