ネタバレ:モノクロカラーな厨二の極み
さーて、あと一本。アメリアの心を射止める矢が欲しい。
肉体と精神は抑えた、あと一本で、どこを打ち抜くかが勝負のカギだ。
「肉体、精神……とくれば、あとはなんだっけ……魂とかだっけ」
要するに精神を燃やす為のエネルギー、だとか。パソコンで適当に調べた精神論のページに載ってた気がする。
「うーむ、魂に響くもの、精神のエネルギーになるもの、かぁ」
正直に言おう。思いつかん。
だって前世が前世ぞ? 私はかわゆい女の子とスーパーイケメンが甘いひと時を過ごしているのを見るだけでもハイオク満タンになるが、普通はそうはいかん。
「つーか、昔っから私の視点、ズレてんだよね……」
乙女ゲーの主人公を自分として投影するでもなく、『主人公の恋愛』そのものを兎に角楽しんでるから、話が合わない合わない。どの攻略対象が好み、ではなく、どの攻略対象が主人公ちゃんとくっ付けば幸せになるのか、を一番に考えていた。お母さんかあたしゃ。
「うーむ、このズレたオカン視線とかいうフィルターをどうにかせにゃ、魂に響くプレゼントなんて選べないぞ……」
目にかかった邪気のフィルター、無邪気ならぬ邪気眼だよね。厨二病とはちょいと違う邪気眼。私の邪気眼はお主とは違う次元にあるものだ。オカンじゃなくて厨二じゃねーか。
「……む? むむむっ? なんか、今、引っかかった気が」
なんだろう。見えてきた気がしないでもない。この錆びついた感性に、何か、ビビット(鮮烈に)来た気がする。
「だが……形にならないなぁ」
そう、見えた気がしたのだが、その見えた物が何かなのかがサッパリポン酢。少なくともポン酢ではないけど。
「だが、発想は、その辺りだ……未来の知識を持つ、私だけが出来そうなこと」
そんな気がする。じゃあさっきまでの支離滅裂な言動の中に、どんな要素があった? ピックアップしよう、課金もいいぞ!
「……前世、邪気眼、乙女ゲー……違う、なんか、違う。根本的な事が……あっ」
閃いた!
「おとうさま、しつれいします」
「メタリア。私の部屋に直接来るなんて、どうしたんだい?」
「じつは、ひとつ、おとうさまにおねがいしたいことが」
まあ、ホントは母上様に頼るのが良いのかもしれんが。とりあえずお母さまに頼ったから、次はお父様という事で。よく考えたら、頼る機会もアメリアが来ちゃえばグッと減るだろうしね。今の内に駆け込み、駆け込み。
さて。この国では、王家もそうだが、大公家たる我が家も、それなりの衣服で着飾る為に御用達、というより専用の店を確保している。職人をお抱えにしないのは、やっぱり職人の技は広く広まるべきという、お父様の方針から。
「久しいなジョランゼ、私の娘、メタリアだ。良くしてやってくれ」
「はい。大公様。ご機嫌麗しゅう、お嬢様。仕立屋、『シルバリオン』の店主、ジョランゼと申します。以後、お見知りおきいただければ、幸いです」
「は……え、えぇ。よろしくおねがいいたしますわ」
でもすっげえ貴族慣れしてるのは流石。慣れてないのは私だ、障子みたいな化けの皮が剥がれそうになった。一般人家庭の人に大公家が普通に挨拶とか、アウトである。
「いやぁしかし、本当に美しいお嬢様ですな。宝石、と例えるのが陳腐に思えるほど、美しいこの瞳。外見だけではない、内面の美しさも滲み出ていらっしゃいますなぁ」
「ふふ、そうだろう、そうだろう」
しかも、お父様とジョランゼさん、いや並ぶと絵になること。
お父様も口髭の似合う、自信に溢れたナイスミドルだが、ジョランゼさんは、顔の皺すら美しさに組み込まれているタイプ、優しい笑顔の似合う髭いらずのイケオジだ。親しみがある。
「あれよね、べつたいぷのいけめんだからこそ、よね」
「ん? 何か言ったかい? メタリア」
「いいえ、なにもありませんわ、おとうさま」
あっぶね、今、完全に化けの皮剥げてた。前世の乙女ソウル出て、魂十歳近く老けてたわ。魂をアンチエイジングしないと。
「そうかい? あぁ、ジョランゼ、今日はここに来たのは他でもない、この私の愛娘が仕立て屋に行きたい、と、私に、可愛らしい、わがままをっ……っ!」
お父様が泣いてる。うん、ズボラな私でも分かる。感涙ってやつだ。え? 娘のわがままって、そんなに嬉しいものなの?
「大公様……えっと、とりあず落ち着かれては、お嬢様が目を丸くしておられます」
ナイスジョランゼさん。この人、親バカモードに入ると長いから。
「う、あぁすまない。いや、この子は昔から無欲な子だから、こんな風におねだりされるのも、嬉しくてね。やっと親らしい事が出来る……」
「なるほど、そのような事情が。おめでとうございます、大公様」
うーむ。真っ先に母上様に頼ったことは言わん方が良さそうだ。喧嘩にはならないだろうが、多分泣く。普段から見てるとそれくらいはしそうで……あれ、おかしいな、大公様がなんでこんなに精神が不安定なんだろうか。
「それで、大公様。お嬢様の御用というのは」
「あぁ。すまない、要件がまだだったな。実は……さ、メタリア」
「はい。じつは、あたらしくできるかぞくに、おくりものをしたくて……それで、ですね」
ふふふ、さぁさ御覧じろ。元リケジョ、兼悪女候補の頭脳をフルに活かして作った想像図! 理系はスケッチとか意外にするからね、絵心もそこそこあるのよ。芸術関係はゴミレベルだがな!
「これを……」
「これは、絵、いや、画と言った方が……ほう!」
「……ほう、ほう。これは」
「それでは、よろしく頼むぞ、ジョランゼ」
「よろしくおねがいします」
「はい。見事成し遂げてみせます。お嬢様の生み出した、この案は、きっと世界に二つと無い素晴らしい贈り物になりましょうや」
あー、ジョランゼさん、礼の所作まで流麗っていうか、美麗っていうか。さすが貴族御用達の職人さんだ。正直無茶な注文押し付けたと思ったけど、まさにプロって感じのこの人を見てると、なんでもイケそうな気がする。
「楽しみかい? メタリア。いいや、聞くだけ無粋だったね、自分一人であれを頑張って作ったんだからね、妹に渡すのは、楽しみだよね」
「はい、おとうさま」
まぁ、楽しみかは微妙っす、パパ上。だってあれを気に入ってくれるかは主人公ちゃん次第だしね。
『戯けた贈り物をしおって、我への侮辱、万死に例えようとも未だ足らぬ……主の首を刎ねて、部屋の飾り物とする事で、この溜飲を下げるとしよう』
とか言われたりしたら私、失禁するんじゃないだろうか。いや、主人公ちゃんそんな百錬の世紀末覇者みたいな豪傑セリフ言わんと思うけど。言ったらファンの皆号泣すると思うけど。私もするけど。
勘の良い紳士淑女の皆様なら、もう、お分かりですね……こんな発想しかできない貧相さに泣ける。
もっと、「アッ」と言わせるような発想が欲しい。
明日からは、二話投稿ではなく、一話ずつの投稿になります。よろしければ、暖かく、優しい目で見てくだされば幸いです。