始まりの不運
いつも通りの日常。楽しい買い物をメイドのマリアと済ませ帰るために馬車に向かう途中それは起こった。
「お嬢様!!!!!」
叫び声が聞こえるとともに体が傾き頭に強い衝撃と痛みを受けた。その瞬間意識が飛んだ。
私の名前はパール。貴族として生まれ不自由なく16年間育ってきた。ただ少し普通でないことと言えば前世の記憶らしきものがあるということだけ。8歳の時に風邪をこじらせ高熱が出たときに夢で見た景色は現実であったと何かが告げていた。でも、起きてしまえば細かい事は朧気で時間が経つにつれほとんどの情報が忘れ去られていった。
今でもたまに夢に見る。此処とは全く違う世界。違う世界は新鮮で、実際その夢を見ることを楽しみにしているくらいだ。それも今日で終わり。死んだらもう夢は見れないだろう。きっと頭の打ちどころが悪かった。先ほどから思考だけがはっきりしているが、目の前は暗いまま。
(私、死んだのかしら?あのうさん臭そうな貴族…あいつが宝石を見せびらかしながら歩いていなければスリの男狙われることもなく、巻き添えで突き飛ばされて私が死ぬことなんてなかったのに!あーあ…まだやりたいこと結構あったのに。お父様、お母様、兄様に姉様…メイドのマリアには本当申し訳ないわね…)
倒れていく私に向かって叫んでいたマリア。
(私の不注意でごめんなさい。マリアがトラウマで心が病んでしまったらどうしましょう。若しくはお父様に解雇されてしまったら…マリアがどうにかできることではなかったし、護衛に荷物を置きに行かせたのは私…なんとかマリアに会えないかしら。確か前世で枕元に立つとかあったような…いや、この世界で幽霊はモンスター扱いだから除霊されてしまうわね)
真っ暗な中では特にやることもないので色々考えてしまう。
(いいかげん天国なり地獄なり三途の川なり着きなさい!)
イライラしたまま言うと強い光が目の前を覆い何も見えなくなる。
恐る恐る目を開くと足元に街並みが見える。しかし、見たことのない街並み…だと思う。
先ほどまで鮮明に思い出せた自分のことが靄がかかったように思い出せない。
(え?なんで?と、と、とりあえず家に帰ろう!………家ってどこ?苗字は?お父様、お母様、兄、姉がいたことはなんとなくわかる…でもみんなの名前…顔も思い出せない…なんで…なんで!)
死んだことだってショックだ、帰る場所、親しい人たちの記憶が思い出せないなんて…私が何か悪いことをしたのだろうか。
涙が頬を伝うのを感じ、ああ幽霊になっても涙は流れるんだなどと冷静に思う。
ひとしきり泣いたら少し頭が冷えて今後について考えることができた。
(とりあえず、幽霊ってどうやって成仏するの?教会に行けば…でも、アンデットが浄化される時って苦しんでるように見えるよね…痛いのは嫌)
人に見つかると除霊されてしまうかもしれないので、近くの森まで飛んできた。
ちょうど良さそうな太い枝を見つけたのでそこへ降りてまずは自分の体を確認する。
(体は透けてるのよね。あとなんかラメを塗ったみたいにキラキラしてるし。っていうか幽霊って足がないのが鉄板じゃないの?足あるし…顔も確認したいけど鏡に映れるかしら?)
