解決へ3
部屋に着いて辺りを見回してなんだか気が抜けてしまった。
出た行った時と変わらず男が1人扉の近くにいるが、壁に寄り掛かって鼾をかいて寝ている。
余りにも緊張感がなさ過ぎて敵ながらよく今で捕まらなかったなっと思う。それとも今回が初めての悪事なのだろうか?普通、公爵令嬢を不本意とは言え攫ってしまったのなら捜索隊が出るのは明らかで、こんな寝ている余裕はないはずでは…それとも雇い主に全幅の信頼を置いているのだろうか?いや、私がビビりなだけでこういう事をする輩は総じて図太い神経を持っているのか…
一人で悶々としながら狐パールの体を確認する。目視では特に変化なし。きっとあの男は私が行動している間ずっと寝ていたのだろう。
エルの言う通りなら今戻ろうと思えば戻れるのだけれど派手に檻の魔道具を壊して男に騒がれても面倒だ。かといってもしもの為に今のうちにきちんと動けるか確認しておきたい。少しの間考えた後ゆっくりやればバレないよね?と言う結論に達する。もし起きたなら眠らせてしまおう。
檻に触れると魔力が魔道具に吸い寄せられていくのが見える。まぁ、魔力の塊とも言うべき私にはなんて事のない量で寧ろ魔力が吸われていく様子が綺麗だと思う。ほんの数秒後魔力が中で渦巻いたかと思うと小さな亀裂が入った。慌てて檻から手を離すと亀裂から中に溜まった魔力が抜けて宙に帰っていく。パキッと音が響いたことで扉近くの男が起きてしまったのではと恐る恐る振り返るが、そこには何事もなかったかのように寝ている男が見えた。
なんだかなーっと思っていると全ての魔力が抜け切ったのでもう1度檻に触ると魔道具に魔力が入って行くものの亀裂から常に流れ出すような状況になっていた。これはもう使えないってことで良いだろう。
体に戻って異常がないか再度確認する。魔道具がこれ以上割れて爆発でもしたらどうしようかと思ったけれど特に何も起こらず、すんなり体に戻ることができた。
体に戻るとやはりなんともないようでホッとする。仮の体とは言え超の付く程のお気に入りだ。大事なものに変わりはない。
また元の態勢に戻って体から出る。エルはまだ帰ってこないだろうから、一応屋敷の中を一回りして来よう。…にしても扉の前の男、熟睡しすぎではないか?私のしている事はほぼ無音とは言え、目の前の獲物が起きて動いたのを感知しないなんて緊張感ゼロだ、いやむしろマイナス。魔道具に亀裂はいった音で少しくらい眠りが浅くなったとかないのか。…いや、仕事がやり易いから有難いと言うことにしておこう。
屋根裏部屋を後にすると下っ端勢2人が下の階の大きな部屋から外を見張っている他はいたって静かな夜だ。
することもないしアレクサンドラ様達がいた部屋のベランダに戻ってエルを待つ。
空が少し白み始めた頃エルが屋敷に戻ってきた。
「何か変わったことはあったか?」
「いいえ。皆さん寝ているだけで特に何も。私の体も何の異変もありませんでした。そちらはどんな状況ですか?」
「とりあえず、ここがどこか分かったから師匠に報告してきた。ちなみにここは王都の隣町の街外れの館だ。師匠が所有者の割り出しを進めているし、隣町にはもう兵が着いているだろう。これで朝になって屋敷の主が動き出したら君はそちらに付いて行き、師匠に依頼主の場所を報告。私は君が戻ってくるまで幻影の維持兼操作だ。君が戻り次第こちらも確保に動く」
不謹慎であるのは百も承知だけど、ちょっとワクワクしてきたぞ。
「あちらは師匠に任せるとして、こちらはどうやって確保するんです?」
「こちらから突撃すると裏口から逃がしてしまう可能性も有る。…ところで君の体は自由に動ける状態にあるか?」
静かに頷くとエルは楽しそうにニヤリと笑い作戦を説明してくれた。
私の感想は…楽しそう!だ。アレクサンドラ様達の安全が確保されているのでこうも楽しんでいられるのだろう。そして緊張感のない男を目の当たりにしているせいもあるだろう。
間もなく作戦開始だ。
何事もなくスムーズに終わるよう全力を尽くそう。