一大事4
難なく執事より早く部屋に戻ることができた。体には戻らず待っていると、執事がやって来て軽く檻の中を見て、魔道具を付けてそのまま去っていった。しばらく後を付けていたが、残念ながら特に新たな情報は得られなかった。
改めて部屋に戻るとガタイのいい男が見張りの為室内にいて落ち着かないので、様子見ついでにアレクサンドラ様たちの部屋へ移動する。
彼女たちはまだ眠っていて室内は静かな寝息の音しかしない。
さて、これからどうするか。
得られた情報と言えば、狙いは私で、アレクサンドラ様たちは巻き込まれてしまったということ、依頼主はこの屋敷にはいなくて名前は…トリスタン?だったか?なぜ私の情報を持っているのか?でも、情報は学園内に入れば分かる範囲だ。あとは、この屋敷の主はアレクサンドラ様に何かあることを恐れていた。ということは今のところアレクサンドラ様達が雑に扱われることは無いだろう。しかしこのままで何かあっても大変だ。
逃げるか…。どうやって?
そういえばエルに借りた本の中に無属性の魔法書に幻影と眠りの魔法があった。たしかの中に無属性の魔法書に幻影と眠りの魔法があった。たしかイリュージョンとスリープだった。
何故かはわからないが私は全属性使えるのだ。大いに使わせてもらおう。
そう決めるとまずは眠っている二人を優しく風魔法で浮かして近くの長椅子に移す。先ほどまで寝ていた彼らの姿を思い浮かべ、イリュージョンと唱えベッドに2人の幻影を作る。一発成功。…本当なんで何でもできるのだろう?有難いけど。
次は2人の元へ行き移転の魔法で魔法棟の資料室へ移転する。流石に異変に対する防衛本能の方が薄れてきている薬の効果に勝ったのか2人とも起きそうになるが、ここで起きて普通に戻ってしまっては危ないかもしれない。先にエルに確認を取りたい。申し訳なく思いながら軽く眠りの魔法を掛けてエルの元へ急ぐ。
自室を通りエルの部屋、研究室に行くがどこにもいない。まだ王宮なのか?再度移転しようとすると足音が近づいてきた。イライラした声と落ち着いた声が段々近づいてくる。
「わかっている。ヴォルフ、引き続き情報収集を頼む」
エルは扉を閉めるといつもの椅子にドカッと座る。いつもは洗練された動きのエルにしては珍しい切羽詰まっている様子に声を掛けるタイミングを完璧に失った。
私がいることが見えていないエルは悔しそうに机を叩く。
「あと少しなのになぜ情報が出てこない!今日パールを王宮に連れて行っていたらこんな事にはならなかったはずだ…令嬢の誘拐事件に巻き込まれるなんて…くっそ!」
もう1度机を強くたたくと目を閉じて微動だにしなくなってしまった。
なんだかんだでちゃんと上辺だけでなく関係を気付けていて、しかもとても心配してくれていることをこんな状況なのに嬉しく思っている私は根性ひん曲がっているんじゃないかと思う。エルがこんなに荒れているのに。
触れられないとわかっていても勝手に手が伸びてエルの肩に手を置く。
『エル。ただいま』
声を掛けるとエルの肩がビクッと動き辺りを見回す。空耳だと思ったのかメガネを掛けてくれない。
『あのー、ちゃんと帰って来てるんですけど?後ろにいますよ』
バッと勢いよく立ち上がったのでこちらも驚いて2、3歩後退った。胸元から取り出した精霊のメガネを掛けるとこちらを見て驚きに目を見開いた。
「そうだった。君は霊体でもあるんだった…」
「最近はずっと狐バージョンでしたからね」
「いや、もっと早く気付ていれば…慌てていた自分が不甲斐ない。私もまだまだだな。アレクサンド嬢とリサ嬢がいないと騒ぎになって君もいないことに気づき3人とも北の庭園へ向かったのでそこで何かあったことは分かった。そこからはもうバタバタしてその事実を見落としていた。それで、どこから飛んできたんだ?場所は覚えているか?」
「あ…あの…この前事後報告でもいいって言ってくれましたよね?実はですね、私全属性使えるんです…それで、アレクサンドラ様とリサさんと連れ去られた場所から移転で戻ってきました。あ、安心してください!ばれないように2人の幻影を残してきたので明日の朝まではとりあえずごまかせるかと…思い…ます…」
初めは驚いた顔をしていたがいつもの黒い笑顔が素敵なお顔に張り付いている…




