プラチナと黄金
「――ちょっと病人向けのご飯にしては重たいかと思ったけど、ペロリ、ね」
「まぁ私のご飯をずっと作ってくれている方々なので……私が多少の怪我とか、疲れとかで食欲がなくならないって知ってるんですよ」
前に『お嬢様の食事を作る時は、子供に向けて夕食を作ってると思わず、健啖家の方の間食を作っている感覚で、調理しております』と言われた時があって。まぁ泣いた。流石に人目を憚って自分の部屋に行って、シクシク泣いた。
「でも病気の時でも、ちゃんと食べないと元気は出ないし。今は、病気という訳でもないのだからちゃんと食べた方が良いわよね。うんうん」
「……なのでケーキをオマケしてくれた、という事ですか?」
「調理場の皆さまには内緒よ? 何故かケーキを作ろうと厨房に入ろうとしたら『私達から仕事を奪うな!』って看板掲げられちゃって……仕方なく、仲の良い料理人の方と入れ替わらせて貰って作ったんだから」
そこまでして作ってくれてありがたがるべきなのか、そんなチート染みた手段を使うメトラン母様に驚くべきなのか、結局母様をブロックしきれなかったキッチンの皆様に同情するべきなのか。分からんけど……それを気にしても私にはどうしようもない。
「けど美味しいですねコレ……」
「えぇ。ここで調理できるようになってから、本業……あ、本業じゃないわね。いけないいけない。兎も角、こういう腕は磨いてるから」
中世ヨーロッパが発祥と言われてるデコレーションケーキの類だけど、コレはタルトタイプだよね。若干クリーム染みたモノが入ってる気がするのは考えない事にする。なんか時代を先取りしすぎていて若干ヒヤッとするから。
「……あ、そうだ。メトラン母様。こちらを」
まぁ、ケーキは兎も角。やる事はやらんといかん。という事で先ほど書き上げたこのメモをお願いします!
「あら? これは」
「コレを、シュレク……王子に渡してくださいませんか?」
「えぇ、構わないけど。やっぱり婚約者と会えないのは寂しいのかしら?」
「そう言う訳ではないのですが……心配はかけたくないですし。一応、無事であるという連絡位はしようかなって思って」
まぁ、メモの内容はそんな特別なもんでもない。『体は何ともないから心配はするな』と言う旨の内容ではある。あと、ちょっとした落書きをいくつか。
「分かったわ。じゃあ今日は……あぁ、後はお風呂かしらね? 念のために助ける様にはお医者様から言われているから。手伝うわよ」
……あぁ、風呂はそういう感じになるのか。まぁこの年だし、まだ母親と一緒にお風呂入るくらいは……いや、そもそも介護みたいなみたいなもんだから変に気にする必要も無いけどさ。
「さ、行きましょうか。立てる……わよね? 駄目そうだったら手を貸すけど」
「いえいえ、大丈夫です。一人で立てますから」
……待てよ? いっそこれは役得なのでは? メトラン母様にお風呂に入れてもらうとかさ。だって、私より格上、極上の年上ブロンド美人やぞ? そんな人に甲斐甲斐しくお世話してもらうとか、性別とか関係なくご褒美でしょうが。
「……うふふ」
まぁ男性とは全然、こう、喜び方の質が違うけど。でも嬉しいもんは嬉しいよね。思わず変な笑みがこぼれちまった。落ち着け私、あくまで普通に母子の触れ合いなんだから。
「アメリアとアレウスも一緒に入るって言ってたわよ。お風呂でくらい、メタリアちゃんと一緒に居たいって」
「なるほど、二人も一緒に……うん?」
「二人の部屋に寄っていくから、少し歩くけど、大丈夫?」
あ、それは大丈夫ですけど……誰と誰が一緒に入るって? 幻聴かなんか聞いたか私。
「……マジだったわ……何だったら途中で乱入してきたお母様も合わせて五人での入浴だったわ……ビックリしたわホント。なんなん、なんなん、あの状況は」
羨みたくなるようなピッカピカの若い肌が二人。こう……前世との比較をせざるを得ない恵まれたお体をされた女神が二人、しかもプラチナとゴールドのダブルゴージャス。
お二方に、一応病人だからっていう建前と、可愛がりたい、という本音でめっちゃ可愛がってもらって……
「普通に体洗って貰ったり、頭洗って貰ったりだけだけどさ……」
嫉妬と安心で、天国と地獄を超高速で反復横跳びしたかの如き精神疲労……だけど役得には間違いないと思う。癒されたと言えば癒されたし。だって視界に入るのが美女×2と美少女と美少年のコンビだもんね。
「それは兎も角として。お風呂ガッチリ気持ち良かったし……」
――さて。癒しもしっかり出来た所で。時間もそろそろだと思うんだけども。指定は出来ないから、『もういいんじゃないか?』くらいの予想しか出来ないのがもどかしい。
――コンコン
「おっ? さてはて……」
扉さん、お近く失礼いたしますよっと……頼むから企みに気が付いたロイ君だったりしないでくれ。間違いなくお説教確定だから。
「婚約者」
『……共犯者』
おっしゃビンゴ! はいはいどうぞーっと。
「全く、読み解くのに多少難儀したぞ……それで、何用だ?」
「なぁに、アンタが帰ってから、ちょっとした根回しをして欲しいだけよ」
ふふ、そんな驚いた顔すんなや。アンタにしかできない事なんだからさ。シュレク。
限界に挑んだ。後悔はしていない。