金で買えない物はある……明るい未来とか。
ドンドン行こう対策三。
「モノで釣る!」
クソかな? クソだな。クソだよ。
「自分の部屋のど真ん中で、クソクソ自分を罵る幼女……控えめに言ってもエクソシスト……イヤイヤ、気にしてる場合じゃない、そこじゃない」
このクソみたいな結論に至った理由? この年頃の一般家庭のお嬢ちゃんに一番効くのって、要するにブツじゃん。コネとかカネとかあんま意味ないじゃん。
「ならば誠意と命乞いの籠った贈り物、この手に限る」
昨日ベスティと会話できたのは僥倖だった。さすが貴族の令嬢、最近の流行りを掴んでいる。いやまぁ、お前もご令嬢だろ流行位掴めや、というご指摘はご尤もですが……中身は婆ギリギリだし、ね。流行りに疎くてもね。
「という事で、最近の流行りは髪飾り……それを元に考えてみよう」
ベスティ曰く、自分が欲しいのは可愛さを全面に押し出した奴、らしい。活発でキュート系なベスティに良く似合うだろうから、間違っちゃいない。さて。
「ここから考えるに、持ち主の見た目と、雰囲気は、半々ぐらいで考えるべきか」
ヒロインの見た目は、何となく覚えている。私のメタルカラーとは似ても似つかぬゴールデンなフワフワヘアーで、守りたい系。
「となれば……落ち着いた感じの奴がいいかな。でもちゃんとした奴を買いたいし、ちょっと母上様に相談してみようかな」
「さ、メタリア、しっかりと選びなさい。母が見ていますからね」
「ハ、イ」
ダメだーっ! 反省しろ過去の私! 見ろよ、この控えめだけど美しい芸術品並みアクセサリの数々! 輝きであたしが死ぬ!
「……だめだろこれ」
「ん?」
「なんでもないですわおかあさま」
やべぇ、いよいよもって素が出た。落ち着け私。
冷静に考えてみれば、質素倹約を知っていて、それと同時に、貴族としての気品と粋も知っているのが母上様だ。家族への贈り物に糸目なんて付けるのは無粋だもんね、ケチったりしないもんね。
「で、ではみてまいりますね」
「ええ。行ってらっしゃい。良いものが見つかるといいわね」
逝ってらっしゃいに聞こえた。間違っちゃいないね、こんなハイソだけど廃値がつくもの贈ったら悪印象確定だもんね。そうだね、ゴールデンだね。
「ち、ちくしょう……だが、ここで別の店に連れてけなんて、それこそ言えん」
私は『すなおでよいこなめたりあちゃん、のこりじゅみょうふめい』なのである。あくまでここで、お母様おススメの店で、ウルトラCを見つけ出さねばならぬ。
「く、くぅ、とはいえ……」
チラと商品の陳列するケースを見る。連なる大粒のパールが目にまぶしい。一つ一つがギロチンされた私の首に見えてくる。
「ぐ、ぐぬぅ」
アクセサリの掛けられた石膏を見る。親指位ある赤いルビーが怪しく光っている。血の色にしか見えない。私の血がこんな綺麗か知らんけど。
「ダメッ……どれも、死亡フラグっ……」
眩すぎる。こんなん給料三か月分とちゃうやん。お母さまに、ちょっとしたものを贈りたいって言っただけなのに、どうしてこうなった。
「な、なにか、なにか逆転の一手を……うむ?」
店主の座るカウンター、あそこに貼ってある紙、なんか書いてあるな。なになに?
「『特注製アクセサリー、一から制作するも既存のアクセサリーを作り直すもご自由にお受けいたします』……だと」
こ、これだッ!
