面倒なお嬢様2
エルの研究室から食堂まではそこまで遠くないので確認にそんなに時間はかからないはずだ。
楽しそうに教室へ向かう生徒たちに逆方向に歩みを進める。
嫌な音というのは聞きたくなくても耳に届くのはなぜだろう。いや、きっとあの子の声が響くせいだ。
前方から先ほど逃げたヴァレリア一行がこちらへ向かってくるのが見えた。彼女たちから私は見えるはずもないが、反射的に端に寄る。そういえば突撃の印象しかないが普段はあの人たちは何を話しているのだろう?
もしかしてずーっとエルの事話しているのだろうか?
いけないことだとは思いながら好奇心に勝てず、近づいて盗み聞きをする。
「あなた達はもう少しお肌に気を使った方が宜しくてよ。また今度お父様にお化粧品をお強請りする時にあなた達の分も取り寄せて差し上げますわ」
あれ?ヴァレリアって思ったよりも友達思い?っと思ったのもつかの間…
「私の周りにいるのであればあなたの様な外見でも磨いておかないと私が恥ずかしい思いをするかもしれませんでしょう?お判り?」
やっぱりな対応でげんなりしてしまう。
あんまり聞いていても精神的に毒だと思い去ろうとするとエルの名前が聞こえたので慌てて追いかける。
「そう思いますでしょ?こんなに私が誘っているのに」
「そうですね。ヴァレリア様のお誘いを断るなんて本当に変わった方ですわ。そもそもなぜエルランド様なんですか?ヴァレリア様なら王子の方が良いのでは?」
「王子の婚約者は王妃教育がありますでしょ?そんな面倒なこと嫌ですわ。それに引き換え公爵家なら特別そう言うものはありませんし、一通り学園の授業を終えておけばお咎めはないでしょう。私はみんなに羨ましがられる暮らしがしたいのであって王妃のように身を粉にするつもりはありませんわ」
「そ、そうなのですね」
取り巻き達は意外に常識があるのか顔が引きつっている。
「それにエルランド様は見た目も私に釣り合ますし。他の公爵家の方々はもう既婚でしょう?見た目で言えば候爵家のフリクセル様もいるけれど、私には公爵位が似合うと思わなくて?欲しいものはお父様が買って下さるから、少し変わり者でも見た目の良い優秀と言われる旦那様とお金で買えない地位さえあれば私がこの国1番の幸せ者よ!」
「「そうですね!」」
勝ち馬に乗るための自分の意思か、将又親の言いつけか、取り巻きABは勢いよくあり得ない考えを肯定する。気分を良くしたヴァレリアはオホホっと高らかに笑う。
「まずは私の良さを知ってもらわなくては、ね。その為にこの私が自らお食事にお誘いしてますのに。あの魔獣の方がいいなんて本当変わり者ですわね。あの魔獣など私と婚約したら売り飛ばしてしまいますのに」
人目の多いところでこんな話をする彼女を馬鹿なのでは?おまけにあなたに売り飛ばされるほど私は馬鹿ではないと思うと同時にエルに対しても彼の事を何も見ていない浅はかな思考に腹が立つ。
彼が優秀なのは自分の力に驕ることなく常に努力をしているからだ。それに噂で言われるほど変人でもない、とても優しい普通の人。そのエルを自分の飾りのように言う彼女に憤りを禁じ得ない。
話題は変わっていたがこのイライラを何とか消化できないものかと悩いながら追従していると彼女たちは中庭に着いた。
歩みを進めていると風が吹いたようでヴァレリアが嫌そうに髪を直している。
それを見てピンと閃いた。
周りを確認すると運よく男子生徒しかいない。ヴァレリア。覚悟するがいい。
彼女の髪を乱す程度の強風をイメージして中庭全体に風魔法を放つ。
一筋の風が音を立てて中庭を駆け抜ける。中庭にいた生徒たちはあまりの強さに目を閉じた。それも一瞬、他の生徒たちは何事もなかったかのように身なりをサッと整えて動き出したがヴァレリアはその場でワナワナ震えている。
「私の綺麗な髪が…」
巻きあがった葉っぱが所々に付いて毛先があっちこっち向いているが、庶民の私からすれば払って手櫛で治せば元通りでは?と思う程度だ。
「大丈夫ですか?!ヴァレリア様!」
取り巻きさん達も髪が乱れているがヴァレリア程気にしないようだ。
「せっかく綺麗にセットした髪が…部屋に戻ります」
「え?でも、授業に遅れてしまいますよ?」
「あなたは私にこんな姿で人前に出ろと言うの?!」
「いえ…差し出がましいことを申しました」
「あなた達は次の授業で私がいないことをうまくごまかしなさい。いいわね?」
取り巻き達が返事をする前にズカズカと歩き去る。
その姿を見送った取り巻きABはため息をついた後彼女たちの授業へと向かった。
彼女たちには心の底からお疲れ様と言いたい。
今回の事でよく分かった、ヴァレリアはエルの事を好きなわけではなく彼の地位が欲しいだけなのだと。
密かに彼女からエルを守ろうと決め彼の元へ戻る。




