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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
一章:技のゴリラ幼少期
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共犯関係、ナイスシルバー

「ねこ……さんは、かぶる、ものでは」

「ああいえ、そのような無理はなさらなくても結構ですよ。少々その……」


 目を少し伏せて、遠くを見て。言わずとも、痛々しいから止した方がいい、って伝えようとしてるのは丸分かりだった。色々切れた。静かに泣いた。子供がやるような、ギャン泣きじゃなくて、精神が擦り切れた社会人がするみたいな、クソ静かな奴。


「……いたいたしい、ですか?」

「いえ、そのような事は……いえ、旦那様のご息女相手に、嘘をつくことの方が失礼にあたるでしょうか」

「いたいたしいのですね……そ、そんなふうにみんなおもっていたんですか……」

「ああいえ、気づいているのは私だけだと思いますよ。まあ、他の使用人は、やはり経験が足りないのでしょうなぁ」

「じゃあだまっててくれたっていいじゃないですかぁ……」


 言わなきゃ誰も気づいていないんだからさ、私は知らずに済んだ訳で、とか真剣に恨んだ。でも表情はまだ真顔で静かに泣いたままだから、内心とのギャップが酷いなと思う。内は大火事、外は清河、なーんだ、私だ。


「まぁ、黙っていても構わないのですが……しかしながらですね、この頃から猫をかぶるのに慣れてしまうのは、流石にお嬢様の教育によろしくはないか、と」

「ウグゥ」


 ぐう正論、一発で黙りました。こんな小さな女の子の中にロクデナシバーモンドが入り込んでると分からなきゃ、他人から見た私は、性格が三歳から歪み始めているクソガキに見える訳だからな。

 むしろ自分のガキでもないのに情操教育的なものを心配してくれたマクレス爺に感謝すらした。


「す、すみません」

「ふふ。謝ることなど。とはいえ、今日ここで忠言することが出来て幸いでした……お嬢様は、私達にとっても大切なお方ですから、健やかに育って頂きたいのです」


 即座に死にたくなった。ロクデナシの私のせいで心配されてしまったこの悪役令嬢候補の少女に土下座したくなった。マクレスさんがいなけりゃやってた。違うんです、本当は私みたいなのが入ってなけりゃ、多分いい子に育っていたと居たと……すいません大ウソ吐きました。


「お嬢様のように、少し、人より賢い子供は、案外いるものです。そこまで気にせずとも構わないと、私は思いますよ」


 あぁ、違うんですよ。この子そういうんじゃないんです。私みたいなクソザコチートゴミ乙女の知識が入っちまってチート持っちゃってるだけなんです。なんか、自分の能力の高さに、子供の未熟な精神が怯えと傲慢を覚えてしまった、とかじゃない。騙してるみたいで罪悪感でゴリゴリ削られた。実際今でも騙してる。罪悪感で辛い。


「……とはいえ、そんな風に言われ、直ぐに直せるのであれば、何事も労せぬもの。そこで、なのですが」


 しかし、そこは有能マクレスさん。諸々の感情から頭を抱えて目をグルグル回している私の様子を勘違いしているとはいえ、中々ナイスな提案をしてくれたのだ。


「まず、私の前で猫を被るのをやめて見ませんか?」

「へ?」



 子供になって何が一番きついかといえば、こうやって猫をかぶり続ける事。

 無垢を演じる、というのは自分の汚れ具合を否応なく浮き彫りにする。端的に言って、時々恥じ入って墓に入りたくなる。そしたらゾンビになって(腐女子になって)甦りそうだなぁ。


「爺、ダメだ、私の文学的才能は絶滅している……」

「絶滅するほど元からないかと」

「正解だ、爺……」


 何もかんも忘れて母上様父上様に甘えるのは、実に心地がいい。だが、そればっかりだと、正気に戻ったとき普通に死にたくなるので、正気に戻る時間というのは、必要。


「……全部ぶちまけて、奥様や旦那様に手伝って頂くというのは」

「無理だ爺。こんなクソみたいな本性晒すくらいなら、己の無能と永遠と向き合うのも辞さない」

「究極の二択をすでに選んでらっしゃる。その生き急ぎぶりは、流石ですな……ここはこうした方が良いかと」

「おぉ、さすがだ爺。私では考えつかないような美辞麗句だよ……」

「基礎の基礎なのですが……」


 文学関係、というか芸術とかに関しては私は赤ちゃん以下だ。データとかでしか語れない。誰かと話すのは楽しいのに、そういう方面は絶望的なまでに不得意。私と芸術は源氏と平氏みたいに、反発しあう定めなんだと思う。


「決して相容れぬ宿敵なんだよ……私と芸術的な感覚は」

「鍛錬不足かと」

「さすが爺、容赦のない正解だ」


 うん。でしょうね。言い訳してすいません。


「く、妹への大事な手紙だ……絶対に、仕上げて」

「半ばまでの出来を見る限り……私が代筆するという案が、あながち無意味とも取れなくなってきたのは、いささか寂寥の念を禁じ得ませんな」

「さすが爺だ、完全無欠の正解だと思う」


 まぁ、この有能な爺に、今も私は救われている。一単語出したら即座に訂正入れてもらうレベルである。文盲すぎて草も生えんわ。

 これも将来の生存への伏線とはいえ……キツイ。


「あー……もう無理」

「弱音を吐いてはいけませぬ。服ひとつの絵を仕立てるのに比べれば、文章ひとつ書く程度、どうということはないでしょう」

「ちょっとどこで聞いたそれ!?」

「旦那さまから……と言いたいところですが、ふふ。爺には特別な耳があるのですよ」

「何!? 密偵か何か出してるの!?」

「お嬢様のご想像にお任せしましょう」

「コワイ!」


 それと、お父様といい、お母様といい、この謎の有能さで私を心胆寒からしめるのはどうして? 大公家って寒気するくらいの才能がないといけない家訓でもあるの? クソッタレェェェッ! チート持ちでもリアルバグキャラには勝てんのだよ!


こういうスゲェ怖いくらい有能な爺キャラ、あまり見なくなりました……→ならオレが書くんだよ!

という事で、マクレス爺は出来ました。

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[一言] 爺さん容赦ねぇ...!www
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