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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
一章:技のゴリラ幼少期
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幕間:子煩悩な彼が大公になれた訳

 身内からまさか裏切り者が出るとは。想定すらしていなかった……全く、私の締め付けが甘かった、という事だろうか。全く、自分の不足を恥じ入るばかりだ。

 さて……この名前すら覚えていない親戚の男、どうするべきだろうか。


「……ヴェリオ、貴様も耄碌したな。大公の家に俗世の血を入れるだけでなく、王家に乱をもたらしかねない、災厄の種を守るとは。宮廷一と名高い辣腕も、腐り果ててしまえば」

「口を慎め、俗物」


 この前の一件で随分と脳天に来ていはいた。それでも……まだ、まだ一回目なら本当に、本当に腹立たしいが、我慢も効いた……一度目は、だが。


「私の娘に手を上げようとした一回、そして王子の襲撃の一回、これで計二回、全く、我慢していたのがバカらしくなってくる……」

「その二回とも、尊ぶべき血を守ろうとしての行動だ、正義は私にある!」


 ふん、血筋、か。下らない理由付けだ。まぁ、この様な古典の闇の部分ばかり飲み込んできた耄碌した老人が言いそうな事ではある……とはいえ、これを利用せぬ手はないないだろうな。


「大仰なことを言う……大体、尊ぶべき血……だったか、それを重視するのであれば、シュレク王子を狙う理由はない、と思うのだが」

「……確かに、シュレク王子も、尊ぶべき血ではある、しかし彼が第三王位継承者に滑落したその理由、忘れたわけではあるまい……」


 ……知らぬわけはない。私も、そのあたりの事には関わっている。


「シュレク王子は、あまりにも、聡い。聡すぎる。幼いながらにあそこまでの才覚を見せると言うのは、もはや異常と言ってもいい……その弊害か、些か感情に乏しい部分すらあった。王とするには、あまりにも不安定だった」


 国王様も、その点を見抜かれいたからこそ、シュレク様を王位につけるのを危惧なされて、ごく限られた人員、私を含めた数名に相談し……此度の、結論に至った。


「故に、継承者としての位を下げる決断をしたのだ」

「王としての器ではないなら、継承者としてではなく、ただの王族として扱いを下げるべきであろうが! 前例は全てそうであった!」

「その前例は、全て成人になってからのもの。幼子に対して適応するには、あまりにも年の差がありすぎる故に……その様に取り決めがなされたはずだ」

「貴様らは分かっておらん!」


 ……随分と騒ぎ立てるものだ。とは。今の状況を正しく理解しているのだろうか。


「前例に習わぬ、と言うのは、何が起きるかわからぬ……王家には一分の翳りすら許されぬのだ、年の差程度を国の安定と比べるなど……! 故に、私達は、日常生活の中であれど、シュレク王子を探し出し!」

「前例から大きく外れた事態に無理やり前例を当てはめる事こそ、混乱を招くのではないか。筋が通っている様に見えて、実際は破綻した理論……語るに落ちているな」

「っ」

 この無様な様は……やはり、この男は末端か。この男をどうこうして全てを吐かせるよりも、こいつの繋がっている先を考えた方が良さそうだ。


「それに、シュレク王子とていつまでも感情を見せないまま、というわけでもない」

「何?」

「ここに滞在なされている間、シュレク王子は、以前とは比べ物にならぬほど感情豊かになられた。表情に乏しい、という評価自体を覆す程ではないが。それは、あの方に相対した貴様自身も見ただろう」

「そっ、それは! それ、は……」


 この家でも、基本的にポーカーフェイスは崩さなかった。しかし、最終的に、今まで眠っていた子供らしい感性が一気に息を吹き返して、言葉にも、来たばかりの頃にも増して温かみが宿ってきたように思う。


