伝説の母上の凄まじさ、思い知るがいい!
大丈夫ではなかったです、はい。
ぶち殺してやる。そんな一言が聞こえてきそうな表情になり申した。いやー……五分くらいおちょくって弄って揶揄いまくりました。そりゃこんな表情にもならぁな。
「ハァ、ハァ……怒らせ、すぎたかしら、っていうか、ハァ、大人はまだこないの!?」
「この書斎はしっかりとしたつくりではあった。さらに周りを護衛で固め誰も近寄らないようにしていたが、それが逆に仇になったか」
音があんまり漏れづらくて気付かれにくいって事!? 畜生なんてこったい! へ、部屋の前の門番さんを置いたままなら……いや、私達が居なかったらシュレク攫われてたろうし……うーん、うーん。どっちが良かったんだろ。
「く、くく……どうやら、まだここは安全らしいな」
「おのれ、唯のラッキーの癖に、ハァ、ドヤ顔するんじゃない!」
「知っているぞ、こういう状況をブーメラン、というのであったな」
シュレクうっさい。私が誘拐阻止できたのが偶然だなんて事、自覚はしてるわ。
「でも偶然でもなんでも、シュレクを助けられたからいいじゃない」
「別にこの状況が偶然の産物であるから、あまり突飛な行動に拘る事をしてはいけないとは言っていない。ただ相手の態度にどうこう言うのは無理があるという話だ」
「ぐぅの音も出ない正論をどうも……」
後お母様が言いそうな言い方をしないでください。後でまーたお母様に絞られるのが目に見えてるんだからさ……さて、現実逃避はここまでだ。
「これだけ暴れても気づかれないって事は……ヤバイ?」
「恐らく、奥方はここから離れた場所にいると思われる。屋敷から離れた修練場が最も可能性が高いか」
「あー……そりゃ近くに居ればお母様が気付かない訳ないし……」
如何に英雄クラスでも、間が悪けりゃどうしようもないよねぇ……私って、私ってなんて馬鹿……? あれ、なんか外で光ったようなァガッシャアアアアアアンって目の前でガラスゥゥゥゥ!?
「ぎゃあっぁああああああっ!?」
「むっ!?」
「おうぇえええい!?」
が、ガラス、ガラスが、バラッバラに割れたぁ!? っていうか、これ、これ、剣!? なんで飛んで来た剣が天井に!? い、一体何事が……
「おぴぇ」
「メタリア、どうした!? 顔色が一瞬で青く!」
い、今見えたのって……一瞬しか見えなかったし、すげースピードではっきりしなかったけど、多分……お母様、だよね。
「ば、バカな。ルシエラ夫人の愛剣だと……」
あっ確定ですね。どうやってく気づいたかはどうでもいいけど、お母様がこの状況を察知してこっち突っ込んできてるんだろ……良し!
「この戦い、我らの勝利よ!」
「時間稼ぎが功を奏した……のだろうか、分からん」
そう思いましょう。なんか、それすら大した意味は無くて、誘拐されてたとしてもシュレクをあっさりお母様が取り返してそうな気もするけど……気にしたら負け!
「っ、いやまだだ! まだ、まだ終わったわけではない!」
「あっ」
さっき使った火かき棒! 上着で取っ手に……よして! 両開きの扉はそれされるとそう簡単に開かなくなっちゃう!
「こ、これでそう簡単には開かない……あとは窓から逃げ出せば、まだ」
「ここまで来ると、聊か見苦しくもあるが……しかし、有効な手立てではあるな」
「言ってる場合か!」
私達だって、別に余裕がある訳じゃないんだぞ! いよいよ疲れて来てるんだよ私だってさ! 息はまぁ、整ったけど、後どれだけ持つか!
「いい加減に、諦めて」
「あきらめるのはあなたです!」
へ?
「アメリア、キィィィック!」
「ごぶげぇん!?」
……あれっ、何か、小柄な物体がオッサンを吹っ飛ばしたんだけど、アメリア? ダイナミック着地お見事、じゃなくて! どっからとんできた? ってアレか!? クローゼットの上から飛んだのか!?
「おねえさま! ごめんなさい、うえまでのぼるのに、じかんがかかってしまって」
「あ、うん。大丈夫、助けてくれてありがとね?」
いや、あれ、大丈夫だろうか。側頭部に突き刺さってたよねあの飛び蹴り。首いってない? 大丈夫?
「……こ、この」
「あ、生きてた。良かったぁ」
「この卑しい下賤のクソガキがぁああああああっ!? めちゃくちゃするんじゃないぞぉおおおおおおおっ!」
うわ怖っ!? 皴も目つきもどちゃくそ怖いしさっきの顔が全然生温く見えてくるぞコレ!?
「っうぅ……おねえさま」
「だだだだだだいじょ、じょじょっ、じょうぶよ」
「あの形相は凄まじいモノだとはオレも思うが、それにしても怯えが過ぎると思うぞ」
「いや、これはゆるして」
だって怖いもん……アメリアなんて泣きそうよ? アメリアをあんまり不安にさせたくないから頑張ってるけど、私も泣きそうよ? ああもう、早くお母様来ないかなぁ……
「許さん、許さんぞ、ぜった『ザシュ』どうぇえええええええっ!?」
……あの、とびらから、けんが、はえてる。え、どしたの。
「お嬢様! ご無事ですか!」
「ロイ君ビビらせないでありがとう助かったぁ!」
大人だ! お母様じゃなかったけど頼れる大人だ! よ、良かった! 助かったぞぉおおおお! っていうかあの分厚い扉を貫くってロイ君ヤベーな!
「な、まさか! 十人近くを向かわせたというのに!」
「予想の三倍卑怯で草も生えないわ」
一対十って。マジでクソ野郎じゃないか。おのれ、私のロイ君になんてマネを。でも突破してきてくれたのはめちゃくちゃ凄い。頼りになりすぎる。
「ご無事なのですね! 良かった! しばしお待ちください、ここを押し破って」
「どきなさい、ロイ」
「……へ?」
へ?
「は?」
……あれ、なんか、扉に、線が……と、扉が、扉がバラバラに!? 冗談、いや、嘘だよね!? 音が漏れない位分厚い扉だよねコレ!?
「……随分と、好き勝手してくれたようね。俗物」
「「ぴぃっ!?」」
お、お母様だぁあああああ!? お、鬼みたいな形相でとんでもないオーラを放ちつつロイ君をチワワみたいな状態にしてるお母様がバラバラになった扉の向こうからぁあああああああ!?
「おねえさまぁああああこわいですぅうううううう」
「アメリア、もうちょっとしっかり抱いて! 怖くて泣いちゃう!」
子供が時間を稼ぎ、大人相手は大人が決着を付けました。




