精霊の森で1
転移したのは森の入り口だ。
本当なら泉に直接行ければいいのだけれど、何せどこをどう歩いたか覚えていない。行きも帰りも精霊に先導されるがままに歩いた為、特に道順を意識していなかったのは良くなかった。
「とりあえず、適当に歩いてその辺にいる子に泉への行き方を聞きましょう」
「それなんだが…この森に泉なんてないはずだ。本当にここなのか?」
「森自体はここで合ってますよ。ここまで来たのは私自身なのでそれは間違いありません」
泉がないとはどういうことだろう?人がなかなか行かない奥地なだけではないのか?
歩きながらそんなことを考えていると目の前を赤い光の玉が通り過ぎた。
顔を上げると周りにはいくつかの光の玉が飛んでいる。
「あ!迎えに来てくれたのかな?」
先ほどの赤い光は初めてった時も1番初めに近づいてきてくれた火の子。
この前周りによくいてくれた子達が迎えに来たくれたようだ。
「ただいま。少し落ち着いたから会いに来たよ。この前の泉に行きたいんだけど、案内してくれる?」
目の前にいる火の子にお願いすると嬉しそうに1回転して飛んでいく。
置いて行かれないように慌てて走り出す。
「エルランド様。精霊が泉まで案内してくれるようなので付いてきてください!」
「おい、ちょ、待て…」
慌てて走り出したエルランドを確認すると、視線を前に戻して火の子達を追う。
数分走ると泉が見えてきた。
こんなに近かっただろうか?それとも近道があったのか…?
泉へ到着して後ろを振り返るとエルランドの姿がない。
走ったとはいえそこまで速くない。とすれば考えられることは私を見失ったという可能性だが、道は開けていたから見失うはずもない。
自分の思考に飲まれていると、頭に重みを感じた。誰かが頭に乗ってペシペシと叩いている。
「誰?どうしたの?」
そう尋ねると頭の上にいた水の子が目の前に現れいたづらっぽくニカっと笑い、くるっと私に背を向け泉に向かって飛んでいき水面を撫でた後深々とお辞儀をした。
不思議に思い泉を見ているとキラキラした結晶が水面に見える。ジーっと見ているとその結晶はだんだん濃いものとなり泉の水が噴水のように立ち上り、それが扉のように開いて割れた。
すると、中から水色のグラデーションの髪に水色の瞳、前世の古代ギリシャの服装の美青年が現れた。
驚いて固まっている私をよそに精霊たちは嬉しそうにその男性の周りに集まっている。
「どうしたんだい?お前達が私を呼ぶなんて珍しいね」
そう尋ねられた精霊は男性の元を離れ私の頭に着地する。
「おや、モンスターの子ども…うーん。なんか普通じゃない気がするんだけど…」
スーッと私の傍へ来ると私を持ち上げ鼻と鼻がが触れそうな距離で見つめられる。
そんな男性の周りを色んな精霊たちが飛び回っている。
「ねぇ君、この子たちが言うには前回は人だったらしいんだけど?あ、君しゃべれるよね?」
「あ、はい。この仔に偶然入ってしまってから、この体で過ごしているんです」
「もしよければ、人の姿をみせてくれないかな?」
精霊たちが懐いているこの人は信頼できるという確信があるので迷わず了承する。
男性が私を地面に降ろすと幽霊の姿になる。
男性はほう…と呟くとサッと近くに寄り私の顎を掴み自分の方を向かせた。
…流石ゲームまさかの顎クイっと一瞬現実逃避したのは仕方ないだろう。
男性が私に触れられることにも驚きだが、こんなきれいな人に近づかれてそれどころではない!我に返って突き飛ばしてしまったのは致し方ないと言えよう。
「い、いきなりなんですか?!」
「おっと、すまない。元はこの子達と同じ一介の精霊。好奇心には勝てないんだよ」
ちょっと苦笑して謝ってくれた。それで落ち着きを取り戻したので気になったことを聞いてみる。
「ところで、なぜ私に触れるんですか?」