幕間:(お淑やかな主人公像の)終わりの始まり
お姉様は、とても力づくを好まれる。
この前の焼き討ち、投石、ロイさんを仲間にする。今回のロイさんによる無理矢理な突っ込みに、急所に肘打ち、喧嘩でコミュニケーション、そして投石。すべて力づくだ。
「ちからづくって、とてもすごいことなんだ……」
私から見れば、とてもどうにかなるとは思えない無茶をどうにかしてしまうお姉様のやり方は、怒られて当然の事には見えない。
「おねえさまはまねするなっていってたけど……そんなことないわ」
もしも、お姉様のあのやり方を少しでもマネできたら……私も、もっと逞しく、もっとお姉様のように見事に物事を解決できるのではないか……常にかっこよく、シュレク様との別れも、私みたいにウジウジしなかったお姉様の様になれるのではないだろうか。
「おねえさまに、すこしでもちかづくために」
努力してみよう。いろんな人に聞いてみよう。
「やめておいた方がよろしいかと、アメリア様」
「どうして!?」
マクレスさん……私の家に来たこともある、この家で一番偉い使用人さん。なのだけど、その人がしているのは、とても困った顔だ。どうしてだろう。
「あの方のやり方は……確かに物事を解決に導くこともありますが」
「そうでしょう! おかあさまがさわられたときだって、こんかいだって」
「しかしその代わり人としての大切なものを失い、別の何かに成り果てかねない手段です」
「そんなおそろしいものなの!?」
お姉様大丈夫なのかしら。とても心配になってきたわ。
「いろいろと投げ捨てているあの方だからこそ、あのやり方が取れるのであって、他の方ではとても無理です。まず勢いが持続しないと思われます」
「いきおい?」
「そうです。ありとあらゆる論理と必要な過程、それらをねじ伏せ、黙らせるだけの勢いです。なんというか、お嬢様の奇策と気迫は、毎回鬼気迫るものを感じるのですよね」
あれ、マクレスさんどうしたんだろう、急に外の彼方なんて見つめて……そして、とても疲れたような顔をしている気がする。
「それに、正直申し上げますと私とか奥様方とか旦那様が持ちません。あのような噴火直前の火山の様な少女が二人で精一杯暴れられては」
「おねえさまは、えっと、かざん? というものではないわよ……?」
でも、なんでだろう。多分だけど、とてもお姉様に対して失礼な事を言っている筈なのに、ぜんぜん失礼には見えない。マクレスさんが、今にも消えてしまいそうに見えているからだろうか。
「……まぁ、ともかく、アメリア様はそのままでよろしいかと思いますよ」
「うーん……そうなのかしら」
な、何だか一人目でとても不思議な気持ちになっちゃった……落ち着きましょう、まだ一人目よ、ちゃんと他の人にも聞いてみないと、分からないわ!
「よしなさいアメリア、それは地獄への門に等しいわ」
「ごじぶんのむすめですよねルシエラおかあさま!?」
目が、目が凄い。こういうのを、『目が据わっている』というのだろうか。とても透き通っているけど、想像すらできない重さを、目から感じる。
「……あの子は、あの子はね。いささか特別なの。才覚が、とかそういうのではなくてね」
「はい」
「あの子にとって、力業というやり方は、正に魚にとっての水に等しいわ。それさえあれば無類の強さを発揮できる。その事実に間違いはない。けどね」
あ、お母様もずっと遠くを見ている。どうしたんだろう、どうしてみんなして遠くを見るんだろう。何か見えているのだろうか。
「私たちにとって……あのやり方は、ともすれば毒になりかねないの。真似が出来るものではないの。というか、して欲しくはない。メタリアには、本当に申し訳ないのだけど」
「あ、ルシエラおかあさま、ないてる」
どうしてお姉様のやり方を真似してみたい、といっただけで皆さんこんな反応をするんだろうか。お姉様は、とても凄いことをなされているというのに。
「あの子に悪気がない事は分かっていますけど……分かっていますけど……ただ、この子だけは、まだ何も知らない、この子だけは……っ!」
「お、おかあさまがもっとたくさんないてる……!?」
お姉様が何をしたっていうんだろう。なんだか、お話の中の怖い魔王様みたいな言い方をされているんだけど……
「それでも、それでも私はあの子を……この世の何よりも……」
「ルシエラおかあさま? ルシエラおかあさまー?」
どうしてだろう。本当にお姉様のやり方って真似するべきなんだろうか。分からなくなってきた。うーん……良し、お母様にも聞いてみよう。
「メタリアさんの? えぇ! それはとても良い事だと思うわ!」
「おかあさま! おかあさまはわかってくれるのね!」
ようやく、賛成してくれる人が出てきてくれた……良かった。
「メタリアさんは、とても逞しい子だもの。あの逞しさ、そして格好良さは、この貴族様方の生きる世界を潜り抜けていくためには、きっと役立つわ。何物にも負けない、とはああいう事を言うのかしらね」
「……そうよ、そうよ! おかあさま! おねえさまのあのすがたに、わたしほんとうにあこがれているの!」
何だか、お姉様のやり方が、凄まじく危険なモノである様な言い方を皆さまがされるから、私も不安になってしまったけど……うん。
「それに……貴女の心はもう決まっているんだと思うわよ?」
「え?」
「自分でどうやるって、もう決まっていて……けど、こうして自分の生き方をしっかり決めるのは初めてだから、怖くなってしまって、誰かに助けを求めた」
「あ……」
そっか。そうなんだ。お母様に言われて、しっくりきた。私は、お姉様のやり方を真似しようと思ったけど、本当にできるか、怖かったんだ。
「貴女は強い子よ。アメリア。心配する事なんて無いわ。貴女なら、きっと出来る」
「おかあさま……」
「一つだけアドバイスよ。あの子の様に、強く生きたいなら、絶対に迷わない事。どこまでも突き進む事、そして……決して諦めない事。それを、頭に置いておきなさい」
「……っ! うん! ありがとう、おかあさま!」
お母様に相談してよかった……私、漸く一歩を踏み出せる気がする。
「わたし、がんばってみる」
「えぇ。行けるところまで、行ってみなさい!」
「はい!」
「ということできしだんのみなさま! わたしにちからづくをおしえてください!」
「「「「……えぇ?」」」」
皆さま、お待たせしました……ア メ リ ア 改 造 計 画 開始です。




