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高校生の日常。  作者: セカイシック
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桃園の日常

ずっとこっちを見てくる。

真剣な表情で、授業中も私を見つめてくる。いつも笑顔でみんなに愛されるキャラクターな彼が、何故かこっちを見ている。密かに彼を慕う私にとっては中々のご褒美だが、彼は私の顔なんて見て何の意味があるのだろうか。

そうか、彼なりに初めて同じクラスになった私と仲良くしようとした工夫の結果なのか。きっとそうだ。

彼の隣に座る女子が立ち上がる。同時に彼は前を向いた。

...まぁ、ずっとこっち見てても授業中だし、ね。

少し残念な気持ちになりつつ、私も黒板の方を向く。

隣の席未満の彼は結局、その時間は私を見てくれなかった。

そんな新学期初日を終え、あっという間に2週間が経った。あれ以来、彼と目が合うことは無い。

あのひと時で、私は仲良くなる価値もないと判断されたのだろうか。

彼は今日も、真剣な表情で窓の外を見ている。いや、私の前の席の男の子を見ているのだろうか。真剣な瞳のくせに、授業は真面目に受けていない。

ーなにしてんだろう。というかそもそもあなたのせいで授業に集中できないんですけど。

全くこっちを見てくれない彼に腹が立って、意地でずっと黒板とにらめっこした。


そして意外にも早く別れの時は来た。学生にとって一大イベント、席替えである。もう彼との隣の席未満の関係は終わりを告げられるのだ。

ーいい子に授業を受けるから、お願い。彼の隣に...もし良ければ彼の右隣に。

なんて自分勝手な願いだろう。しかし私にはもう時間がない。席替えのくじを引く番は次だ。

ーあっ、この出席番号は隣の!

その出席番号の少し遠くに自分の番号を書く。あるよね、これ。学生あるあるだ。

全員がくじを引き終えてすぐに発表。行動には出さないものの、心の中で土下座をして願っていた。

その思いも通じ、私は彼の、後ろの席になった。

「あー、桃園さんまた席近いね」

前の席の女の子が話しかけてくれる。まさか話しかけてくれると思わなくて、辿々しく答えた。

「桃園さんって、ずっとこの子見てたよね。もしかして桃園さんもこのキャラ好きなの?」

にこにことしながら、遠慮がちに問いかける彼女の手にはあるアニメキャラのぬいぐるみが乗っていた。

「そ、そう。わたし、そのキャラが推しで...」

引かれないか、と伏し目がちに言うと彼女は輝く笑顔を見せた。

「初めてよ!うち、このアニメ好きな人と会うの初めて〜!嬉しい」

多少押され気味な私を気にもせず続ける。

「ねぇ、うちのことゆずって呼んで。うちはももって呼ぶけん」

柔らかい方言に思わず顔も綻び、もちろんいいよと私も返す。

「どこ出身なの?不思議な話し方」

「うちはね、岡山。全然友達おらんけぇ、ももと仲良くなれて嬉しい」

そこからずっと、次のチャイムが鳴るまで話し続けた。

私の隣の席未満の彼、アニメキャラのイケメン君は私に友達との縁を繋いでくれたのである。

今日も前の席のゆずの鞄についた彼は、私を見つめてくれている。いや、天井かも。

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