そりゃあゴタゴタが収まればそうもなる。
「……何か不満かしら? ロイ。そんなに不機嫌そうな顔をして」
「不満です。一度はお嬢様をかどわかした相手ですよ。それが大公家の門を叩こうなど」
「我が家は実力主義よ。流石に人殺しを趣味にするような輩は流石に駄目だけど、ちょっとくらい後ろ暗い程度なら……ね?」
まぁ君とかは色々例外なんだけど。まさかその辺り分かってない訳もあるまいよなぁ私のナイト様は……なんて、悪役令嬢ムーブしてみる。そっちに惹かれ過ぎても宜しくないから程々にだけれど。
「私が言えた義理ではないのは分かっています。けど、それでも」
「大公の家を、私を、家族を。心配してくれているのね。えぇ、分かっているわ。少し意地悪をし過ぎたかしらね。ごめんなさい」
「いいえ……私こそ出過ぎた口を」
「貴方の忠言を出過ぎた真似、等と言ったら神罰が下るわ。気にしなくていいの」
私にとってはロイ君の言葉がないとホント困るし。まぁこうやって意地悪している時点で私相当な罰当たり行為してる気もするけどさ! ホント天罰は勘弁な!
「……ありがとうございます。お嬢様」
「こちらこそ。いつもありがとうね、ロイ。頼りにしているわ」
「っ、はい」
ホント。今回で分かったけど、こと暴力関係で一番頼りになるのは、私の傍付きのロイ君だって事。余程の不意打ち(誘拐はたぶんそれにあたると思うよ、流石に)さえなければまぁ下手は打たないだろう。
「ま、これで漸く、ゴタゴタの後始末も終わり……最後の一つに専念できる」
「……? まだ何かありましたか?」
「あるわよ。正直、コレが無ければもうちょっと早めにケリの付いていた問題が一つね」
学校再開には、結局三日程かかった。まぁ、三日三晩リビドアさんが休まずお仕事をしてくれたからこの程度で済んだわけなので、遅かったとかは間違っても思えないな、と何時もはいる、威勢のいい料理長を欠いた厨房を眺めながら思う。
「違和感よねぇ。あそこに寮長様がいらっしゃらないと」
「えぇ。あの豪快な『上がったよぉ!』の一言でお出しになるパン、楽しみにしていたのですけれど……なんでも、お仕事で張りきり過ぎたと」
「お体を大事にしてほしいけど……まぁ無理だよなぁ」
寂しいっていうか、もう私としては違和感しか覚えないというか。あそこにリビドアさんいないと『アレ? 私、今日の目の調子おかしいのかな』ぐらいな勢いだ。
「まぁ、理由を知っていると納得だけれど……じゃあロイ、あの席よ」
「了解しました」
いくらロイ君が私の護衛にしたって、こうやって食事の時まで着いてこられる、というのはどうなのだろうかと思う。という事でロイ君を説得はしたがまぁ無駄だった。
『お嬢様が望むのであれば、お部屋でお食事をとる事も可能ではありますが』
絶対に逃がさない、という強い意志を確認するだけに終わった。
「……まったく、友人と朝食を取るだけだっていうのに、大げさだと思うのだけど」
「いいえ。どのような状況であれ、何が起きるか分かりません故……」
最近ちょっとロイは頑なになり過ぎた気がするのだが。アレだろうか、誘拐の一件に責任を感じているのだろうか。アレに関してはマジで責任ないと思うんだけどなぁ。
「あ、いたいた! メタリィ! こっちよこっち!」
「メタリア様、もうお食事は注文してありますよ」
「あらそう? ごめんなさいね、気を遣わせてしまったかしら」
――とりあえず、日常は戻ってきたと思う。あんな二件の事件があった直後だと考えれば驚くほど平和だ。二つの事件が一応は隠蔽されているからなのだろうか。
「今日も美味しいわねぇ……その分、あの大きな声が聞こえないのは気になるけれど」
「はい。あの元気なお声は、ここのシンボルでしたから」
そして、日常が戻ってきたなら。私と決着をつけたがる……というか、私も決着をつけたい相手がいる。もういい加減引っ張り過ぎて、そろそろ終わらせたいというのがある。
「ねぇメタリィ。今日はこれからどうしようかしら」
「それなのだけれど……とても重要な用事を終わらせないといけないと思って」
最初に宣戦布告を受けて。何度も勉強会やって。で、一応助けても貰ったわけだ。借りを作る、とまで一度はいった。色々あるし……まぁ、頃合いだとも思う。
「――あら、ごきげんよう。オースデルクさん」
「えぇ。ごきげんようエリィアさん」
この娘とが吹っ掛けて来たケンカを終わらせるには。丁度いい。
「やっほっす。やーきょうもご飯がおいしそうっすねぇ」
「えぇ。食欲をそそりますわ」
「お友達二人も一緒に……何か御用かしら?」
はいベスティ、後ろですっごい警戒しない。唸り声を上げない。落ち着いてね~。
「えぇ。諸々の問題も終わり。そろそろ、私たちも一歩進むべきかと」
……そら来た。そう来るだろうとは思ってたよ。
「あの日の言葉を果たす時ね。もう十分フェアになったとは思うわよ?」
「そう思うのであれば……やってみたら?」
「えぇ。取り敢えずは知で、貴方の華をへし折ろうかと思いますわ。私がね」
――ファラリスとの、彼女曰く、決着を。
次回、報復令嬢対悪役令嬢……となるか!




