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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
一章:技のゴリラ幼少期
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DLCスチル『ブチ切れゴリラの怒りの流星』

これが、この少女の本性よ! (ドドン)

 焚火に、肉汁がしたたり落ちる、相当上質なベーコンらしい。そして分厚い。この時間のベーコンは、女子にとってはまさに天敵と呼べるだろう。バンダナにカットラス、ザ・山賊と呼べるコーデの男は、それを剣先で引っ掛け、お母様の鼻先に垂らした。あ、お母様のシャツに肉汁垂れてる。


「……へへっ、どうだ、美味そうだろ? やんねーけどな!」


 そんな卑劣漢を、淡いパールのドレスに着替えたメトランさんも睨みつけている。

 だが、そこは流石お母様、凶器にも匹敵するそれを鼻先にぶら下げられても、鼻をひくつかせる処か、澄ましたまんま顔色一つ変えない。恐るべきは元騎士団長の精神力か。私なら確実に涎を垂らしちゃうだろうなぁ。


「……じゅるり」

「おねえさま、よだれが」


 おっと手遅れだったか。ふ、我が腹が唸りを上げておるわ。脂の乗った生贄を寄越せとなぁ……淑女とは思えん食欲だな私、自重したい、無理。


「見張りは……一人。これしか残さないとは、どれだけ火事を恐れてたんでしょうか」

「山火事とかは怖いからねぇ……」


 まあその見張りも、坑道の壁からこっそり顔を出してる私達に気づかないようなカカシなわけだけど。実質いないのも同然。あんなチンピラ、白鯨騎士団のロイ君の前じゃチワワ同然よ。


「ささ、ロイ兄さん、あんな奴、かるーくぶちのめして、お母様達を奪還しましょう」

「まぁ、アレくらいのチンピラ、打ち倒すのに労苦はありませんが……しかし、このまま突撃、とは行きませんな」


 あり、なんでやのん。


「ご覧ください……あの紐」

「へ?」


 いや、そんなもん何処にあるって……いや待って、焚火でよく見えなかったけど、ホントだ、男の近くに紐がぶら下がってる。上伝って、どっかに繋がってる。すっげえ、ロイ君アレ見えてたんか。私結構目を凝らして、でぼんやり見えるくらいだってのに。

 流石我が精鋭白鯨騎士団員、ヒラでもめちゃ優秀。


「鳴子の可能性が高いです。万が一アレを鳴らされれば、火に手間取っている奴らがここに集まってきます。多勢に無勢の状況を、自ら招くのは、聊か」

「あー……」


 さっき火に群がってたおっさん方が全部、こちらに……なるほどなるほど、それは、なんとも、危機的状況ですな。


「なるほど、慎重にやらないと危ないのね……」

「はい。故に、今は様子をみるのが良策かと」


 フーム、なんともじれったいが、お母様たちを確実に救出するのならそっちの方が良いと思う。というか、勢いで胡麻化してるけど、私とアメリアいない方がロイ君もっと動けるだろうし、足手まといという負い目はある、素直に従おう。


「……あの見張りが離れた瞬間に私が突っ込みます。お嬢様達は、奥様達の救出を」

「わかった」

「は、はい!」


 機会は一瞬、って奴か。ふ、いよいよ物語じみて来たじゃないの。いや、ここ物語の世界だけど。リアルなんだよ、私には。

 さて、あのチンピラは、と


「へ、こいつに睨まれると足が震えるってのは、ホントなのかね……ま、今は一切抵抗すんなって言われるから、確かめようもないか」


 ベーコンでのお母様いじりに飽きた臭いな。最近の若者は飽きっぽい。前世の話だけど、この世界にも当てはまるのだろうか。


「……」

「澄ました顔しやがって、自分がとっつかまってる自覚あるのかコイツ。せめて隣のコイツみたく、睨みつけてくれば面白いってのに」


 バーカ、お母様が誘拐された程度で取り乱すわけないだろ。というかメトランさんがスゲーよ、お母様だから平気なんであって、普通は怯えるだとかする所を睨みつけてるよ。肝座りすぎだろ、流石主人公のママン。


「ったく、ガキを人質に取ったくらいで抵抗もしなかったって聞いたが……」


 うわっ、やり方もセコいなー……なんだよ、お母様を誘拐したから、一体どんな奴らかと思ってたら、単なる小悪党じゃん。


「なんてひきょうな……」

「アメリア、怒る必要なんてないわ」

「おねえさま?」


 まあでも、純粋な我が妹……妹って認識するのにも慣れて来たな。うん。ともかく妹は純粋だから腹立てちゃうかもしれないけどさ。でも、それは良くない。


「ああいった類の輩に怒るのは時間の無駄。所詮、その程度の手段しか取れない小物なのです。寧ろ笑って差し上げて、余裕と優雅を示しなさい」

「おねえさま……」


 って、学校の先生が言ってた! 物語のヒーローが言ってた! どっかの政治家が言ってた! 引用三段活用! ……引用せずに、スパッと自分で言えればカッコいいんだけどなぁ……言わなきゃバレないし、いいや、お澄まししとこう。


「ひょっとしてよ」

「……」

「お前、本当は弱いんじゃねーのか?」


 ……は?


