お嬢様サイド:白熱する外、のんびりな中
……うーん……なんだろうね……
「駄目ね。香りが死んでるわ。ちょっと蒸らし過ぎたか、そもそもその前の段階でミスをしたか……砂糖入れて無理やり飲むレベルよこれじゃ」
「……確かに、しっぶい味だなこりゃ。紅茶なんて飲んだことない俺でも分かる。こりゃあ大失敗だってな。やっぱ慣れてる奴が淹れるのが一番良いのかねぇ」
せっかくいい茶葉使って淹れてるのに、悉く失敗失敗、また失敗。いい加減紅茶の一つでも飲みたいです。喉乾いてきちゃって。まぁ水でもがぶ飲みすればいいんだけど、折角暇なんだし、ちょっと努力してみようと思った次第です。
「あ、お嬢ちゃん、剣に近寄っちゃダメだぞ、怪我するから」
「了解よ……貴方、剣自分から離していいの?」
「いいんだよ。どうせ威嚇以外にゃ使わねぇし。そんな人質殺すような凶悪犯でもねぇしな。うん。後弾みで殺すほど馬鹿でもない」
……世の中の誘拐犯は大抵そんなんなのに。自分が異常なのを自覚して欲しい。まぁ誘拐っていう手を取っちゃう時点で、ちょっとおかしいとは思うけども。
「じゃあ五回目ね。今度こそ上手くいけばいいけど……」
「いい加減俺も、お貴族様の飲む良い感じの紅茶飲みたいしなぁ。頑張ろうや」
まぁ可笑しいといえばこの状況だけど。なんで私はおっちゃんと一緒に紅茶を啜る仲になったんだろうか……前の襲撃とは大違いで笑う。
「なぁお嬢ちゃん、もうちょい時間かかるってよ、上に要求通すの」
「……まぁ、そりゃあそうじゃないかしら?」
「驚かないんだな。お嬢ちゃんくらいの年なら、もうちょいビックリして、『パパはどうして助けてくれないの』とかいうと思ってたんだが」
いや、まぁ。そりゃあ普通はそうなるでしょうよ。みんな泣くと思うけど。
「私はこれでも、大公の令嬢として、色々教えを受けてまいりましたから。お父様の元に私の事が届くのはずっと後になる事くらい、分かってますわ」
「かーっ、可愛くねぇとは言わねぇが。もうちょいワガママ染みて振舞ってもいいんじゃねぇか、お嬢ちゃん。物分かりが良すぎても、良い事ないぜ?」
そんな事言われましても……いや、別に今から子供じみて振舞う事も出来るっちゃ出来るけど、でもそうするとお父様にも余計な面倒かけるかもしれないし。だったらいっそ、素で振舞った方が良いかなって。元から精神年齢(実年齢にあらず)は低い方だし。
「ま、その辺りは立場が許さない、って感じか?」
「立場、というものは良く分からないわ。まだ子供ですし。大公の娘として、相応しいようには振舞ってるわ。出来るだけね」
「誘拐されてるってのに表情一つ変えねぇもんな……血色は変わってたが」
それはどうしようもないから放っておいてちょんまげ。
「後、貴方があまり危険な人間ではないというのが分かった、というのもあるけれど」
「おぉそう思ってくれるのはありがたい……まぁ、あんまり泣き叫ばれても、仕方ないけど、やっぱこう、辛いものがあるし。泣かないで、自主的に落ち着いて人質やってくれるくらいが丁度いい」
いや、自主的に人質やってもらうってアンタ、割と危険思想だぞ? その辺り自覚しときなおっちゃん。やっぱあぶねぇわ此奴、油断だけはしないで置かないと。
いやまぁ、確かに人質は騒がず静かにして貰っているのが一番なんだろうけど、さ。
「……それにしても、喉乾いたな……水差しの水はまだ新鮮だが、まぁ外の奴らに頼んで水とかは定期的に補給してもらわなきゃならねぇなぁ。お嬢ちゃんに倒れてもらったらめっちゃ困るし。うん」
「そうねぇ……申し訳ないけれど、最低限の物資位は差し入れてもらおうかしら」
いや、私を助けようとしてロイ君は頑張ってると思う。そんな所にすごい申し訳ないのだけれど……でもまぁ、私も人間なわけだし、最低限水と硬いパンくらいは……
「じゃあ……ちょっと悪いけど、抱えられてもらえるか?」
「え? えっと、良いですけれど……今から行くんですか? 早過ぎません?」
「何事も早い方がいいからな。後、お嬢ちゃん普通に風呂入るだろ? まぁ、貴族様だしなぁ。その辺りはまぁ、ちゃんと気を遣おうかと」
え、風呂のお湯迄要求してくれんの? 善人過ぎない?
「じゃあちょっと脇失礼するぜ……っと。さっきも思ったけど、お嬢ちゃん軽いなぁ」
「女の子なんてこんなものよ? 羽毛より軽い、は流石に盛り過ぎだと思うけど」
「おぉ、本当か……じゃあますます飯とか早めに要求した方が良いな。こんな軽い体じゃ一食ぬいただけで死んじまいそうだ」
「そこまで脆くはないけど……」
つーか抱えるの上手いな。めっちゃ安定してて、苦しいとかあんまりないよ。あ、ちょもう扉開けるの? まって、心の準備が……いや、別に必要ないけど何となく必要じゃないかな、人質っぽくする、その、あるじゃん。必要?
「よう、誰かいるかい?」
「えっ!? あ、はぁ!? ちょ、ろ、籠城犯!? ちょちょちょ!?」
あら、見張りが三人しか居ない。他の人は何をしてるんだろ。
「ちょ、リーダーに報告を!?」
「い、今は会議の最中だぞ、さっき凄い白熱してたし、なんか、狙撃とか色々案出てたし、その、あの中に入るのか!? ここは、その、俺達でさぁ!?」
「とりあえず捕まえないと……いやダメだ人質抱えてる!」
「あー、その、なんだ。要求があるんだけどな」
見張りの人すっごい焦ってるのは分かるんだけど。でもなんていうか、間が抜けてるというか……っていうか
「とりあえず、この嬢ちゃんの為に、風呂用の湯をな? 頼むぜ?」
あ、もう引っ込むんですか……早かったなぁ、撤退。
「けどこのお湯、お風呂用のお湯の余りなのよね……それが悪いのかしら」
「いいや? このお湯、凄い綺麗だし、飲める奴だから大丈夫だと思うが」
せっかく差し入れて貰ったのに、別の用途に使って、申し訳ないというか。うん。
本人としては、一応警戒はしている積りらしい。




