楽しい楽しい鬼ごっこスタート!
「クソッ、此奴やべぇぞ、こっちは人数圧倒してるってのに!」
「鈍い、動きが単調に過ぎる……奥様に比べれば、なんと容易い相手か!」
「どんな奥様だよお前の奥様はよぉ!?」
向こうからどん、がら、がっしゃん、と分かりやすいドタバタが聞こえる。ロイ君ならさもありなん。ただこのままじゃ終わらない気がする。具体的にはあの危ない従者野郎が来たらロイ君にはそっちに集中してもらわないと困る。
「という事で、なにか投げられるものをですね……」
本投げればいいじゃんて? いや、流石にバリケード代わりには使っても、投げて使う武器として使うのはちょっと……それは粗雑に過ぎない? 幾ら全部写本って言ったって皆さんが大層努力して書かれたものをなぁ……
「でも図書室にそんな凶器あるか……? ましてや私が投げられるような」
……しかし。いかに目立たない様に動くつもりとはいえ、こうやって地面を張って進むってのは、大公令嬢だとかそんな物抜きにして、女性としてどうなのか……
「制服も汚れちゃってるしなぁ……いや、いっそ私自身が雑巾だと思えばそう気にもならないか……?」
私自身が掃除道具へとなる。なるほど、その考えはなかった。よし、落ち着いたし這いずりを再開しよう。目標は一つ……狙いは、いつも司書さんたちが座ってるあのスペース! あそこの机なら、投げやすいものがあるかもしれない。
「……よし、着いた。ついたけど……うわぁ」
く、何か小物入れ的な引出しとかあるかと思ったが、無い。マジで受付用の物か。ええい当てが外れた。他に投げつけられそうなものは……?
「あ」
そういえば……ここって学校だよな。あれってないのかな。
「ここ図書室だけど……でも、無いって事はないと思うのよな。だって、書いて消せるっていう点で、アレは結構……よし」
あると思いたいけど……あ、これは。
「あった……しかも、こんな塊であるとか。まぁ、都合が良いけど」
この時代のこれって、まだ木で包む前なんだよね。だからこれを持った手を舐めたりすると一大事。まぁそこだけ気を付ければ、此奴は立派な凶器よ。
「よし、得物は手に入った。後は……っ!?」
足音。外から!? しまった、もう来たのか! ええい動きが早いじゃねぇか! 仕方ない……せめて気を引ければなんとかなるかもしれん。
「ロイ君に向こうは任せて、交代ってところね。良し!」
そっと奥の方を覗き込んでみよう……って、スゲェ、もう三人のしてる。怪物だなうん控えめに言っても。とはいえ……あっちを相手欲しい処だし、やるしかないか!
「ロイ! 入口へ! あの二人が来てる!」
「お嬢様!」
「そっちは、私が……時間稼いでみるわ!」
良し、狙いを定めて……行くぞ、流星。狙いはあの集団のだれか!
「くらえ必殺……鉛・スター!」
当たれよ砕けよ。ぶっちゃけあんまり威力ないけど、気を引くくらいは出来るでしょ。
「あっ!? な、なんかぶつかったぞ……」
「あ、彼奴だ! 大公の令嬢! っていうかあのガキ物投げやがった!」
ケケケケケケ、手癖の悪さは大公全一よ! おら、残弾はまだまだあるぞオラッ! 書く用の鉛の贈り物を召しませオラッ! 食べてお腹壊しあそばせゴラアァン!
「くそ、鉛だ! あの野郎、当たったら地味に痛いものを……!」
「お嬢様、申し訳ありません……! あ奴を仕留めるまでしばしお待ちを!」
「あっ、しまった!?」
逃がしやしねぇ! ロイ君の邪魔をする前に、まずは私に集中するんだよ! まだまだ鉛玉はあるぞ! お代わりしろ! 弾丸じゃねぇけどな!
「畜生また投げつけてきやがった! なんて野郎だ……!」
「やろうじゃなくて女だけどな」
「そういう問題じゃねぇんだよ! 畜生、こっちはまだ六人いるんだ、さっさと捕まえて坊ちゃんの前に引きずり出せ! 捕まえた奴には褒賞思うままなんだからよ!」
「そりゃあそうだけどなぁ!」
ってこんな小さな女の子に褒賞まで出すとか、どんだけ憎まれてるの私!? 私確かに貴方の誘いを断りましたし、そりゃあ頭にくることもしましたけども!
「兎に角捕まえろっ!」
くそっ、だからと言ってこんな屈強なマッチョソルジャー達に捕まるのは流石にごめん被る所存! 幸い、ここは小回りの利く図書室! 限界まで逃げ切ってやる!
「あっ、本棚の影に」
「どっちへ行った!」
そう。子供の小さな身長なら、ぱっと見ではまぁ見つからない。本棚の影をしっかりと覗き込まないと……そこで、この鉛玉が役立つってもんよ!
「それっ」
そっと投げる……私が逃げる方向とは、反対の方向に、な。
「……今こっちから音がしたな! そっちに居るぞ! 急げ!」
「大人を揶揄って、ただで済むと思うなよぉ……!」
もうアンタたち騙されてるから! 鎧ガチャガチャ言わせて見当違いの方向に走ってるから! 私こっちですから~! 残念無念また次回!
「……良し、このまま出来る限り時間を稼いで……」
「いねぇ!」
「どこへ行きやがったあのガキィ! 見つけたらただじゃおかねぇ!」
「大人を揶揄って、ただ済むと思うなよぉ……!」
……ロイ君はやくきて。私、見つかったら八つ裂きにされそうな勢いです。
遅れて申し訳ありません……!




