お母様大好きお嬢様
「……」
一瞬、いや、制圧に刹那もかからなかった。消えたと思ったらオッサンが壁の本棚に叩きつけられた。おっさんは完全に意識が飛んで、アヘ顔を晒している。怖かった。
「あの人も、王家を守護する役目を持つ大公家の身内から裏切り者が出るとは、想像もしていなかったようね」
そして今現在進行形で怖い。険しいとしか言いようのない表情してる。私が美人系で、それをより凛々しくしたお母様だ、怒った顔の迫力は類を見ない。
「……」
「お母様、聞こえて無いと思いますよ、その人」
「独り言です。それよりメタリア」
「はい、此度の一件全て私の蛮行にございます、全くもって言い訳のしようもなく御座候」
即座に正座。怖い。怒ってる。凄い怒ってる。この前は泣いてたりもしたけど、今回は二度目。おそらく僅かな甘さすら残っていない……私も、この世に別れを告げる時が来たか。ふふ。
「貴方の出身は大公家でしょうに、異邦人か何かですか……全く、違います」
「へ?」
「今日は叱りはしません……貴方は、叱っても自分の感情は裏切れない子のようです。ならせめて、怖い思いをしたなら、慰めるくらいはします」
さ、って。手を広げて……これはまさか、まさかまさかの、ハグですかぁああっ!?
「えっと」
「頑張りました、とは言いません。褒めたら、嬉々としてまたやりそうですから……けど怖い思いをした事へなら、少しくらいは、甘さを見せてもいいでしょう」
「あ、あ」
お母様が笑った……優しく笑った……もう無理、限界。
「おかあしゃまぁあああああああっ!」
「はい、怖かったですね。よし、よし」
あぁ、抱き着いた感触が、シャツの感触とお母様の柔らかさが……落ち着く、パンツルックの凛々しいお母様に、だっこされて、背中をポンポンされるなんて……なんだ、ここは地上の楽園か?
「うぅぅぅぅうおかあしゃまぁぁぁあ」
「……よし、よし」
頭、頭! 優しい手つき! もっと撫でて、もっともっとぉ! さっきオッサンの顔とか怖かったけど泣くほどではなかった。でも今は泣きそうになる。癒しってヤバいですね。
「……おねえさまのあんなひょうじょう、はじめてみました」
「メタリアは、お母さん子、と言う奴なのやもしれないな」
あぁぁぁぁ好き好きママ好き。大好き。
「……はい、これは避けられないって分かってました」
「メタリア、聞いていますか」
「はい、申し訳ございませんお母様。いや本当に、申し訳ない」
結局叱られてます。はい。まぁ、そりゃそうですよね。飴ばっかりはないですよね。当然鞭もありますよね。うう、二度目の正座キツイ……痺れる、足痺れる。
「アメリア、貴族になる、という事は、無茶も平気でこなす、という事ではないとあれほど言ったでしょう! お姉様をちゃんと止める、と言っていた嘘吐きの口はこれですか!」
「おかあさまごめんなさひ~~」
あぁアメリアのもちもちほっぺが引っ張られている。かわいそう。代わってあげたいけどこっちはこっちでキツイので代わってあげられない。ごめんね。後メトランさん、怒ってる時も可愛いね。お母さまほどの迫力はないね。
「まったく……王子、聞いていらっしゃるのですか!」
「あぁ、すまないと思ってはいる。だがあのまま連れ去られるよりはマシだと思った。反省はしていない」
「反省もしてください!」
そして、お母様方に怒られてどうしようもないわしら二人に比べて、シュレクのあの図太さよ……多分、王宮勤めだろうおっちゃんにしかられているというのに、眉一つ動かしてない。お父様? なんかさっきのおっさん連れてどっか消えた。
「爺、助けて……」
「この前のお説教をさっぱり忘れて再び無茶をやらかすようなお嬢様など知りません」
「いやほんと申し訳ないとは思ってるってさ……」
四面楚歌とはこう言う状況だろうか。うぅ、辛い。
「フゥ……しかし大公妃、此度は本当に紙一重でしたな。まさか、大公の身内に裏切り者が出るとは。そちらのご息女が居なければ、本当にシュレク様が拐かされて居たやもしれません」
「あまり此度の行動を褒めたくは無いのですが、しかし、事実ではあります。二人が居なければ、致命的な事態になっていた可能性は高い」
うぅ、いよいよ痺れて来た……辛い、辛い……ん、あれ、なんか言ったのかなお母様!? やっべ聞き逃した、怒られる、耳にも意識集中させんと……あ、でも膝きつい。
「大公から出た、あの案を実行に移すべきでしょうか」
「……個人的な感情の話をするならば、あの案には反対です。まだ二桁にも満たないこの子を、まだこの様な薄暗い謀には近づけたくありません……いかにこの子が聡いとはいえ、です」
「しかし効果的なのは事実なのですよ。最も厳しい部分も宅のご息女はクリアしているのです。この策が上手くいけば、おそらくは諸々の問題をですね……」
とかやってたらなんかすっごい企みのお話が耳に入ってきたんですけど。やだ、むしろこれ足の痺れにかまけて聞かない様にしてた方が良かったまであります?
「それは……そうですが。それでも親としては、是と言う訳には参りません いかに今まで、その年では信じられない様な無茶を繰り返してきたとはいえですね……」
「私たちも、手段を選んではいられないのですよ。お願いです大公妃、ご息女を……」
あ、やっぱり聞くのやーめた。ワタシナニモシラナイ。
不穏だ……不穏すぎる。手段を選んでられないとか、何。私は何をさせられるの? あれ? もしかして無茶しすぎて死亡フラグ的なのをどっかに立ててました?
「……い、生き残りたい……」
やっぱりお母さんて子供には大切な存在だと思うんですよ。
で、こうなりました。