「少しずつ変わろうとしている若者の芽を、すでに示されている解決策すら無視してつぶそうとするのは、まさに悪逆。貴様に正義を語る、資格はない」


 そうだ。良い方向に向かわれている。幼いままに、王家の血を利用される恐れから腫物のように扱われたころからは、似ても似つかないだろう。


「……だが、だがその変化は本当に良いものなのか、それは分からんはずだ。あのような品もない、まるで猿のような娘から受けた影響ならば……それに、知らぬとは言わせぬぞ、あの娘とて、王子と同じようにバケモノじみた」


『すてき! ぜひつれていってくださいな!』

『あのお父様、少し休まれた方が……そろそろ、あの、血の量が、あっ、またダバって』


『あの、お父様』

『なんだい、メタリア』

『ロイを引き取るなんて急に言いだしたりとか、今回の事とか、その』

『あぁ、もう平気だよ。でも、今度はあまり無理をしないでおくれ』

『は、はい……あの、えっと。色々ありがとうございます』


『お父様!』


「黙れ」

「っ!?」


 ふむ。どうやら、この男は痛みを覚えねば言葉を慎まないらしい。少しばかり反省するかと思っていたが、まあ無理か。使うのは……アレにするか……さて。


「本当によく喋る……余計な事まで喋らない様に、余裕を削ぎ落とす必要がありそうだ」

「何っ、ま、まて、その右手のモノはなんだ、よせ、よせ!」


 騒いでいるのは無視し、その腕を掴む。こう言った事をやるのは久しぶりだが、まぁ手加減はする必要もないだろう……さて、まずは。


「や、めろ! 腕を、腕を離せきさまぁ!」

「黙れと言っている」

「ッッッギィ!?」


 ふむ……この、ヤスリはなかなか摩り下ろしやすいな。一撫でするだけでここまで肌をズタズタに出来る。最近のは、昔の物より質が良い。フフ、これはこれからが楽しみになってくる。


「さて……今度からは余計な事を言うたびにこれを使うとしよう……少しは、無駄な発言を慎む気になったか?」

「あっ、あぁが、ギャイィ……!」

「……まだ一撫でしただけだろうに大げさな。これだけで済むとは一言も言っていない」


 ……随分と怯えた顔で見るじゃないか。

 責任転嫁、逆恨み、この二つからの失言は確実に飛び出すとみている。あと二回は最低限耐える必要がありそうなのだが、まぁこいつには分かってないだろうから、当然か。


「さって、暫くは私と二人きりな訳だが……先に喋っておきたいことはあるか?」

「ぐぃ……ふ、ふざけるな、誰が喋るものか! 王家の守り人としての、誇りを忘れた貴様などに!」

「そうか」


 ふむ、なるほど……ある程度特定はできたな。血筋重視、保守系等、手段を択ばぬ手口に、自らに正義ありという思考回路。ここまでくれば、あとはどのグループであるか、調べるのも容易い、か。


「……この紙をマクレスに。この特徴で、該当しそうな人物を出来る限り探るように」


 後ろに控えていた使用人に、こっそりと聞き取った情報を書いた紙を渡して……これで仕事は終わりか。まぁ、そう難しくもなかったな。


「は、承知いたしました……旦那様は?」

「決まっているだろう。仕事は終わった。ここからは……私怨の時間だ」

「はっ……あまり昔の様になさるのは、宜しくないかと。如何に貴方様が、あの王宮で」

「分かっているさ……ただの子煩悩の父親になったと侮られていた方が、やり易くもあるからな」


 それに、娘達にこの側面は見せたくない。せいぜい怒ったらちょっと怖いくらいで良い。


「おい、聞いているか俗物」


 たっぷり時間はある。生きてきたことを後悔する時間で、残りの人生を埋め尽くすとしようじゃないか。


「それでは……お前から欲しい情報を引き出すまで、私は少しばかり冷徹になる。せいぜい情報源に対する慈悲を、期待すると良い。では、始めるとしようか」


 まぁ、もうそんなもの存在すらしないが。


甘いだけじゃ宮廷内を生き残るのは無理なんです。

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