手を空にかざして観察した後服装も確認するが死んだときのままの格好の様だ。お気に入りの格好だったのでほんの少し心が軽くなる
(なんか疲れた…)
幽霊に体力は関係ないだろうが、気分の問題だ。幹の部分に寄り掛かり空を仰ぐ。
空気中にいくつもの色のついた小川が流れているように漂っている。さっきの街ではそれどころでなかったから気付かなかったが街の方にも流れているようだ。そして小川付近には色のついた光の玉がその近くで動いている。
その様子をボーっと見ていると下が騒がしくなった。地面に降りて音のする方に行くと狼に子供が襲われていた。10歳位だろうか。
そんなことを思っていると少年は突然手から小石を出して狼を追い払おうとする。
その光景で記憶が呼び起され魔法が使えることを思い出した。
あの少年は年齢的に攻撃魔法を習い始めるくらいだろう。土魔法を使っているが命中率も悪ければ攻撃力もまだまだ。このままではやられてしまう。
(土魔法の使い手か。でも、小石を飛ばしたくらいじゃ威嚇にもならないのよ…火の魔法で一発当てるのが効率がいいんだけど…まだ魔法使えるのかな?あれ?私の属性ってなんだっけ?…考えてる余裕はない。獣だからやっぱり火が妥当かな…ダメなら他の方法を考えればいい。あの子を助けなきゃ!)
狼に向けてファイアーボールと唱えると火の玉が飛んで行って命中する…まではよかったが、威力があり得ないほど強く自分でやったことながら引く。無慈悲な攻撃を食らった狼は丸焦げ…子供は恐怖のあまり走り去っている。
(何あれ?!普通ファイアーボールってこんな威力はないはず。黒焦げ…)
引き攣る頬を何とか抑え、とりあえず目的は達成したから良しと気持ちを切り替える。
そんなことを考えていると目の端にチラッと赤い光の玉が映った。いつの間にか光の玉に囲まれている。
キラキラ綺麗なそれに触れてみたくてそっと手を出してみるとその光が手に留まる。
近くで見てみるとそれは赤い光の玉ではなく精霊が赤く光っているものだった。
手に乗っている彼?は火の精霊の様でつんつんした髪が炎のようにユラユラしている。顔はシュッとしていて目は白目がない。こちらをじーっと見つめてくるので微笑むと、フワッと舞い上がりニコニコ嬉しそうに周りを飛び回る。それを合図に他の子達も周りを飛んだり、肩や手に乗ったりしだした。青い子は水で、緑は風、明るい茶色は土の子のようだ。他にも何色か違う色の子がいるけど四大元素の子たちが多いみたいだ。
(もしかして空の小川も精霊たちと一緒で属性の魔力とかかな?さっき魔法を使った時に赤いリボンのようなものが見えた気がしたし、ちょっと試してみようかな。)
先ほど仕えたのは火なので指に火をともすイメージでファイアと唱えるとぼわっと火が付いた。その状態を維持していると空の小川が枝分かれして手元に流れてくる。
(なるほど。あのりぼんは差し詰め魔力の川ってとこか)
火を消すと肩に乗った青い子がペチペチとほほを叩く。
身振り手振りで言いたいことを伝えようと頑張ってくれている。
「もしかして、水の魔法を使えって言ってるの?無理だよ。反対の属性は使えないんだよ?」
何故か知識という部分は忘れていないのか思い出せる。しかし水の精霊は分かっていないのか、あきらめが悪く必死に訴えてくる。できないことを見せた方が良さそうだ。
「いい見てて。できないって見ればわかるでしょ?行くよ。ウォーターガン………え?!」
隣の木に向けていた指先から出た攻撃は大木を倒していた…しかも数本同時に。またもや引き攣った笑顔になった私とは逆に青い子は満足そうに万遍の笑みをうかべている。
その様子を見た他の子達もいいおもちゃを見つけたとばかりに群がってくる。…結局せがまれるがまま全属性試して全部使えてしまった。
何回もやらされるうちにわかったことは精霊が一緒にいた方が威力が強いということ。精霊の加護とどこかで聞いた気がする。あと、イメージしないで魔法を使うと通より強い力が出ること。気を付けなきゃ…。それと、小川の流れはただ見るだけじゃ見えなくて、じーっと見ないと見えないということ。
私は一体なんでこんなことになっているんだろう?
衝動的に書き始めてしまいましたが、完結できるよう頑張りたいと思います。
サクッと読めるよう1話約2000字程度を目安で書いています。楽しんでいただければ幸いです。