精霊の森で2
「それは、君が私たちに近い存在だからかな」
「精霊も幽霊の1種ってことですか?」
「うーん…なんていうかな。君はそもそも幽霊の類ではないよ。幽霊は魂でも君はちょっとの魂破片と魔力でできているから幽霊というのは違うかな。存在的に言えば精霊に近い。なんでそんなことになっているんだろうね?」
嘘。幽霊じゃなく精霊に近いって…どういうことなのだろう。
男性も予想外の様で疑問形だ。
「気が付いたらこの姿で記憶がないんです。でも、なぜか前世の記憶はあるんですけど、何か関係あるんでしょうか?」
「推測だけどね。こういう考え方もできるくらいに聞いて。前世の記憶は魂の記憶。魂が一緒に前世から持ってきたものだから今の破片の魂でも保持しているけど、今世の記憶はまだ君の体の中。つまり今世の記憶は体に置いてきているから思い出せないんじゃないかな?」
言いたいことは分かる。でも本当にそんなことが起きるのだろうか?いや転生があり得るのだからありなのかもしれない。少なくとも、そう考えれば辻褄が合う。
それよりも気になることができた。
「その仮説だと私は死んでないと?」
「抜けているのは魂の1部だけだから、たぶん大丈夫なんじゃないかな。普通は魂が抜けるときは全部抜けると思うんだけど。なんでか君は全ての魂の代わりに一部と魔力を持ってきたみたいだね。聞いたことないよ」
男性は説明しながらもとても不思議そうだ。
「私の魔力が異常に強いのは?」
「それは魔力の使い方が私たちと同じだからかな。私たちは魔力をそのまま使うが、人はろ過して使うとでも言おうか…例えば色のついた水を私たちの魔力の使い方とすると、こうやっ人の体内でろ過してしまうと色が薄くなる=魔力が弱くなる。中にはいい意味でほとんどろ過しない人間もいるが、大抵はろ過してしまうために私達より弱くなる」
私がわかりやすいように魔法を使って説明してくれる。
「なるほど。あと、なぜ私は全魔法を使えるんだと思います?」
このやさしい男性の好意に甘えてわからないことを全て質問していく。
「全部?それは…私の答えられる範囲をこえているね。そもそもなぜ使える属性が決められているのかから解明しないといけないから、神のみぞ知るというところだろうか」
この男性にも分からないことがあるのか。まぁ、すべての属性を使えることは悪い事ではないのでとりあえず謎のままでも構わないだろう。
「そうですか…。そういえば自己紹介がまだでした。私はパールと申します。色々教えて下さりありがとうございます」
「いえいえ。お役に立てて何より。私はこの国の水の精を束ねている者。先日この泉にやって来ました。定期的に住まいを移しているが当分ここにいる予定です。よろしくお願いしますね」
今、水の精を束ねているって言った?もしかして大変偉い方なのでは?
「束ねている?」
「ええ、そうですね。人は精霊様、精霊王と呼んでいましたか?」
な、なんかとてつもなく偉い人にかなり不躾に質問していたような…おまけにさっき突き飛ばした?…うん。過ぎたことは忘れよう。
またさっきとは違った現実逃避をしていると、水の精霊王様の周りを何人かの精霊が飛び回った。
「ところでパール。森にいる男性はあなたの知り合いですか?」
そう聞かれるまですっかりエルランドの事を忘れていた。
「そうです。何故か私を見失ってしまったらしく、ここに来る前までは一緒にいたんですが…」
それを聞いた精霊王様はフフっと笑い周りを飛んでいた子達に目線をやると、その子達は森の奥に消えていった。
「彼は見失ったのではなく、入れなかっただけですよ。今迎えに行かせました。境界線の辺りをうろついているらしいので扉が開けばこちらへ来るでしょう。ここは精霊の憩いの場、英精霊の住処と言われる場所。精霊に好かれ許可を得た者しか入れない。パールはそのブレスレットのおかげで入れたんですよ。彼らにかなり気に入られてますからね」
この前去り際に貰った腕輪がそんな重要なものだったなんて…。
「でも、いいんですか?エルランド様をここに招いて」
「精霊たちも嫌っていないということは大丈夫だと思う。寧ろ興味津々だよ。それに連れのあなたが保証してくれれば問題ありませんよ」
「エルランド様は…ちょっと実験オタクだけど、とてもいい人です。いつも私を助けてくれます。無理なお願いも聞いてくれるんです。つい最近会ったばかりなのに…。学校の備品だったこの仔と一緒に入たいなんて無茶言ったんですよ、私。そしたら自分の持っている物を寄付してこの仔を得てくれたんです。そんなエルランド様に限ってみなさんを害するようなことはありません。…ちょっと研究魂というか、魔法に関しての好奇心というかなんというか…でご迷惑をお掛けするかもしれませんが…」
最後の一言を聞いて精霊様が笑い出した。
精霊王様の笑い声が響く中、噂をすれば影、エルランドがきょろきょろしながらこちらに向かって歩いてくる。
きっと私たちは見えていないので近くに行き念話で話しかけようとするとこちらを見て、数刻考えた後こちらに向かった歩いて来た。
私の目の前で止まると私には目もくれず、精霊王様に話しかける。
「すみません。足元で寝ているのは私の連れでして…何かお手数をお掛けしましたか?」
なぜかエルランドにも精霊王様は見えている様だ。足元の私(子狐)を指さして尋ねている。
「いえいえ。パールはとても良い子で話し相手をしてもらっていたんですよ。今はその仔から出てあなたの左側にいますよ」
エルランドは普通は見えるはずのない私と話していたという精霊王様はを驚きと不信の入り混じった眼差しでみた後、胸ポケットから精霊のメガネを出しジロリっとこちらを見た。
何となく言いたいことがわかる。
「…説明、ですね」
エルランドは黙ったまま頷く。
「こちらはこの国の水の精霊王様で…お名前は何ですか?」
そういえば名前を聞いていなかったことを思い出し、精霊王様の方へ向く。
「名はない。みな水の精霊王とか水神様とか好きに呼んでいるよ。代替わりしてから人と関わってないからね。そうだ、これも何かの縁だパールが名前を付けてくれ」
「ええ…でも、私のセンスでいいんですか?エルランド様と考えてもいいですか?」
「ダメ。パールが考えておくれ」
打開策はものすごい綺麗な笑顔で拒否された。
そんな…責任重大すぎる…。
もう1度しっかり精霊王様を見る。水の精霊王様というだけあって色は目も髪も水色。髪は光を受けてキラキラ輝いて、輝く水面の様だ。
「水面…≪みなも≫様でどうでしょう?」
「聞いたことない言葉だ。綺麗な響きだね」
「この世界の言葉ではないんです。でも、キラキラ輝く泉の表面のイメージだと思って下さい」
「≪みなも≫か。よし、私は今日からそう名乗ろう。ありがとう、パール」
みなも様は嬉しそうに何度か新たな名を口にしている。
「…っという訳で、水の精霊王ことみなも様です」
くるっとエルランドの方を向くと頭が痛いとばかりに額に手を当てている。
「 …ちょっと待て。話についていけない…」