幕間:妹兼主人公から見たお嬢様
お母様に、あなたのお父様は大公様なのよ、と言われた時、驚いた。
だって、大公様といえば、この国で、王様の次に偉い、とっても偉い人だ。そんな人の子供、なのだという。
『急な事で驚かれたでしょうが、あなたのお母様は偽りを申して居るわけではございません、レディ……真実として、受け止めてください』
立派な服に身を包んだお爺さんも、そう言っていた。
良くは分からなかったけど、それでも、何か、何かが変わって行くような、予感が。のんびりと、お母様と一緒にいるだけの今では居られないという、そんな気がした。
「さぁ、どうしたの? 遮二無二、突っ込んでらっしゃい」
でもだからって、こんな状況になるなんて、誰が想像できたんだろう。というか、ただの子供の私には、無理でした。ごめんなさい。私のもう一人のお母様、お父様の奥様の大公妃様、とても頑張ってらっしゃいます。
「ぐっ」
「げびゃっ!?」
通路につまってる人たちに、しゅっ、しゅっ、と。線が見えたと思ったら、どんどんバタバタ倒れていっちゃいます。とても、とても怖い事が目の前で起きている。と思うんですけど、そうとは思えないんです。
「流石、大公妃様……悪漢相手に一歩も怯まず圧倒的に」
片手で軽々と重そうな剣を振るってらっしゃいます。とてもカッコよくて、そっちに目がいってしまって、そして、戦っていても、とても、華やかに見えますから、だから、平気に見えるのかもしれません。
……でも、それだけじゃ、ないとも思います。
「お母様控えめにいってヤベェよ……軍神だよ軍神……」
私の隣で、一緒にお母様の手に抱かれている、急に出来た、私のお姉様。
最初に会った時とは全然違う。おしとやかなお嬢様、だと思っていたけど、お屋敷で会ってみたら、とっても活発だった事がわかったお姉様。
『さ! おねえさまに、なんでもいいなさいな!』
『さぁさぁさぁさぁいきますわよ走りますよ全力ダッシュでゴーゴーですわー!』
『ご、ごひゅぅ……ぜひ、ぜひゃぁ』
なんというか、ちょっと残念だった。はしゃいで、私を案内して、でも結局疲れてしまって部屋で眠ってしまって。でも、冷たくされるよりも全然よかった……と、思っていたらお母様が攫われて。
『え、えっと、その……だ、大丈夫よ! 私がなんとかするから、まーかしておきなさいな!』
その時も、お姉様は、真っ先に飛び出したのだ。
まるで嵐のような人だと思った。突然現れて、周りを巻き込んで、散々暴れまわる。
そんなお姉様について行こうと思ったのは、どうしてだろうか。
『それじゃあアメリア、少し留守にするわ。大人しくしていてね』
置いていかれる、と思った。何かをしようと走り出したお姉様に、置いていかれてしまう。それが、無性に怖かったのだ……あ、なんかちょっと赤く汚れた飾りが転がってきた。
「ひえっ……争いが激しくなっておられる……こわ」
お姉様が怯えている。でも、別に怖がる事はないと、思う。大公妃様は、私たちを助けようと戦ってくださっているのだから、かっこいい、とすら……そして、それはお姉様にも言える事だと、そうも思うのです。
お母様達の元にたどり着けたのに、助けに来た私たちは動けなかった。
上手に助けないと、私たちも危ない。だから、危なくない時を待って助けるんだって。
「お前、本当は弱いんじゃねーのか?」
「……は?」
その間に大公妃様がバカにされ始めた。その時のお姉様の表情は、凄まじかった。顔色があっという間に変わって、真っ白になった。本当に怒った人の顔だった。
「なんも出来ない、負け犬ってことじゃねーの?」
「ころしてやるクソ野郎」
大公妃様をバカにされて、お姉様は、どれだけ悔しかっただろう。私だって、腹が立ったのだから、お姉様は、一体、どれほど。
「ゴラァアアアアァァッ! この腰抜け三下野郎……お母様を、バカにしてんじゃないわよぉおおおおおおっ!」
きっとそのまま我慢していた方が良かったと思う。けど、それでも大切な家族の誇りを傷つけられた事が、我慢できなくて、炎みたいに怒るお姉様は、その、背中は。
今の大公妃様に負けないくらい……いや、きっと大公妃様よりも雄々しかったと思う。
「おわぁあっ!?」
「手が…………おれ、の、手がぁ!?」
「どんどん来なさい……無駄な時間を過ごすのは、苦手なのです」
「うっわぁ、手がズッタズタだよ……ありゃ一生食事できないぞ」
さっきとは全然違って、普通の女の子にしか見えないお姉様。でも、この人も、やっぱり大公家の血を引く、とてもかっこいい、貴いお方。
急な事だったけど、でもこの人の妹になれるのは、きっと、とても幸せな事だ。
『フフッ、そうしんぱいせずともへいきよアメリア。それより、もうすこしむねをはってあるきなさいな、ここは、あなたのだいにのいえなのよ?』
第二の家、そう、お姉様は始めに言ってくれた。
大公家のお屋敷で、そんな風にお姉様と一緒に暮らせたなら、それは、とても……あぁ分かった。いいや、分かるのが、遅すぎた。
ここに来た時じゃない。きっと……
『まぁ、ずいぶんと、あさましいことをされていることで、そちらのおさんかた』
初めて会って、助けてもらった時。あの時にはもう、私はきっと……メタリア様に、お姉様に、きっと憧れてたんだ。立派で、堂々としてた、お姉様に。
「……? どうしたの?」
「いいえ、なんでも」
この、とってもかっこいい、自慢のお姉様に……あ、お姉様の顔に何か赤いものが。
「ほぎゃあああああああぁぁぁぁ肉ヘエェンっ!?」
「お、おねえさましっかり!?」
……ちょ、ちょっと元気すぎるかもしれないけど……うん。こんな風に、逞しく、華麗に成れたら、いいなぁ。
主人公視点を、オールひらがな、か、漢字を交えるか、最後まで苦悩しました。