まぁ、私も自慢じゃないが、アクセサリーぐらいは持っている。社交パーティの様な貴族の見栄っ張り大会の時にお父様達に付いて言っても最低限恥をかかないように、そこそこ目立つ奴を着けていくのだ。
「と言っても、あまり派手なのが好きじゃないから、まあワンポイント宝石が一個光ってる、くらいのモノばかりだけど……今回は、それが幸いしたわ」
自分のアクセサリを、髪飾りに仕立て直して分けてあげたい。そんな、傍から見りゃお姉さん心が芽生え始めているような微笑ましい意見に、母上様は破顔しておられたが……当然、本心はそこではない。
「くくっ、持てる物を姉妹に分ける姉ムーブに、大切にしていたアクセサリを贈るという親愛ムーブ……アメリアの心をガッシリ掴む完璧な差配、勝った、対策三、完!」
人の善意に善意擬きで漬け込む、スーパー下衆タイム。下衆でもいい、命が惜しい。
「取り敢えず、一番使ってて、そこそこ映える奴を母上様に預けたから、うん。大丈夫」
これで、一番デカい贈り物は手に入れた。と、思いたい。
「あ、と、はぁ……何が良いだろう」
贈るものは一つ、そんな甘い考えではこの先の戦いを生き残れぬ。三本の矢、三種の神器、ジェットストリームアタック、三銃士、それくらいの勢いで、三つは用意したい。
「うーむ、となれば二つ目は……」
ここは自力で調達、または所持しているものからまた分け与えるか。しかし、問題は母上様に頼れなくなったこと。家族へのプレゼントという一点が仇になった……そりゃ家族へのプレゼントをだれがケチるんだって話よ。
「兎も角、お母さまには頼れないとなれば……私の趣味、読書か」
蔵書以外にも、何冊か自分で所持、というか、貰い受けたものはある。その中から子供向けの本を一冊……一冊……一冊?
「よく考えたらあの子、文学は読めるのだろうか……文字は、問題ないと思うが」
家の手伝いをしていたのだから、計算位は出来るし、数字も読める、とおもう。だがそれと文学系の文章が読めるというのは大違いである。私、前世でなんとかなんとかスキー系の文学を読破できた試しなし。
「そして今生で私が読んでるのって、基本児童文学……っぽいのだもんなぁ」
生まれてから背伸びはせず、児童文学、に分類されるであろう物を読み漁っていた私なら文章を読めても、むしろ当たり前くらいだが、アメリアはそうでは無いだろう。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……どうすれば」
……今、胡坐で腕組んで頭捻ってる訳だけど、とても貴族っぽくは見えないなぁ……マナーなんてないも同然と言うか……うむ? マナー?
「……それだっ!」
急いで飛び起きて、本をしまっている棚へ。文章を読める、文字も分かる、つまりある程度は読み書きができる私だ、当然、アレは自力で(従者付きでの買い物だが)買っていた。まあ、転生者っぽい事したかったのだよ、ちょっとだけ。
「あったっ! 日記帳!」
しかし、私が面倒くさがりなせいで、結局の所中身は真っ白だ。だがこの場合、これが都合がいい。むしろ何か書いてあったら面倒だった。全部消さにゃならんし。いや、鉛筆ないしインクだから消せないし。
「交換日記……我ながら、恐ろしい発想だ」
二人組がそれぞれ、日記に今日あった出来事や伝えたい事を書いて送り合う、交換日記。普通は恋人がやるものだろうが、姉妹でやってはいけない世界の摂理は無い。
「貴族のマナーとか、淑女の嗜みとかをさり気なく日記内で教えて、頼りがいのあるお姉さまとして好感度アップ。ぬふふ、我ながら天才が過ぎる……」
前世を思い出した時から、私も苦労した所だ……誰か、先生ではない身近なアドバイザーが居れば心強いと何度思った事か。お父様とお母様? パーフェクトすぎて参考にすらならんかった。
「プレゼント……というには違うかもしれないけど、好感度アップにには繋がるはず」
二本目の矢は、これで決まりだ。
贈り物に関しては完全に独断と偏見で決めて居ますね……はい。
うわ、ダッサwww、とか言われても土下座して謝罪するレベルです。