師匠1
今日は師匠の下へ行くということで早起きをして、大急ぎで魔法陣を仕上げた。
この前光らなかったところがまた光らなかったので今回は子狐の姿のまま場所を示すと壊れることがなかったのでホッとした。
その場所にエルが何か書き足してからもう一度確認すると光っていたので無事完成という訳だ。
そして、今はその魔法陣を携えエルの師匠の元に向かっている。
今日は週末の為、王宮の実験室にいるらしいその人はエルたちが通う学校の責任者でもあるらしい。
それを聞いてやっぱり白髪で髭の長いお爺さんを想像して、大きい三角の帽子をかぶってくれているといいなっとワクワクしながらエルの腕の中に納まっている。
それにしてもどれだけ歩くのだろう?エルの転移は王宮の外までしかできなかったので延々と(エルが)歩いて師匠の元へ向かっている。もう一人で元の転移した場所に戻れと言われても戻れる気がしない。どの場所も似たか寄ったかの作りの為、同じところをグルグル回っているような錯覚にさえ陥っている。
その感覚もやっと終わり迎えた。
エルは扉をノックすると返事がある前に入っていく。
いいのかな?と思っている間に師匠と思わしき人の後ろ姿が見えた。
期待していた師匠の姿とは全く違い、白髪ではなく逆の黒髪を後ろで1つに束ねた背の高い男性が立って何かをしている。
エルが入ってきたことに気づいたのか、態勢はそのままに顔だけこちらに向けた。
目覚めてから2回目の衝撃だ。
そこには前世でタイプだと思っていた魔導師長、その人がいた。
黒髪に紫の瞳がなんとも神秘的だ。
ゲームでは短髪だったはずと思いながらも、ま、いいかと納得しかけたところに更なる衝撃が…
「あら、エル。久しぶり。全然来ないんだもの。課題が難しすぎたのかと思ったわ。あら、その仔がこの前学園の申請書に会った仔?」
魔導師長のしゃべり方が完全に女性の物…。
「師匠、始めての時はちゃんと、初めだけでも、ネコ被って下さい。パールが驚いている」
「モンスターに驚かれるなんて心外だわ。なんでモンスターに対してまでネコ被る必要があるのよ?」
同僚に見せてもらった時は違和感はなかったはずだから、ゲーム内では普通の男性の話し方だったはず…あれ?そもそも魔導師長って攻略対象じゃなかったような…王子関連で出てた場面を見せられたのか?
しかしゲームの世界そのものかと思っていたが、似た世界なだけでキャラクター達はゲームと違うのだろう。話し方に驚いてしまったが、聞きなれればありなのかもしれない…かも?
『おい。聞いているか?』
意識が違う方に向いていたので話に付いて行けてない。
『え?なんでしょう』
『あら、ほんと。この仔念話ができるのね』
いつの間にか念話に切り替わっていて魔導師長も加わる。
『師匠の話し方のせいで内容が頭に入らなかったんですよ、きっと』
『仕方ないじゃない?癖って簡単に抜けないのよ?エルって師匠に対して気遣いがないわよね?』
可愛く小首をかしげてこちらを見ているが何と答えていいのやら…答えるより前にエルが突っ込む。
「そもそも女性に纏わりつかれるのが面倒だからと言ってオネェを演じるほどの奇策を講じる神経の図太いあなたにちょっとやそっとの気遣いは必要ないでしょう」
「仕方ないじゃない。若かりし頃は本当に鬱陶しいと思ったのよ。あなたもその年頃だからわかるでしょ?まさかコネをちょこっと使って女性寄りの思考かもしれないですよーなんて噂を流したら、あんなに上手くいくなんて思わないじゃない?結婚適齢期過ぎたらやめようと思っていたら、癖になって治すのに手間取るなんて思わなかったんだもの!それに物凄く後悔もしてるのよ?まさかそっち系の男どもに声を掛けられるようになるなんて…おまけにそっち系に興味のある女性にそれとなくの相手を紹介されるこの気持ちわかる?!女性に纏わりつかれる方がマシだった!」
今にも拳で机を殴りそうな勢いで言う彼はなんだか物凄く苦労しているのを感じる。
確かに興味もないのに同性を紹介されるのはキツイ…。
エルも聞いたことなかったのか、流石にこれには何も言えず黙っている。
「最近そっちがうるさいからまたコネをちょこっと使って興味のあるのは女性だけですよー、任務でそういう役になってたんですよーって流したのに今回は反応薄いのよね…また対策考えなくちゃ。ってな訳で!この話を聞きたくないなら、今後私の前で安易にこの話題に触れないこと、ね」
エルの笑顔が怖いところは師匠から受け継いだのだろう。その笑顔迫力満点です。
エルも何とも言えない顔をしている。
「師匠のちょこっとは全然ちょっとじゃないんですけどね…」
エルの呟きは聞こえてないのか、意図したシカトなのか綺麗にスルーされた。
「さて、元の話に戻しましょうか。この仔は普通のモンスターじゃないだったかしら。でも、念話だけならできる魔獣もいるわ。他にもあるんでしょ?」




