巨大金庫を王水で溶かすが如きごり押し
「……い、いや! その理屈は可笑しいと思うよ私は!? メタリア!?」
「可笑しくなんてありません。女の子らしくするっていうなら、恋人と一緒に居るのは当然じゃございませんか?」
「それは……まぁそうかもしれないけどさ! だからって急に、しかも乗る馬の許可如何でそんな話を出す事も無いだろう?! もうちょっと、機会をさ……!」
いいや、ここで退くわけにはいかん。あの馬こそが私の運命なのだ。多分。だからこそあんな事件が合っても彼は生き残り、そもそも私に傷を負わせてくれたのだから。運命と言わず何というのだろうか。
「そ、そもそも行かせると思うのかい?! 私だって、そりゃあメタリアに甘い自覚はあるけどさぁ……目の前で堂々と家を出るとか言われて、はいそうですかと行かせる訳ないでしょうに!?」
「ふふ、お父様も甘い事で」
私には、強力な切り札が居るというのを、お忘れになったんだろうか?
「私には、一番の家臣が居りますが故……彼の力を借りる事になるでしょう」
「まって、彼をこんな下らない言い合いに巻き込むのは止すんだ。本当によく君に尽くしてくれているんだから、その忠義を裏切っちゃいけない」
あ、凄い下らない言い合いを可笑しなテンションでしているというご自覚はおありの様で……まぁ、私も当然ながら自覚はありますけどさ。でも……もう退くわけにいかん!
「ふふ、残念ですがここで退くわけには参りません……私にも意地があります」
「いや意地を発揮する機会完全にはき違えちゃいないかなぁ……!? それに、だ。ロイ君の手引きでここを出た所で、どうやって王都までたどり着くつもりだい!?」
「鈍いですねお父様……シュレクの帰りの馬車に乗せて貰えばそう時間もかかりません」
ふふ、目を見開いて驚いておるなぁ……王族の馬車に突然相乗りするなんてそりゃあ思いつきもしないでしょうよ。色々と、不敬だとか、問題があるかもしれないからなぁ?
「い、今から許可をちゃんともらえば、乗せてもらうのは……い、いやダメだ。それは流石に駄目だろう。如何に君が婚約者だとは言え、節度と礼儀というモノがある」
「公的に乗る訳ではございませんよ……? 荷物に紛れてしまえだ誰も分かりません」
「本気で駆け落ちでもするつもりかいメタリアっ!?」
その程度の覚悟も決めねば、お父様の覚悟は突破できないでしょうに……分かったのだ。気が付いた。そもそも突破口を探しているようではいけない。穏便にやり過ごそうとしているのもいけない。勢いがあるというのであれば、こじ開ける位でなくては。
「ふふ、今日のメタリアはちょっと違いますよ、お父様ァ」
「どうしてこうなっているんだろう……私は、メタリアのお見舞いに来ただけなのに」
そう! お父様の地雷を踏みかけている事に気が付いたなら! その地雷を恐れて止まるのではなく、大股で越えて先へ行くくらいで無ければ!
「だいたいお父様は過保護に過ぎるのですよ。先ほどのアメリアの事もそうです」
「え、えぇ?」
「アメリアだって素敵な恋の一つもするかもしれません……その時、お父様はなんというつもりなのでしょうか! そんなのは許さぬと、一言で切って捨てるおつもりでしょうか! それはあんまりじゃありませんか!」
そうだ。先の一件だってそうだ。ビビってたんだよ……! あくまで婚約者だとかの話じゃあない! それに関連するかもしれない、程度の話題で、お父様の発言に怯えていたんだ。ビクビクと!
「私たちとて、自らの頭で考える生き物です。余程の無茶などで無ければ、見守る事も愛でございますよ! お父様!」
違うじゃあないか! 勢いがあったのは私の方なんだ! その勢いを投げ捨てて! 逃げる選択肢を選ぶなんて言うのは! 国宝を二束三文で叩き売るがごとき暴挙じゃないのか!? 私が選ぶべきは!
「……そ、それは、まぁ……そうかもしれないけど。でもあまりにも早すぎるんじゃ」
「別に即座に婚約する、という訳でも無し! 友達として会うでも良いのでは?」
突き進むっていう選択肢だ! 覚悟を決めたなら避けるなんて言葉は考えない!
「うーん、友達。お友達。まぁ、確かにそれなら。急に婚約って話になるからあれ何であって。異性の友達と言うのは、いい刺激にもなるし」
「でしょう!? 考え方を変えるのですお父様! ちょっとでいいので! 乗馬だってちゃんと覚えることが出来れば、社交の方法にもなりましょう! その時、子供のころから大公家ですら御するのに苦労した馬を乗りこなしているとなれば、自慢にもなります!」
ちょっと間違っている部分があるとしても、それを気にさせない位、思いっきり言葉で押すのだ! めっちゃ押すのだ! 沢山押すのだ!
「うーん、確かにそう考えれば……いやでも危ないのはなぁ……」
「危険は乗り越えてこそ! 先程のお友達の件、例にして考えてみましょうか!」
押し込め、全力で……私の本来の目的を。引っ込めかけていたモノを!
「友達とするにしても、信頼できる人が良い、というのであれば、王宮の……例えば、そうですね。シュレクの弟君、お二人の王子など如何でしょうか?」
「えっ」
「優しい弟君だけれど、どうしてかお友達が少なくて少々寂しがっている、とシュレクから聞いております。アメリアがお友達になってくれれば、喜ばしいと」
……よし、ちょっと考えたな。私の勝ちだ。
「如何です? 乗り越える方法を考えた方が、それから逃げるより全然宜しいと思いませんか? 思いますよね?」
「……た、確かに、そうかもしれない」
「でしょう!? だから乗馬だって! やり方を変えて超えてみましょうよ!」
……お父様は『考え方をちょっと変えてみる事にするよ』と言って帰られたけど。私さっきなんであんなに喋れたんだろう……なんか、追い詰められて変な所に入ってたのかな、テンション。
「……でも、勢いがあったらビビらない方が良い、っていうのは確かにそうだな」
自分の言った事だけど。なんか……ジーンと来た。覚えとこう。もしかしたら役に立つかもしれないし。
勢いだけで、頭空っぽにして書いてみたら案外スラッと書けた回。
昨日投稿忘れていたので、自分への怒りを込めて二話同時投稿です。