解決へ
「パール。あなたの持っている情報を全て教えて頂戴」
師匠に促され、館で仕入れた情報を共有する。
私の連れていかれた館にいた人数は確認できたのは8人。雇い主とその執事、メイド、シェフ、下っ端4人。狙いは私であり、アレクサンドラ様たちが逆に巻き込まれた形であること。館の主はアレクサンドラ様を異様に気遣っていた事。彼女たちをどうするかは明日の昼には決まり事が動いてしまうこと。
「依頼主の名前なんですが、うろ覚えなんです。トリスタンみたいな名前だったんですが、それが苗字なのか名前なのかは分かりません」
「似たような名前もそこまで多い名前じゃないからすぐ判別できるはずだ」
「そっちは私に任せてもらっていいわ。問題はどうやって捕まえるかよね…。朝になってパールの幻影でどれだけ騙せるかも分からないし。なるべく早めに動きたいわ。ところであなたの体はどうしているの?」
師匠がいつになく真剣な表情で尋ねる。
「私たちは薬を嗅がされたようなので眠っていても不自然ではないので寝ている形で檻の中にいます。…そういえば何か魔法を封じる様な魔道具が檻に付けられました。私が魔法を使えることを知っている様です」
「いや、魔獣は魔法が使える者が半数位いる。念のためではないか?」
「いいえ、雇い主が”あの魔獣は魔法が使えるらしい”と言っていましたから私に限定されています」
「考えられるのは校内に情報提供者がいた、若しくは私達が捕まえた密猟者が何らかの手を使って関係者に連絡を取った、か」
王宮にとらわれている彼らにそんなことができるのだろうか?
そのことが顔に出ていたのか師匠が何か書いていた手を止めて苦笑いで話し出す。
「王宮と言っても清廉潔白な人ばかりではないのよ。王宮勤務だからこそ見栄を張り身を亡ぼす者もいる。大抵は誰にもばれないようにしているから周りは誰も知らないわ、調べなければね。そういう人は誘惑に弱い。悪いとわかっていても自分の汚点を隠すために大なり小なり更なる汚点を作ってしまう者もいるの」
そういうことか。どうやってかは分からないけどそういう人を見つけたとしたら密猟者の彼らなら私を売った分け前をチラつかせて協力させることはできるだろう。
「しかし、師匠悠長に調べていて間に合いますか?」
「あら、私のコネを侮らないでくれる?」
ニヤっと笑い、先ほど書いていた何かを封筒に入れ封蝋を施したら封筒が消えた。
無詠唱…私もできる様になるかな?
「パールの持ってきた情報は私が集めたことにするわ。場所さえ分かれば簡単にできることだから。トリスタンという人物の居場所については、やっぱり簡単なのはあなたに雇い主に付いて行ってもらうことかしら。場所が判明次第私の元へ転移。その場を押さえるのなら言い逃れされても仮確保で王宮まで連れて来れるし。私のコネが洗いざらい情報を入手してくるでしょうから、証拠を突き付けてお縄よ。エルはパールと一緒に屋敷に潜入。アレクサンドラ嬢たちの居た部屋で幻影の操作をしてもらって、雇い主達の捕獲ができ次第パールとを送るから周りに潜ませていた兵の元へ転移、兵と共に屋敷を制圧って所かしらね。本当あなたがその存在で時空間魔法を使えてくれて助かるわ♪仕事が楽!いい弟子を持ったわ~」
喜んでもらえて何よりだけれども、私はなんとなく素直に喜べない。あははっとぎこちない笑みになってしまうのは仕方ないだろう。
「異論はあるかしら?」
そんな私の事は気にも留めず師匠が話を進める。
「いえ、パールに頑張って貰わなくてはなりませんが、私はその案が最適かと思います」
「元々原因は私ですし、できることは全て協力します」
「では、この作戦で行きましょう。まず初めに屋敷の場所を確認して知らせてくれる?乗り込む際の兵をあらかじめ近くの街にお嬢様達の捜索隊として派遣するから」
そういえばアレクサンドラ様達を教室に放置したままだ…。
「あの、アレクサンドラ様達はどうするんですか?流石にずっと教室で寝させているのは良心が痛むんですが…」
エルが毛布を掛けてくれてたとは言え、教室の床で座った体制のまま寝ているのは結構つらいはずだ。できればもっとちゃんとした所へ運んで欲しい。
「安易に見つかったことを周囲に知られたくはないわ。誰がどこと繋がっているかわからないから。この学校のセキュリティーはこの国5本の指に入るのよ。それを掻い潜れるということは留意しておかなくてはいけないわ」
師匠が真剣な眼差しでこちらを見るのでエル共々姿勢を正す。少しするとその視線を和らげていつもの飄々とした師匠に戻る。
「そうね、王にお願いして王宮内の部屋で事が済むまで匿ってもらうのがいいかしら。ご家族には悪いけど安全を知らせるのは全て済んでからね。何らかの理由を付けて彼女たちの侍女を呼び寄せれば明日の昼過ぎまでなら不自由なく過ごせるでしょう。あと、医者にも見せておかなくちゃね。パールの話だと眠らせただけの様だけど、念のためね」
そうと決まると師匠は転移で私達共々アレクサンドラ様達のいる教室に移る。
「え?転移魔法使えてる?」
魔法棟内以外は原則魔法禁止のはずでは?だからわざわざ校長室まで徒歩で行ったのに。
混乱している私を見て師匠は校長特典よと楽し気に告げた。
え?師匠って校長なの?
更に困惑した私を残して師匠はアレクサンドラ様たちに近づくとこちらを振り返る。
「じゃ、手筈通りによろしくねー」
そう言ってその場から消えていった。 なんとマイペースな…。
「では、私達もいくか」
こちらもマイペースな弟子こと精霊のメガネを掛けたエルがこちらを向く。
「え?エルはどうやってあの場所に行くんですか?」
確か転移は行きたい場所や人をイメージしないといけないはず。エルは行ったことないのにどうするんだろう?
「何を寝ぼけているんだ?君が私を連れて行くに決まっているではないか」
はぁ?っと心の声が聞こえてきそうなほどしかめ面でこちらを見ている。
今私が連れてくと言わなかっただろうか?
「えぇ?!やったことないです!エルに何かあったら大変ですし、無理!」
「大丈夫だ。ちゃんと補佐するから。言う通りにしろ」
有無を言わさない言い方に更に反論したくなるが、やることは早めに終わらせた方が良い。予想外な出来事がないとも限らない。
気合を入れてエルの方を向く。
エルは簡潔に分かりやすく教えてくれた。要は相手の存在を認識していればいいらしい。
「本当なら初めのうちは相手の体に触れたりして慣らしていくんだが、君には無理だから私の魔力を感じろ。片手のひらを上に向けて出せ」
手のひらを出すとエルの片手が私の手の上の辺りに置かれ、その手から涼しさが心地よい風の様な魔力を感じる。その魔力は正にエルを表しているようで少し口角が上がる。
そんなことには気づかずエルは説明を続けている。
「これで私を認識できているはずだ。あとは、行きたい場所をイメージしてやればいい」
行きたい場所…幻影を作ったあの部屋なら安全だろう。魔法を唱えると景色が歪み、見慣れない様で見慣れた部屋に無事エルと共に立っていた。