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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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お嬢様サイド:誘拐理由とおトイレと

 ……まぶしい。きのうは……あー、そうか。ねむけが、ぱんぱんになって……あぁ~、やばい、あたま、まわらない……きゅう、ぬぬぬ。


「……ふあ」


 みず、かお……とりあえず、さっぱり……あれ、なんか、へや、せまいような。


「おら、水用意しといたから。顔洗っておきな。しゃんとしてくれねぇと、こっちも話し相手が居なくて、暇なんだよ」


 あー、すいませんねぇ……ヨイショっ……ぶくぶく……ごぼごぼ……


「……っぷはぁっ! ふぅ、良し」

「いやヨシじゃねぇが。なんでいきなり水入れた器に顔突っ込んでんだよ。本当に令嬢かよお嬢ちゃん。もうちょっとお淑やかにしたらどうだ?」

「……あー……そっちの方が早いでしょう。態々水を一々掬うより。多分」

「マジで変わってるな……令嬢っぽくもあるけど、それだけじゃないあたりが特に」


 まぁそんな風に過ごしてますし。っていうか、昨日は、そうだ。私誘拐されて、ジェイルの部屋で人質やってるんだっけか。


「……しかし、お嬢ちゃん、なかなかどうして似合ってるな。その、なんだ、男装?」

「ジェイルのしか服なかったから着てるだけなのだけど……」


 うーむ。割とスリムタイプの体だからか、似合っちゃうのかね。ただ男装って今の価値観的に結構微妙な立ち位置だったはずだけど……まぁ、いいか。着れれば何でも。


「着るのに何の躊躇も無かった辺り……もしかして、慣れてたりするのか?」

「いいえ、慣れてはいないけど……どうして?」

「大公ともなれば、他の人間じゃ理解できないような、凄い趣味とか持ってるもんかと」


 いや大公だからって、そんな変態染みた事する訳ねぇよ。持ってる力こそ桁違いだけど価値観までそんなんな訳がない……っと、そういえば気になっていた事があるんだ。


「正直な話。どうして私を選んだの?」

「え? そりゃあお嬢ちゃんに一番人質としての価値があったしなぁ……それ以外に特に理由はねぇよ。まぁそんなんで選ばれて、申し訳ないと思うけどな?」

「私が一番価値がある……のかしら?」


 価値がある。いやぁ……そうは思えなんだが。私。いや、別に自分が人間として価値がない、とか変なネガティブこじらせてる訳ではないよ? でもまぁアメリアに比べて価値は劣るんじゃねーの!? とかは確信してるけど。


「そりゃあそうだろう。なんてったって、あの大公の娘だぞ? どんな間抜けな悪党でも先ずはお嬢ちゃんを狙うだろうさ。アンタを誘拐できれば、大抵の要求は通る」

「そこよ。疑問なのは。私、一応は大公の娘なのよ? 怖くないの?」


 まぁ価値があるっていうのは分からんでもないが。それにしたとしても……


「どういう意味だ? 小難しい理屈だとしたら言わなくてもいいが」


 いやいや、小難しい理屈なんて私も考えられないし……っていうか、私みたいなノーマルな一般ピープルでも考えつくようなことだと思うんだけど。


「単純な話よ。危ない、とは思わないの? 私の事は。だって、こうやっていうのは恥ずかしいけど……怒るわよ? お父様。間違いなく。私の事、愛して下さってるから」

「……あ? あ、あぁ~……!? うん……そーか、なるほど、そう言う事か!」


 理解できた……と思っていいのだろうか。まぁ普通に考えれば出てくると思うし。

 そもそも、人って竜の卵を盗もうって思えるかって話。虎の子を誘拐しようかって考えるかって話。メリットとデメリットが釣り合ってなくない? ホント。


「もし、見事要求を通して逃げおおせても……大公が逃がすわけ、ねーのか」

「多分。あまり頭は良くない私だけど、貴方が逃げ切れないというのは、まぁ、分かるわ」


 舐めちゃいけない。大公、っていうのはこの国で王に次ぐ地位に立つ怪物だ。人間一人で対抗できる相手じゃない。自意識過剰やもしれんが、私はお父様の逆鱗であるという自負がある。じゃあもうちょっと警戒しろって? 今回は無理でしょ流石に。


「物語で、攫われた令嬢が、『お父様が黙ってないわよ!』っていうのは間違いじゃないのよねぇ。それだけの力が無ければ、言わないだろうし」

「そんな話があるのかよ……なんていうか、現実的で嫌だな。読みたくねぇ」

「……あるのよ。うん。多分。きっと」


 やっべ口が滑った。まだ中世みたいな世界でそんなセンセーションな物語が書けるもんかい。うん。お嬢様もうちょっと危機感を持とう。


「と、兎も角。私を誘拐するの、危ないと思わなかったの?」

「……俺も思考を停止させてたかもな。そう考えてみりゃ、とんでもない厄ネタだな嬢ちゃん。今からでも解放したらチャラにならねぇかなぁ……」

「ならないと思うわよ」

「だよなぁ……貫き通すしかねぇか。ここまで来たら。ったく、とんでもない失態を犯したもんだ。人間、常識っていうか、常套手段に頼り切りになると碌な事がない。あ、果物もうないな。待ってろ。要求しに行ってくるからよ」

「いやまだ大丈夫よ。何方かと言えば……お手洗いに行きたいかしら?」


 ……トイレと言えば。ここは水洗式なのよね。いや、多くは中世伝統のおまるなんだけれど。それも特定の穴に捨てて、きっちり埋め立ててるし。匂いもそこまで気にならない。なんていうか、この時代で行える、理想的な排水技術してる。


「あぁ、トイレか……スゲェよなここ。水洗式、だっけか。初めて聞いた」

「私の実家も水洗式よ?」

「わぁお。貴族ってのは皆そうなのかよ……流石だなぁ」

「全部そうではないみたいよ? こういう、お金をかけられる場所じゃないと出来ないらしいわ」

「やっぱ大公が特別なんじゃねぇか……あーあ、俺はそんな竜の尻尾を踏んだって訳か。間抜けさに涙がこぼれそうだぜ」


 がんばれおっちゃん。まぁ、その……うん。流石に可愛そうだから死なせないように頑張るつもりではあるからね。うん。出来るだけ、だけど。


この小説を書くにあたり調べた事で、一番びっくりしたのは中世のお手洗い事情でした。

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[一言] >中世のお手洗い事情 ローマの公衆トイレは下水道につながる清潔なシステムだったのに中世はおまるにためて所定の場所に捨てる仕組みでたいていは守られず窓からゴミと一緒に道に捨ててた、とか 汚物の…
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