山の中で3
「はぁ…あとはこの馬鹿どもか…やけにドームが小さいな」
「あ、できるだけ酸素濃度をを薄くしようと小さめに作ってみました!」
地味に苦しいだろう。この仔はもっと痛くて苦しかったはずだ。これで許されるわけはないからしっかり裁かれてほしい。
ドームを崩すとぐったりとした大の大人がいた。
「さて、君たち聞こえるかな?」
エルランドの問いに答えない失礼な態度なので、容赦なく水魔法で水を顔面にぶっかける。
「ゲホ、ゴホ、ゲホ。聞こえてるよ。なんだよクソガキ」
あ、エルランドがイラっとしてる…眉間に濃いしわが…。
兄貴と呼ばれていた方はまだ少し元気があるらしく悪態をつく。下っ端は咽てはいるがしゃべる気力はないらしい。
「ほぉ。こいつにやられてまだそこまで悪態がつけるか」
「んだよ!なんでそいつはお前に懐いているんだ!」
「さぁ?なぜお前に答えなければならない」
「おい、クソガキ。取引しようぜ。こいつを売った金の3割をお前にやる。だからそいつを捕まえて俺に渡せ」
あ、兄貴さんがまたエルランドの地雷を踏んだ。これでもかという位に眉間のしわが深まる。
「どこで売るつもりだ?ホワイトフォックスは保護目的でしか飼えないはずだ。売るなんてできないだろ?」
「それは表面上の話だ。王都内の服飾店の下に裏の買取所があるんだよ」
「なるほど。お前たちはいい値で売れるのか?」
「ああ。俺達には今までの実績があるからな」
「そうか。しかし、信用できないな。どんなすごい実績があるんだ?答えによっては自分で売りに行った方が全額自分の物になるからそうする」
「は!お前みたいなガキが行っても足元見られて終わりだ。俺に任せろ。俺らは…」
そこからどんなモンスターを売ったか、その値段や高値で売るコツ等々、彼なりのセールストークを展開していく。
彼らと戦ってるときになぜ魔法を使わないのかと思ったけど、使えないわけではなく使うと痕跡が残るため魔法以外の方法で狩っているらしい。主に矢にしびれ薬を塗って動けなくなったところを捕獲すれば痕跡を残さず、さらに掠るだけで痺れるので売る時にも値段がほとんど落ちないらしい。
「そうか。お前たちはプロなんだな。2人だけでやっているのか?」
「ああ。情報交換している同業者は何人かいるが、一緒に動いているのはこいつだけだ」
「わかった。ご苦労。お前たちは然るべき所へに引き渡す」
「な?!おまえ今回の交渉の価値がわかってねぇな?!こいつを売れば5年、いや少なくとも10年は遊んで暮らせるんだぞ!!」
エルランドが納得したと思っていたのか兄貴さんは叫びだした。
「生憎、金には困っていない。遊んで暮らそうと思えば死ぬまで遊んで暮らせる金がある」
ニヤリと意地悪そうに笑いながらエルランドが言い放つ。
そんな彼を見て私はというと、言ってみたいなそんなこと、とぼんやり思った。前世は普通に働いていた。困窮した覚えはないので、普通と言われる位の収入だった気がする。あ、海外旅行に行くと月末侘しかったっけ。
意識が他の次元へ旅していたが、兄貴さんの罵声で現実に戻る。
「お前!虚言もいい加減にしろよ!こんな辺境の山の中にいるんだ。高貴族でもないただの少し金持ちの坊ちゃんだろ?!そういうことはおまえが公爵位になってからでもいうんだな!」
「だから、言っているだろ。その少し金持ちの公爵家の坊ちゃんが」
捨て台詞とばかりに吐き捨てたその言葉が的を得ているなんて…皮肉。
座って大人しくしているが、少し楽しくなってきたとわくわくしていると目線は男に向けたままエルランドから念話が飛んできた。
『全く君は…この状況を楽しむのは勝手だが尻尾が揺れている。私たちの会話はわからないはずなのだからその振りをちゃんとしててくれ』
知らない間に尻尾が動いていたようだ。ピタッと止めて兄貴さんの方を見ると冷や汗が流れて青い顔をしている。
「え…公爵?まさか噂の変わり者の後継ぎ?」
「お前ははじめから最後まで失礼だな。そうだ、先ほどの有力情報のお礼をしてあげよう。君たちを特別に私の時空間に入れて運んであげよう。あ、そうそう。中にいる間は動いてはダメだ。昔、羊飼いが羊の移動に時空間を使ったらしい。移動した後羊を出そうとしたら、5体満足な物、体の1部だけの物、何匹かは忽然と消えたらしい。仮説としては時空間内に区切があり、それに触れるとバラバラになる、隙間を運よく潜れば他の空間へ移動(生死不明)。だから、入れてあげるけど動かないように、いいね?」
黒い笑顔で怖いこと羅列する。聞いているだけの私まで鳥肌が立った。
彼らは…青い顔で震えている。ご愁傷様。
「さて、準備はいいかな?」
答えを待つわけでもなく、エルランドは喜々として風魔法で彼らを浮かせる。
「ま、待ってくれ。勘弁してくれ」
「おや、私の礼は受け取れないと?」
エルランド様綺麗なお顔のはずなのになぜか般若のように迫力満点です…。
「滅相もございません!私たちには勿体ないです!どうぞお気になさらず‼」
余りの迫力に兄貴さんが敬語になった。
「では、代わりに転移をさせてあげよう!」
名案だとばかりに男たちを連れて転移してしまった。
置いてきぼりにされた私はどうしたらいいんだろう?
衝動的に書き始めてから早くも10話。
ブックマークして頂きありがとうございます!
拙い部分が多いと思いますが、これからも楽しんでいただければ幸いです。