解決へ5
視界がクリアになるとそこはあの部屋ではなく森の中。
あれ?間違えた?と首をかしげていると後ろから聞きなれた声がした。
「戻ったか」
「あ、エル。ここはどこですか?屋敷にいるとばかり思ってました」
周りを見るが木ばかりでいまいち土地勘が掴めない。
「あの家からさほど遠くない森の中だ。そろそろかと思って近くに兵を呼び寄せてまた転移で部屋に戻るところだった。そちらの状況は?」
「師匠と一緒に雇い主の場所に転移して後は師匠が何とかするそうです。男たちは私たちの件の他に色々話をする様だったので、師匠が捕まえるでしょうからこちらに戻ってくることは無いと思います」
こちらの報告を聞き終わるとエルはいたずらっ子ぽく笑う。
「では、こちらも始めるとするか。私はこのまま兵の指揮を執る。パールは作戦通りにやればいい。身の危険を感じたら容赦する必要はないが、できれば水と地の魔法だけで凌いでくれ。君の能力は出来る限り隠したい。無理だけはするな」
コクっと頷くとエルは優しく頭を撫でてくれた。自分でも気づかないうちに緊張していたようだが、フッと肩の力が抜けたのがわかった。
行ってきますっと言ってアレクサンドラ様達のいた部屋に転移する。
狐パールの部屋に移ると昨夜外を見張っていた男に交代していた。…この男もまた寝ているのだけれど…ここは仮眠室なのだろうか?
何となく呆れてしまったがこちらにとっては都合がいい。
体に戻るとグーッと伸びをする。次はウォーターガンで檻を壊すと大きな音を立て檻の上部に穴が開き水が部屋中に降り注ぐ。
眠りからたたき起こされた男は驚いて辺りを見回し、目を丸くしてこちらを凝視した。
「なんで檻が壊れている?!なんで水浸し?!」
頭が働いていないのかあまりにも挙動不審で可笑しい。そんな男を眺めながら機嫌よさげに尻尾を振る。
「と、とにかく!お前、良い子だからそこを動くなよ」
そういうと男は1歩ずつゆっくりこちらに近づいて来る。あと少しのところまで来ても動かない私を見てホッとしたように笑い手を伸ばす。
男がドアから十分離れたことを確認した私は男の横を素早く通り過ぎ水魔法で扉を派手に壊す。
数秒唖然としていた男だがハッと正気に戻り何か叫びながら後を追いかけて来る。
下の階に降りると騒ぎを聞きつけて他の男たちが大部屋から出てくるところだった。
男たちに私の存在を確認させると運よく開いていたキッチンへの扉を通り、物陰に隠れる。
男たちが全員キッチンに入ったのを確認して近くのテーブルに飛び乗り、男たちをおちょくるようにゆっくりテーブルの上を歩く。
私を確認した男たちとキッチンにいたシェフはテーブルを囲むようにゆっくり配置を変えていく。男たちがフォーメーションを完成させる前に私は一気に裏口へ駆ける。自分で言うのもなんだが、かなり俊敏な私を捕らえるのは相当難しいと思う。
森と屋敷の境目にある高い茂みの前でくるっと振り返り男たちを見る。彼らは慌てて裏口から出ようとゴタゴタしている所だ。その様子を観察しているとリーダーらしき男が近づいてきた。近づくにつれ歩調を緩める。他の男たちは私を囲むように少し離れた場所に待機している。
念のため魔法を放つ準備をしておく。
「よーし。良い子だ。そのまま動くなよ」
優しく話しかければ逃げないと思っているのだろうか?
リーダーらしき男がそう言い終わると茂みから聞きなれた声が聞こえた。
「そうだな。そのまま動かないのが賢明だ…お前がな」
そう聞こえるや否や私の両側の茂みが派手に切り刻まれ突風が吹いた。一番近くにいた男はひっくり返り、他の男たちは飛んでくる物から顔を庇っていた。
そんな彼らを観察していると開いた空間からエルと多数の兵士が出て来て男たちを囲う。その様子を男たちは呆気に取られた様子で動けないでいる。
「さて、君たちには城でたっぷり事情を聞かせてもらうよ。私の大事なペットに手を出したのだからただで済むとは思わないことだ」
「とんでもない誤解です!これはある高貴な方のペットで私たちが世話をするように頼まれていたのです。あなた様のペットではありません!」
往生際が悪いというか、悪役の典型的なパターンというか。もう潔くすみませんでした!っと言ってしまった方が楽だろうに。
そんな男の様子をエルは冷たい目で見ている。
「言い訳はやめた方が良い。既に公爵、伯爵令嬢を救助した。彼らと共に消えた私のペットだけがここにいない訳ないだろう。それともその言い訳を続けて更に重い刑を望むのなら好きにすればいい。公爵家の力で簡単にその望みは叶えてあげられるからね」
エルの脅しを聞いた男は顔を青くして黙った。流石にこれ以上はまずいと思ったのだろう。
エルの指示で男たちは全員逮捕され、中にいたメイドも連行されていった。
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