ここでは獣の言葉で話せ
「……フゥゥゥゥゥウ、極め、申したわ」
「見事、見事よメタリアさん、本当に。なんか、当初の予定と全然違う感じに仕上がりましたけど、これはこれでとても……凄い!」
完成した……これが、これこそが、私の集大成……お母様のお助けがなければ、完成できなかっただろう。化けの皮が剥がされた今の私、だからこそ出来た極みを見せよう!
「これで今度のパーティでも堂々と対応できますわ、ありがとうございますお母様」
「えぇ、良かったわ……あ、これ今度のパーティ対策だったの? というか何に対しての対策なのかが分からないんだけど」
「あ、言ってませんでしたっけ?」
「ごめんなさい。ひとっことも聞いてなかったわ。あの、人生の生き方的な相談かと思ってたんだけど」
いやー、それは流石に……メトランお母様になら相談しても良い気がしてきた。すごい話しやすいのよな。この人。あれだ、元同じ一般ピープルだからかな。
「そこまで重たくないですから大丈夫ですよ。とはいえこの先も運用できそうな物が出来たから、その認識でいてくれたのはありがたいですけど」
それくらい本気でやってくれたからこそ、コレが生まれたんだしね。
「……まぁ、唯一の問題はといえば」
「メタリアさん、そろそろドレスの着付けをしないと……あれ? メトランさん?」
これを完成させるのに、パーティ直前まで時間がかかってしまった事くらいかなぁ。私いっつもぶっつけ本番でことに臨んでないかなぁ……
「分かった、今行くわ。じゃあメトランさん、また後で」
「はい。じゃあ頑張ってね」
ういっす。出来たばっかの切り札だが、まぁうまくハマれば大丈夫だと思いたい。
「うぬ?」
「む」
着替え用の部屋を開いたその先に、我が婚約者がいた。あれかい、交代制かこの着替え部屋。っていうか男子が使った後の部屋で女子を着替えさせるなよ。
「久しいな。メタリア。この部屋を使うのか?」
「まねー。まあ久しぶり。そっちは……まぁ。元気だったみたいね。だいぶ好き勝手暴れてた? ストレスもなさそうだし、ねぇシュレク?」
「お前たちと過ごしてからというものの、色々と思考が吹っ切れてな。だいぶ好き勝手して家臣の胃を痛めても気にならなくなった。後、弟達のことは時間の流れに任せる事にした」
「良い感じで気合が抜けたわねぇ……」
こんなんだっけ、こんなんだったな。うん。
「それより、お前の方はあいも変わらず充実した日々を送っているようだな」
「いや充実はして……待て、どうして私の近況を知っている? 手紙のやりとりもしていないというのに」
「大公殿が、登城する度にお前の事を事細かくな」
「おとうさまぁ!? なんて余計な事を!?」
っていうか、その薄いニヤケ面は何だ? 喜んでるのは間違いないけど、ロクデモナイ喜び方だろうこれは。
「弟関係で苦労する、お互い大変だなぁ? くく」
「うっわこいつ!? 私がおんなじような苦労してんのにニヤニヤしてやがる!?」
こいつさては愉悦を知るものか! ロクデナシにも覚醒してんのか!? でえい笑うな笑うなこの野郎! まてぇい!
「はは、捕まえてみるがいい」
「はははー、逃がしはせんぞ、じわじわと嬲り物にしてくれる」
我が怒りは既に常識の外ぞ。おのれ婚約者とて王族とて、見逃しえぬものがある。ぬしゃらの腹を掻っ捌き、その臓物で美しい赤い文様を描いてくれよう。
「うむ、流石に揶揄いが過ぎたな。済まないメタリア、この通りだ」
「謝って済むなら警備兵は要らんのだ。覚悟しろ」
「駄目だな、これは完全に目が据わっている」
ワタシ、オマエ、ユルスマジ、ワタシ、オマエ、タコナグリ。ソシテトテモスッキリ。
「仕方あるまい、あまり時間はないが、久しぶりにやるか」
「ぐるるるるる、ぐがぁ!」
「目は覚めたか?」
「お陰様で……いたた、本気でパンチする事はないんじゃないかな」
「まるで蛮族のような気迫を感じたからな……必要な抵抗だったと思う」
明らかに過剰だと思うんだけど。こんな美しい令嬢捕まえて蛮族とはなんじゃい蛮族とは、ったく、本当に相変わらずだなこいつは。
「で、私の誕生日を祝いに来てくれたってか?」
「まぁ、そうだな。延期になったのは俺が原因だ、侘びねばならんと思っていた。後、一応婚約者でもあるからな、それも兼ねて。といったところだ」
あー、まあそういえばそうだけど。それは気にしなくてもいいんだが、っていうかそれを気にするくらいならさ……
「いや、侘びはいらん」
「む……そこまで、不満に思っていたのか?」
「そうじゃないよ。むしろ逆、不満なんか欠片もないから、そんな侘びの言葉よりも欲しいものがあるってことさね」
ささ、ここがイケメンの発揮しどころですぞ~王子様? 一応婚約者っていうことになってるんだからさ。
「……そう、だな。うむ。誕生日おめでとう。メタリア。お前がこの世に生まれてくれた事を、心をから、祝福させてもらう」
「……うん、パーフェクト!」
それでいいんだよそれで。ぐちぐちした湿っぽいのは似合わないだろう、私達。
オレサマ、ヨヤクトウコウ、シッパイシナイ、マナンダ。