「ちょっとあなた、奥様に対して何を言うの!」

「いや、本当に強いならさ、ちょっとくらい暴れると思う訳。でも抵抗無しだろう? ならさ、実はしたくても出来なかったんじゃないのかってよ」


 ほうほうほうほう、なるほど。人質発言して、動きを縛っておいて、で、抵抗してこなかったから弱かった、と。お母様がお前らの言う事にちゃんと従ったのは、私達の事を考えての苦渋の決断だっていうのに、なるほど、そうか。


「ふざけないで、あの人から聞いてる。大公妃様は、嘗て騎士団を率いた誇り高いお方なのよ、それを、あんな卑劣な手段で」

「でもよ、言うだけタダっていうじゃん? しょーこを見せくれない限り、こうして捕まってるのを見ててさ、納得は出来ないよねー」

「っ!」


 ああクソ、腹の中が熱い。煮えたぎってやがる。まあ落ち着け私、ビーク―ルだ。ここで飛び出したら全部パー、お母様達の救出がスムーズにいかない。そうだろう私。


「ほらほら、縄抜けでも何でもしてさ、オレをボコボコにして見せなよ、そしたら信じてやっても良いぜぇ」

「あ、貴方ねぇ!」

「そっちのオバサンは黙ってなよ。ねえねえ、やって見せてくれよー、なー」


 くっそこの野郎、ムカつく。率直に言ってムカつく。ジュウシマツ住職とタメ張るレベルでムカつく。こんなトコだけ優秀とか、流石チンピラ、三下臭半端ないな!


「あ、あの、おねえさま」

「メタリアお嬢様、その、お顔が」

「あーふたりともだいじょうぶよ私は冷静そのものだからね」


 今、そんな酷い顔してんのかな、私。まあでも大丈夫、流石にブチ切れて突撃やらかすような無茶は、ね。しないからさ。安心なさい。今私は明鏡止水の心地にある。多分。怒りが一周回って穏やかな心地になる奴だよ。うん。


「……」

「……あーあ、つまんねぇなオイ。ま、こうして捕まってるのか答えってことか。要するに、弱くて、なんも出来ない、()()()ってことじゃねーの?」



 おし、もう知らん。テメエは私がやる。



 得物探し。流石鉱山、手ごろな石発見。いい重さだ、この手でも持てて、そこそこずしりと来る。


「……おねえさま、なぜみぎてにいしを?」

「メタリアお嬢様? あの、一体何を」


 続いて、思いっきり息を吸い込みます。込めるのは怒りです。ただただ怒りです。


「……っんのぉ」


 感情と息のオーバーチャージ完了、そしたら一気に通路から飛び出してそれを……一気に解き放て!


「ゴラァアアアアァァッ! この腰抜け三下野郎!」


 ビクッと跳ねた体。こちらに向くつもりか、馬鹿め、手玉だぞ。

 石を構え、払うように左足を前に、そして上げる。三下の顔はまだ見えない。

 左足を軽く伸ばし、振るように地面にインパクト。三下の顔はまだ見えない。

 右腕を後ろから、鞭のように柔軟に。そして鋭く。三下の顔はまだ見えない。


「……お母様を、バカにしてんじゃないわよぉおおおおおおっ!」


 そして、そのまま、力を込めて振りかぶれっ!


「はっ、っげぇぎゃああああっ!?」


 こっちに振り向いた瞬間に、石が届くように。狙ったのは、奴の目。ビンゴだ! きちんとしたフォームなら、子供だって石で大人の目だって抉れんだよ。クソが。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅう」

「……お、おねえさま」

「なんてこと……なんてこと……目を、目を」


 取り敢えず、二人ともごめん。


「……我慢、出来なかったわ」


はい。多分この小説内で、初めてこの主人公が腹の内の全てを曝け出しました。ムカつく野郎は力でドカン。最近流行りのスマートさなんて欠片もございません。すいません。

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