ご乱心は召されぬように……
『私が貴女に話したのは……まぁ、唯の気まぐれのようなものです』
とは言っていたが。正直私としては、『気に入らないなら訴えても構わない』と言っている様に聞こえた。居直り強盗の様にも見えるが、そんな卑屈で、卑怯なもんじゃない。
『どれだけ汚れを背負っても、自分の従者をどうにか救い上げてやりたい』
と、堂々と示したのだ。私が、この事実を知って、それこそ両親や、学校側に訴えるのも覚悟で。私が話すのであれば、時の運が無かった、彼はもうどうにもならない。話さないのであれば……彼を助ける、最後のチャンスが訪れると。
「それで、こうすれば……えぇ、完璧。あとは」
「配置する、だけ、ですか?」
「そうよ。けど配置を間違えると、意味の分からない破綻したモノになってしまうから一番重要な所でもあるわ……気を付けなさいね?」
多分、私に話したのは、被害者に何も言わずそういう事をするのは、筋が通らない、というのもあるのだろう。確証はないが、変に律儀なファラリスの事を考えると、そう思って話でも不思議ではないと思う。外れてたらクッソ恥ずかしいが。
「……オースデルク? ルキサの方はどんな感じなんですの?」
「問題はないわ。丁寧に解けているし、解く速さも……それなり、優秀ね」
「ルキサは面倒臭いのが嫌なだけで、元々賢い娘ですもの。当然ですわ」
まぁ、それを探るつもりも無けりゃ、する意味も無い。それを態々指摘しても仲が余計に悪くなる要因になるだけだと思うし。いやまぁすっごい気になるのは確かだけど。
「で、エーナさんの方なんですけれど……彼女、いつもこうなのかしら」
「……えぇ、解けない問題があると、こうやって考え込んでしまうのよ。全く、エーナ!」
「えっと引き、足し、それからそれから……ハッ!?」
とかシリアスな事を考えてたらエーナちゃんが戻ってきた。なんか、さっきわかんない問題が出てきたらブツブツ言い始めて……一気に停止しちゃったんだけど。どうやって対処すればいいのか、私分からなかったので、助かった。
「全く、分からない問題が出てきたら、自分一人で解決しようとして、ずっと考えに集中するのをやめなさいな。一々停止していたら先へは進めないわよ」
「す、すみません……どうにも、誰かに頼る前に自分が頑張らないと、と思ってしまって」
ホント。まるで仏像じゃないのかと思うくらいに完全停止してたからね。話しかけても引っ張っても、ピクリとも動かず、一瞬死んでいるのかと思った。
「貴女のその癖、乱心同然だから気を付けなさいな。私も初めて見たときは……もう」
「『エーナ? エーナ!? ちょっと、誰か! 誰か! エーナが!』といって取り乱しておられて、可愛かったですわね」
「エェェェェエエエエナァァァァァアアアア?」
いやファラリスよ、貴女も十分乱心していると思うが……乱心と言えばシノブの事。ロイ君には絶対に話せない。いや、彼も大人だし、私より全然優秀だから、滅多なことはしないと思う。追っかけで始末したりはしないと思う。
「……ただ、ね」
何か、万が一の確率で名前を失って、名無しの彼と再会したりした時、もしシノブが生きていると知っていなければ、よく似ただけの他人の空似……という事で、そう爆発もしないと思う。知ってたら? あった瞬間殺し合いもあり得るんじゃない?
「ロイには申し訳ないけれど……」
「従者さんがどうかしたの?」
「ああいえ、なんでも……ただ、最近色々無理をさせてしまっている気がするから」
「そうなの? じゃあメタリィのお父様に、特別なご褒美をお願いしたらどうかしら!」
「特別なご褒美。確かに、それを用意するのが当然ぐらいに、頑張って貰っているし」
……ご褒美も合わせて、シノブの事は出来るだけ早く忘れて貰うのが一番だろう。名前すら奪う位のガッツリした処分受けるんだし、また私に絡んでくることは先ずないと思うから、忘れて貰うのが一番だ。
「何を送ったらいいかしら……」
「うーん、やっぱり、男の人なのだから、剣とかどうかしら!」
「名剣、名馬の類。確かにそれがいいかもしれないわね。今までの恩もかねて……」
「――こらそこ、何を話しているのです」
あっ……な、なんか冷たい声が聞こえる。ふぁ、ファラリスさんが微妙に機嫌を損ねておられる! そ、そりゃあそうでしょうな! 自分の従者が公にはご褒美とか上げられる立場じゃなくなっちゃったんだし!
「まったく、勉強に集中なさいな……貴方もちゃんとしてくれないと、私だけじゃ手が回らないのよ。気を付けなさいね」
あっはい。完全に私に対するあてつけてお言葉を賜ってくださってますね。いや、理由は分かりますけれど。私だけ従者が一緒でゴメンね……
「ほら、ここが分からないんですって、教えて差し上げなさいな」
「あらヘリメル、そうなの? 見せてみて……って、貴女は教えないの?」
「ここは私の得意分野ではありませんので……」
「さっきあんな事言ったのは、さてはコレを押し付ける為ね? 白状なさい、エリィア」
おいこら。そんなんで毎度毎度分からん問題押し付けられたらたまったもんじゃないのよ分かる貴女、ねぇ、目をそらすんじゃないわよ。
「こっちを見なさい……こっち見ろぉ……」
「……」
目をそらしたからって誤魔化せると思うなよ……私を舐めるな、大公令嬢を舐めるな。
「お嬢さ、元気になって良かったよ。うん」
「えぇ、あんなに楽しそうに……いつもより、若干機嫌もよさそうです」
「そうなの? 私、必死に目をそらしている様にしか見えないんだけど」
「あ、いえベスティア―ゼさん。見てください、ちょっとだけ口が笑ってますよ」
因みに知ってる状態でもう一度会ったら発狂します。ロイ君が。




