一大事
ヴァレリアの突撃はあれからも続いている。エルは私を理由に使いながらうまく逃げ果せているけれど。
自分の良さを分かってもらいたいなら空気を読めた方が良いと思うのは私だけではないはず。日に日にヴァレリアの私を見る目が怖くなっていくが、知らん顔をしている。あんなことを聞いてしまった後だ。恩人をこんな下賤な人に差し出すことはできない。
そういえば、一時期新たに私に対してエルから引き離す作戦も同時進行していた。
エルが何かを真剣に作っている間は私はこれと言ってやることがない。なのでよく校内をブラブラするのだけれどその時を狙って私を誘惑しようと(取り巻きさん方が)頑張っていた。
初めは散歩に出た際に足止めらしき事をされたが、私が走れば取り巻きさん達は付いてこられない。軽く逃げ切り、エルの研究室に辿り着くとヴァレリアが戸口でエルに何か叫んでいた。ヴァレリアが退散した後エルに聞いた話では、とにかく開けてくださいの一点張りだったのを一応丁寧に危険なので今は開けれれないことを説明したらしい。ドアに≪試作中。開けるな危険≫がかかっているので入ろうとはしなかったようだけれど、相変わらず突撃と比喩するのが相応しい行動だ。
その後も何回か私の散歩中にエルに突撃したが、ドアは施錠されているし防音の魔道具で外に音が漏れないようにしたらしく居留守を使っていたし、私も面倒と感じてからは霊体で散歩していた。
私の散歩中がダメだと分かると、エルとの移動中に取り巻きさん方が不自然においしそうな食べ物を持って周りをうろつくようになった。おいしそうな匂いはするけれど、見た目もおいしそうだけれど…不自然すぎるでしょ。本当に魔獣だったのなら飛びつくのだろうか?1回くらいその作戦に乗ってみたらどうなるのかと思って付いて行こうとしたら、エルに思いっきり黒い笑顔で微笑まれたので断念した。…まるで気分は護符だ。悪霊退散…してくれないよね。
そんなこんなで私への対策はなくなったようだけれど、エルに纏わりつくのは変わっていない。家から家へ対策してもらっては?っと言ってみたが、正式な申し込みが来ていない段階らしくそれも難しいようだ。っという訳でエルが何となく疲れてきているので何とかしてあげたいのだけれど私にできることと言えば護符として傍にいて逃げる理由になってあげるだけ。なかなか恩返しとは難しい。
今日は前に捕まえた密猟者の取り調べの報告を聞くらしくエルは授業が終わってすぐに王子達と王宮に向かったので、私は寮へ帰宅前の散歩中だ。一緒に行くことも考えたけれど、狙われたこともあるので念のため留守番ということになった。王宮で暴れるなんて馬鹿なことはしないと思うのだけれど、どうせ行っても何するわけではないので素直に頷いておいた。
少しウキウキしながらタッタッと速足で最近見つけたお気に入りの場所に向かう。
王宮があるくらいだから学園のベースも洋風な訳で、美しいは美しいのだけれど日本の記憶がある私としては何というか…侘び寂びみたいなシンプルな美しさに無意識に飢えていたらしい。たまたま学園の端にある森に足を運んだ際、その一角に日本庭園と東屋を見つけたのだ。この前来たときは霊体だったので日向ぼっこの温かさとか感じられずに少し残念だったが、今回は魔獣バージョン。優しい日差しの中お昼寝という豪華なことができる。
目的の場所に到着すると先客がいた。少々残念な気持ちになるが、この庭園はそこそこ広いので木陰でお昼寝プランに変更して東屋の前を通り過ぎる。
「あら、パール様。お散歩ですか?」
呼びかけられたので振り向くとそこにはアレクサンドラ様。今日はメイドもいないようで1人で東屋に座っている。
彼女はちょっときつめの見た目だけれど実際はそんなことは無く、落ち着いた物腰でとても好印象だ。存外気に入っているのでキュウっと返事をして尻尾を振る。
アレクサンドラ様周りを見回すと、本を長椅子において近づいてきた。なんだろうと思ってる間に優しく撫でられた。
「ふふ、とても美しい毛並みですね。…もしもう少し撫でられても良いと思って下さるなら、よろしければ少しご一緒していただけませんか?この前は用事でお茶会に参加できませんでしたので」
ま、少しくらいなら情報収集も兼ねていいかと思い尻尾で返事をすると彼女は立ち上がり東屋へ戻っていく。
その後をついて行くと彼女は先ほどの位置に戻り、隣にあったカバンをどかして席を開けてくれたのでそこに飛び乗る。
「パール様は本当に賢いのですね。皆さんが行っていた話しかけたことを理解してくれるというのは本当だったんですね」
感嘆の声が上から降ってくる。
「あのエルランド様が手放さないのも頷けます。かわいくて賢くてふわふわで。実はこの前のお茶会、パール様がいるのに参加できなくて少し落ち込んだんですよ」
優しく微笑みながらさわさわっと頭を撫でている。
「嫌なことの後には良いことがあるんですね」
何があったのだろう?そう思い首をかしげるとそれを見たアレクサンドラ様が苦笑いしながら先を続ける。
「パール様が賢いことは重々承知ですが、少し私の愚痴に付き合って頂けますか?嫌になったら好きな時にどこへ行っていただいたも大丈夫です。ただ誰かに話して少しスッキリしたいという私の自己満足ですから」
いや、そんなこと言われて立ち去れるわけないでしょう…まぁアレクサンドラ様には私が完全に彼女の話と気持ちを汲みっとっているとわかっていないから仕方ないけど。
少しの間こちらを見ていたが私が立ち去らないことを是と取って再び話始めた。