新たな場所1
エルランドがどこかへ転移してしまったので、その場を離れるわけにもいかず。
仕方ないのでのんびりしようと安全そうな木の上へ移る。流石にジャンプでは目的の高めの枝には届かないので風魔法で自分を浮かし、太めの枝で待つことに。ここなら、もし仮に他の密猟者がきても気付かれることはないだろう。
やっと肩の力が抜けるとなんだか久しぶりに疲れを感じる。それはうまくやり遂げたこともあり心地いいものだ。もし、あの親子を助けられなかったらこの疲れは嫌なものになっていただろう。
吹き抜ける風の冷たさに体を丸め、葉擦れの音を目をつぶって聞く。
気付くとふっと暖かな何かが触れて、風が止んだ。
その変化を感じて目を開けると目の前は壁?寝ぼけているのか頭が働いていない。
少しボーっとしていると上から聞きなれた声が降ってきた。
「やはり起こしてしまったか。気持ちよさそうに寝ていたのでそのまま帰ろうかと思ったのだが」
見上げるとそこにはいつもより近いエルランドの顔。
まさか抱きかかえられている?!
ホワイトフォックスの体であることを忘れ慌てて腕から抜け出そうとする。
「おっと。この高さから落ちたら本当にけがをするかもしれないぞ?」
そういえば木の上でエルランドの帰りを待っていたんだった。
「もう下ろしてもらって大丈夫です。重いでしょうし…」
「ホワイトフォックスの子どもの重量などたかが知れている。とりあえず、研究室に移動する。動くなよ?」
そういえば今はホワイトフォックスの身だから軽いし、女の子を抱いている感覚はないよなーと何となく残念な気持ちになっている間に見慣れた研究室に戻ってきた。
エルランドは私を長机の上に置き、自身は近くにあった椅子に座り頬杖をついた。
「まさかこんな大仕事になるとは。結構時間が掛かってしまったから君が寝てしまっても無理はない」
「寝た記憶はないんですけど…寝てたんですね。きっと久しぶりに疲れを感じたからでしょうか?」
エルランドは興味深そうにこちらを見ながら話し続ける。
「やはり君が入るとこの体は生存している状態に近くなるのか」
「そういえば、たぶんですけど…その影響でだと思うんですが、あの男たちの匂いが鼻についたんだと思います。今思うとこの仔が気になったのはこの仔に選ばれたのかなって。一矢報いてやりましたし!あ、あいつらどうなりました?」
「そうか。脳も活動しているということか。君を抱えているときに暖かさもあったから身体機能はある程度活動状態と判断できるな」
話の興味のある部分に思考を巡らそうとしている彼にストップをかける。
「あのー、エルランド様、あいつらどうなったんですか?」
「うん?ああ。麓の警備に渡すのはやめて王都の騎士団に飛んだんだが、2人とも魔力切れ体力切れになったので話は後日改めて聞くことになった」
「なぜ魔力切れになったんです?魔法を使ったのはエルランド様なのに」
「そこは思い出してなかったか…転移の魔法は特殊で使う者の魔力それに付いて行くためにも魔力がいるんだ。もし、付いて行く者の魔力が切れればその者の体力→魔法を発動した者の魔力→体力の順で消費していく。消費量は距離に比例するから長ければその分消費が多くなる。あいつらは君のおかげで体力はほぼゼロだったから私の魔力も少々持っていかれた。だから一応、朝君にも聞いただろ?気分悪いのかと」
なるほど、ただ単に体調を聞いたわけではなくちゃんと理由があったのか。
「まぁ君は特殊なようだが」
「え?」
「朝の時点では気が付かなかったが、君と飛ぶと魔力が逆に補填されるようだ。補填というよりは補助かな。こちらの魔力は一切減らない。抱えるのが理由か、ただ単に一緒に飛ぶだけでいいのか…また検証するとしよう」
でた。実験オタク発言。まぁ、助けになるならいいか。特に私も魔力の減りを感じるわけではないし。
この体は体力的な疲れは感じても魔力の疲れは今のところない。エルランド様ではないけど要検証事項だな。
「さて、私は戻るとしよう。今日君はどうするんだ?」
「そうですね。できればこの体になれるために入っていたいんですが、まだ週末なのでこの格好で出歩くわけにはいかないですよね。…そうですね、また時計塔に行こうかなっと思います」
エルランドは顎に手を置いて考える素振りをする。
不思議に思って黙っていると数秒考えた後こちらを見て思わぬ提案をしてきた。
「君、うちの寮に来るか?」