悪役令嬢の親友
「べ、ベスティ……」
「様子を見てきて欲しいって、あの、お爺さんに頼まれたのだけれど……」
様子……か。まぁ、見ての通りの満身創痍でございますが……はは。勢いで行動するのって、良くないわね本当に……やーほんと、八方塞がりじゃ……
「とても辛そう。何か大変な事があったの?」
「あぁ。自分の考えが完璧だと思い込み派手に自爆したところだ。まぁ投降させた所までは似合わぬ程に頭を回したようだが……そこで力尽きたようだな」
「うるへーわよ……ああ、ベスティゴメンなさい……大丈夫だから……」
似合わぬほどにってお前。私にかける言葉に段々遠慮が無くなっているどころか鋭く研がれてきてるじゃねぇか。ったく、慰める積りは……無いんだろうね。こいつ。
「大丈夫よメタリィ。良く分からなかったけど、犯人さんを外に連れ出しただけでも凄いと思うわ。私。良く分からないけど、そんな落ち込む事ないわよ」
「……落ち込む、っていうか、違うのよねぇ」
うーん……もういっか、ちょっと、考えが渦巻いちゃって、何処へ行くかも分かんないような状況だし。ちょっと話してすっきりしよう。
「違う?」
「そう。大したことじゃないのだけど、ちょっとした自信を取り戻すために必要だったというか……いや、必要じゃないのだけど、必要だったというか」
ここで私がこう、スパッと、かっこよく、彼を助けることが出来たなら……おお見事悪役令嬢、そなたには運命を変える力がある! って天狗になる事も出来たが。
「良く分からないわ……」
「うん、当然よ。ベスティが知る必要があるような、こう、凄い秘密とか、将来に役立つ知識とかじゃないのよ。気にしなくてもいいの」
あぁベスティのサラサラの髪撫でてると凄い落ち着く……自分が無様に敗北したあとはかわいい子に癒されるのが一番だねぇ……
「そ、そうじゃなくて……言ってることが全く良く分からなくて、メタリィどうかしちゃってのかしら、とか思わないでもないのだけれど、それだけじゃないのよ」
「思ってはいるのね……しかも私の想像をはるか上に超えた方向に」
要するに『このアマ、マジで頭おかしい事しか言ってないじゃん馬鹿じゃねぇの』って事だよね。いや言ってないし、ベスティにそんな鬼みたいな事言われたら速攻で首吊って墓場入るからね。うん。
「私が良く分からないっていったのは、その、自信を取り戻す、って所で。メタリィは自分に、その自信がないの?」
「え? それは大いに」
「大いに!? 全然自信ないって事!?」
自分に自信があったらこんな無茶して迄、自信取り戻そうとしないし、アメリアやアレウスの事に介入したりもしないだろうし? 自信あったらそのまま姉妹や兄弟になっても仲良くなれる、って思ってたろうし。
「もー、そんな事言わないで、メタリィ!」
「わぷっ」
……? あれ、今私何されてるんだろ。なんか、暖かいものに包まれているというかなんというか……というか、この感触は覚えがあるような。というか、これは我が学校の制服の生地の感触と言いますか。
「ベスティ……? ベスティ!? Why!? ハグナンデ!?」
だ、抱きしめられているッ! まるで母が娘を慈しむ様に! 胸に抱かれているッ! 温もりが私を包み込んでいるんだッ! なぜだ!?
「ねぇメタリィ。私はね。メタリィの事、本当にすごい子だって思ってるのよ?」
「ベスティ?」
「頭もいいし、何があっても慌てたりしないし、危ない事があっても、必ずなんにもなく帰ってきて……私の憧れなのよ、貴女は」
……憧れ。私が。ベスティの、憧れが。私。それどうなの。私みたいなのを憧れにしちゃっていいの。どんな事もアドリブと執念と根性と運の合わせ技で、紙一重で逃げ切ってきたみたいな、スマートさのかけらもない私よ?
「ちっちゃい頃に助けて貰ってから……私がね、あの子に怒ってたのは、憧れの子を酷いように言われたから、っていうのもあるの」
ベスティ……
「そりゃあメタリィは、女の子っぽさは、酷いっていえるくらい欠けてるし、なんでか学校に入ってからかっこつけるようになった謎な部分もあるし、今日みたくずーんって落ち込んじゃう、心が弱い部分もあるわ」
「ベスティ? あれ? 私褒めて貰ってたのよね?」
「褒めてるだけじゃ友達はいけないの。けなす事もしないと」
いや貶すのは本当に必要でしょうか? 目の前のいたいけな少女(精神年齢四〇代前後のおばさん)の心が悲鳴を……いや、カッコ内の時点で遠慮はいらんな。
「――だからね、メタリィ。自信をもって。貴女はなにがあってもかっこいい、私の憧れで一番のお友達。誰にも負けない、凄い人なんだから」
「ベスティ……」
そ、そこまで言って貰って『自信ないわぁ……』とか……言えるわけないじゃないの。
「……うん。ありがとうベスティ。なんか、元気出たわ」
「うん! 元気ないなら、私も力を貸すわ! 妹ちゃんにも、元気づけてもらうとか」
うんうん、そうね、アメリアにもこう、慰めて……アメリアに……
「……っ!」
あ、あった。チート的な一手。いや、でもこれやっていいのか……いいや、それこそ今まで築いてきた絆が試されるとき!
「ベスティ……ありがとう!」
「え? え?」
「そうと決まれば……ちょっと無茶を頼むことになるわね」
「アメリアにか?」
「私の思考を読むなお前はぁ!?」
絶対にいい話だけでは終わらせないスタイル。




