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新たな場所2

………はい?


「もう一度仰って頂けますか?」


何か聞き間違ったのだろう。これでも一応中身は女なんですが。


「うちの寮、正確には私の部屋に来るかと聞いた。遅かれ早かれその体のままいるならその方が都合がいい。どうする?」


確かに、一人でうろうろするのも逆にエルランドの迷惑になるかもしれない。


「あの、お願いしようと思うんですが…一応私女なんですが、いいんですか?」


「ああ。どうせ私以外は君の姿は見えないし、その体なら誰も気にしない。それに君は見えないからと言って常識から外れることはしないと判断した。寧ろ、色々気を遣う質の人間だろ」


確かに、今もエルランドの迷惑にならないようにと考えていたところだ。


彼がいいなら時計塔以外に居る場所があるのは有難い。お言葉に甘えよう。


「では、お願いします」


「では、行くか」


歩き出そうとする前に目の前に腕が伸びてきた。


「え!ちょ…!」


「どうした?」


「私歩けますよ。なんなら走れば早いですよ?」


「いや、学校内で許可を得てない状況で放し飼いにするわけにはいかない。抱えていく」


見た目は動物でも心は乙女だ!イケメンにそう易々と抱えられては心臓が持たない。


肩に…と言いかけてやめる。あの顔面の近くにいるなんてもっと無理。


「わかりました。お願いします」


渋々お願いして抱えられる。


そういえば久々に人に触れたな。温かい。




男性寮は2棟に分かれていて平民と中流貴族で1棟、高貴族で1棟という振り分けらしい。


エルランドの住む高貴族寮はまるで高級ホテル。警備兼ドアマンがドアを開けてくれ、エレベーターの横ではコンシェルジュが常駐しているそうだ。

もっと驚いたのは部屋。いや、部屋と言っていいのだろうか…。ワンフロアー全部エルランドと公爵家使用人の居住範囲になっている様だ。


帰ってきたエルランドを執事の男性が迎える。肩下の長さのアッシュブロンド綺麗に束ねた40代位の男性。大人の余裕があるダンディーなおじさまだ。


エルランドは執事に物置になっている部屋を片付けて私の部屋に変えるように伝えた。


綺麗にお辞儀をした執事を見送り、学校の彼の研究室の様な部屋に入った。


「部屋ができるまでここで待つとしよう」


「なんだか、急に来てしまって申し訳ないです。今から用意するって執事さん大変ですよね…」


「執事のヴォルフリートは優秀だ。こんな事朝飯前でやってしまうさ」


そう話していると、ドアがノックされた。


エルランドの了承の声の後たれ目の茶髪の30代くらいのメイドが果実水を持って入ってきた。


「おかえりなさいませ、エルランド様」


そういい終えると持っていたトレーをエルランドの近くの小さいサイドテーブルに置く。


「ありがとうビアンカ」


「いいえ。ヴォルフよりそちらの小さなお客様の夕食をどうするのか確認するように申し使いました。いかがなさいますか?」


エルランドは念話でいるか?と聞いてきたので今はいらないと答える。


「今日のところはらない。もし必要なら後で言う」


「畏まりました。失礼いたします」


サッと礼をしていく彼女を見送った後今後のことについて話し合う。


「そうだな。とりあえず君の傷は魔法薬で治したことにして、私はなぜか懐かれているので経過観察を兼ねて飼うことにした。期間は聞かれない限り指定はしないが、聞かれたらとりあえず1年と答えることにしよう。明日王宮へ提出する書類を作成する。ま、我が家なら許可以外の返事はないだろう」


「私は何か気を付けることありますか?」


「強いて言うなら、知らない人に付いて行くな、懐いてるようにみせるな、か」


なぜか小さな子供が言われるようなことを言われる。


「しませんよ!でも、なんで懐いてるように見せたらダメなんですか?」


「言っただろ、ホワイトファックスは貴重なんだ。密漁が禁止になってから何としても欲しいが、審査に通らない奴らは機会を伺っている。そういう奴と飼い主のトラブルが時々あるんだ。もし君が必要以上に懐いてるように見えたら、懐いているからそいつといた方が良いとか何とか言って手に入れようとするだろう。」


うわー…勘弁してほしい。そういう人には絶対懐かないと思うけど、注意しよう。


「気を付けます…。でも、公爵家にいちゃもんなんて付ける人いないんじゃないですか?」


「公爵家ではなく私に言うやつはいるだろうな。まだ家を継いでないし。どこにでもバカは存在するのが世の常だ。だから、最初の時期は特に私に懐いているように振舞ってくれ。まぁ、最終的には実力行使で黙らせるから、そこまで心配しなくていいが」


エルランドがそう言い終わるや否やドアがノックされ、エルランドが答えると執事のヴォルフリートが入ってきた。



「お部屋の準備ができました」


「わかった。私が連れていくのでお前は下がって良い」


「承知しました」




執事のヴォルフリートが出ていったのに続き、私たちも部屋から出る。私の部屋へ向かう途中キッチンやエルランドの研究部屋(勝手に入るなと念を押された)等通り過ぎる部屋の説明をしてくれた。


そして、1つの部屋の前で立ち止まった。たぶんここが私の部屋なのだろう。


「ここが君の部屋、隣の2部屋が書庫だ。好きに使うと良い。その先に私の部屋があるが、ほとんど研究部屋にいるから困った頃があれば先に研究部屋に来るといい」


部屋に入ると本当に先ほど用意したばかりなのかと思う程きれいだ。


しかも、たかがペットのためにダブルベッドサイズのベッドがある。流石公爵家。スケールが違う。


「間に合わせだが、必要なものはとりあえずあるはずだ。必要なものがあれば言ってくれ」


「いいえ。十分すぎます。ありがとうございます」


「そうか。ゆっくり休むと良い。では、また明日」


「はい。色々ありがとうございます」



エルランドが出て行ったあと部屋をグルっと1周する。

もし私が人のままでもこの部屋のみで生活できるほどすべてが揃っている。



窓辺に飛び乗って外を見ると空が茜色に染まっている。


今日は色々あった。結果的に全ていい結果になった。おまけに新しい居場所まで得た。

目覚めてから3日。悲しかった初日が嘘の様に穏やかな気持ちだ。



この3日エルランドには感謝しかない。彼の助手である限り彼の力になれるように頑張ろう。



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