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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:嵐の前の静けさ・従者編

「……さて」


 お嬢様はお眠りになられたようだ。手紙の進捗も中々、俺が手伝えた範囲など微々たるものではあるが、それでもお力になれて、気分も上がる。マクレス統括に対して書いていた内容には……何も言うまい。お嬢様にも触れられたくないこともあるだろう。


「先ほどの気配は、気のせいだったかどうか」


 窓の外を見ていたのは、お嬢様の追及に思わず視線が逃げ出した、というのも確かにあるが。しかしそれだけではなく、一瞬、窓の外に誰かいた気がしたので、そちらに視線を向けた訳なのだが……良し。


「窓の下、少し見てみるとするか」


 お嬢様の部屋は二階だが、まぁ二階程度の高さなら、いけるな。ちょっと窓枠に足をかけて、よ、いしょっと。


「ふんっ……良し、多少足には来たが……問題はないな」


 着地。刺客として、高所から逃げ出す訓練をしていたのが良い経験になった。多少の高さから飛び降りてもすぐに行動できる。さて、地面に何か、痕跡などは……う。


「……分からん」


 いや、足跡やらそういうのが読み取れない訳ではない。目は良いから、寧ろそういう痕跡は良くわかる。分かるのだかしかし、それがこの場合は逆に足かせになってしまった。


「あ、ありすぎる。足跡が……これでは昼間に付いたものか今付いたものか分からん」


 足跡が多い、それも多くは子供。明らかに見分けのつく大人の足跡もわずかに混じってはいるが、二階の話し声が聞こえる程度の距離までは、足跡は近づいていない。近場にあるのは子供の足跡、それも大量に……


「偶然近くにいた子供を察知しただけ? はたまた気のせいだったのか」


 ……いや、自画自賛にはなるが、自分の察知能力はそれなりにあるとは思っている。間違いなく窓の外、その下から、何か聞こえたのは、間違いない。


「唯の通りすがり……と思うには、いくらなんでも遅すぎる。こんな夜中に態々子供が出歩くか……お嬢様のような例外なら兎も角」


 お嬢様は、なんというか。言い方は不敬にもほどがあるが、『何処か可笑しい』、らしい。お嬢様自身がそう言っていた。私自身はそこまで可笑しいとは思わないが、まぁ、それは兎も角。少なくともしれっと夜遅くまで起きる事は間違いない。


「例外を除くなら、異常な行動には何かしら理由がある、はず」


 何のために来たのか、それは分からない。


「……子供」


 あの男が会っていたのも、少年だった。

 考えすぎだろうか、と思う。しかしながら、それでも考えないよりはマシだと、かつて刺客として過ごしていた感性が囁くのだ。


「考えすぎで空回り。それならそれでいい。まずは行動せねば」


 あの男が何かをする前に、先んじて対策を打つ。その為にもまずは話を通す必要があるだろう。協力者に。なら、向かうべきは。


「寮長室」




 一つ、二つ。ノック。とはいえ夜中なので、出来る限り、静かに


「リビドア殿。俺です。ロイです」

『……待ってたわよ。早く入って頂戴』


 ……? 待っていた? 早く入って? どういう事だ。いや、今はそれを考えている場合じゃないな。声に全く余裕がなかった。何かあったのか、それとも。


「失礼します」

「いらっしゃい。早速だけど、席について。話があるわ」

「話……というと?」


 とりあえず、言われた通り席に着きながら問う。見れば、リビドア殿の顔には深い皺が刻まれている。なんと険しい表情だ。幼子が見れば泣き出すほどに。


「昼間のアレ、知ってるわね」

「えぇ、まぁ。いや、あれは私が原因でして……その誤解は明日解こうと」

「表向きは、その理由で通ってるわね。えぇ。ビックリしたわ。私はそんな事実はないって、その夜の事実を話したはずなんだけれど、ね」


 ……あっそうか。あの時私たちを止めてくれたのは、外ならぬリビドア殿じゃないか!


「ま、待ってください。そのような事実はないとリビドア殿が証言したなら、何故」

「というか、学校関係者ほとんど全員が寝耳に水ってなものよ。どんな理由とは言え、あんな人数送り込まれたら、警備や安全の観点上最悪だって。学校自体も固辞していた」


 何? だがしかし、ではなぜあれ等はこの学校に入り込めたと?


「でもなんと王宮から文書が回ってきたのよ……『学園でその様な噂が立つという事は警備上問題があるのかもしれない。第三王子や大公の令嬢を危険から守る必要がある。故に警備の人数を増加させる』……大公様の名前でね」

「王宮から!? 旦那様の名前で!?」

「貴方がそんな反応するって事は、そちらのお嬢様にはなにも?」

「……えぇ。その様な事態になっているなら、間違いなく大公……お嬢様の御父上から早馬が届くかと」


 お嬢様の事をとても大事になされている旦那様の事だ。もしそれが正式に自分がそう決めたという事なら、何も知らせないというのは流石にない。何かしら警告の手紙を送ってもいいはず。それに、それなら白鯨騎士団が動いてもいいはずなのに!


「……あるいは、先日届いた手紙になにか?」

「それ、いつの話?」

「確か……三日程前、だったかと思われます」


 不審者の話が立ったのが今日。昨日は特に何もなく、その一日前に三回目の勉強会の約束を取り付けたとおっしゃっていた、そして、その前に手紙が届いたから……


「じゃあその手紙には何にも書いてないと思うわ。その手紙が来たのは昨日よ」

「昨日!?」


 そ、その翌日に十人もの兵員を送り込んだと? 早業といえば良いのか、それとも。


「それも早馬で……その手紙を書いて、送り届けたのは、何日前かしら。少なくともこの決定、らしきものが届けられる前よね」

「……確かに」


 異常だ。もしそうだとすれば、旦那様から何かしらの連絡が来ていなければおかしい。大公の令嬢、と名指しされているなら、猶更だ。


「兎も角、何が起きるか分からないのが今の状況。あの理由をそのまま発表するっていうのもはばかられた。大っぴらに警備が万全じゃない、なんて言えると思う?」

「そ、それは……」

「だから表向きは『本当に不審者が居たから、貴族の子が個人的に兵隊を連れてきた』事にせざるを得なかったって。これが学校側の判断ね」

「……なんと」


 何が起きているんだ。いま、この学園で。


大遅刻申し訳ありません。

普通に寝過ごしました……

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