もう一人のお母さんと(最後だけ)
クフフ……食ってる喰ってる。
「流石にメトラン母上特製菓子は効くだろう……っていうか貴族として自覚出てきたってお母様は言ってたけど、出てきてなおお菓子作りに精を出すってすごいっちゃすごいな」
貴族っぷりを表すエピソードかは分からんが妾呼ばわりした相手に「お宅の旦那様のタイを確認為されたら如何」と返したらしい。いやーお強い。
「まぁ、それはいいか……」
「あの、アレウスにお菓子をあげるのはいいのですけど、なぜこんな?」
「まぁちょっと考えがあるの。大丈夫、そんなに悪いようにはしないわ」
「そうですか……ちょっとふあんです」
あ、はい、そうですか。まぁ不安なのはわかるけど。だってやってる事不審者まっしぐらだもん。真っ向から餌付けするならまだ健全にも見えるけどさ。こんな裏でこそこそとやってるんだもね。
「でも、お姉さまがわるいことするなんておもいません。だから、わたしもしんじて、おてつだいします! ふんす!」
あぁ~可愛い。私とアレウスが微妙な仲なのを知らずに手伝わせるのが本当に申し訳なるくらいにはどちゃくそ可愛い。君は可愛くて最高な妹なんだと分からせたい。
「ありがとねアメリア。お菓子はアレウスの分だけじゃないから、もしアレウスに誘われなかったら、一緒に食べましょ?」
「はい!」
まぁ、絶対アメリアはアレウスにガッツリと誘われると思うのでないと思うけどね。
「まあ案の定ですわ。ハブられましたわ」
まあその為に動いたようなもんだし。クフフ、家族とより馴染むチャンスをくれてやっただけでなく、ハブられることで若干の罪悪感も植え付けていき、頼みごとを断り辛くしてゆく……そしてそこに付け込んでドンドン糸電話で会話。
「最終的には、面と向かっても問題ないレベルまで持っていく……我が事ながら正に極悪な発想。善良な少年の心を利用しようとは、流石に悪役令嬢の素体、才能があったと言うべきか」
とはいえこのままほっといて後は何もせんというのもアレだから、一応様子位は伺っておくとしようか。アレウスの部屋だったけか……
「えーと、私の部屋の向かいの隣……あった、ここよね」
お、扉に隙間が。何とも不用心ですなぁ……どらどら、おばさんがちぇっくしてあげようじゃない。
「ふふ、あらあら、お菓子のかけらが……」
「あ、え、どこですか?」
「ほら、ほっぺのあたり……とってあげるから、じっとしてて」
アッ……(尊い)……めちゃんこ可愛い女の子と美形ショタとの組み合わせってそれだけで凄いのにさ、めっちゃ姉弟してんのよ? もうそれだけで拝むレベルだわ。
「とはいえ、アメリア取られた気がするのも事実……うーむ、乙女心って複雑?」
といっても前世から乙女回路を生かした事なんざないのでその辺りは初体験なわけですが。シュレクにも反応せんかった私の乙女回路、如何すれば動いてくれるのか。まぁいいや、置いておこう。
「こうして少しずつ、アメリアの好感度に付随する感じで好感度を地道に稼ぐ……」
こればっかりはチート手段は存在しない。へこたれる事無くチョコチョコやっていかないと。そうしていつか、彼との蟠りを無くせれば良いかな。
「……まぁ、それだけじゃないけどねぇ」
ほわほわほわ~ん……頭に浮かべ、温かい家庭の景色。お花畑を走る私、アメリア、アレウス、少女漫画の様なあまりにも平和な光景……圧倒的、圧倒的平和!
「可愛い妹弟からお姉さまと呼ばれる……何という楽園、エデン」
ふふ、素晴らしい未来像があればこそ、やる気も湧いてくるというもの……さて、そろそろいいかな? あ、テーブルに受話器出てるな、良し。
「おーい、聞こえる?」
あらかじめアメリアに糸電話の片割れを渡していたのである。
『……きこえます。ほんとうにどこでもこれで話すんですね……』
「まね。で、お菓子食べちゃったのよね?」
『え? あ、はい。おかしをぜんぶ食べたら「それじゃあ」ってアメリア姉さまが』
「そうよね、それで、まだ食べたい?」
『……へ?』
お菓子を食ってアメリアお姉さまと楽しい時間過ごしたいかって聞いてんだよ!
「どうなの? エンジョイ? エンド?」
『えっぇ? えぇっと……エンジョイ?』
「おっけ、追加のお菓子貰ってくるわ。待ってなさいねぇ、満面の笑顔になる位の量持ってきてあげるからねぇ?」
『えぇ!?』
「めっとらんさーん、メタリアでーす」
「はいはい。追加ね? 沢山焼いたから、持っていきなさいな」
「いえーす」
という事で陰の功労者メトランさんです。あとメイドさん数人がお手伝いとして着いてくださって居ますお菓子フル生産体制です。
「……すみませんこんな事頼んでしまって。まだ、挨拶とか忙しいでしょう?」
めっちゃ申し訳ないです。ぶっちゃけ私の悪巧みに巻き込んでしまって、ほんと申し訳ないと申しますか……
「ふふ。いいえ、気にしないで。あいさつ回りもまだあるけど、そこまで忙しくもないから、こうして暇な時も出来るのよ。その時間を娘二人と、新しい息子の為に使えるならやる気も出るってもんです」
バリバリ寛大! あ、頭撫でてもらって凄い優しい手つき……あぁ〜……! 最高!
「……メタリアが、やりたいと思ったことなんでしょう? 頑張りなさい」
「はい!」
メトランさん……いや、メトランお母様の後押しも受けたんだ、頑張るぞー! あ、お菓子はマドレーヌ、っぽい何かですか、うまそうっすね。
もう一人のお母さんがいたら甘えればいいだろ!
はい。




