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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:報復令嬢と従者と

「ふぅ……ぺーネロトの前で宣言すると、身が引き締まりますわね」


 私にとって、一番信頼できる婚約者の前でちゃんと覚悟を決める、というのは。私にとって一種の儀式。覚悟を決め、しっかりと心の準備を整える為に。お陰で、曇りない瞳であの女との因縁を清算できそうです。


「……婚約者殿を前にしては、より一層麗しい事で。喜ばしい事」

「あら、シノブ。今日はずいぶん早いお帰りね? あと、その一切感情のこもっていない称賛をやめなさいな。そういうのを、たしかヨイショというのでしょう」

「おや、さようですか。偶にはご機嫌取りでも、と思ったんですけど」


 ……この愛想のない従者も、ぺーネロトくらいいい男ぶりを見せてくれれば。もう少し信頼する気にもなれるのですが。まぁ、実績はあるので信用はしているのですが。


「それで、用というのは終わったのですか」

「えぇ、まぁ。おおよそは一段落しましたよ。外出をお認め頂いた事に、感謝を」

「だからその気持ちのこもってない感謝はやめなさいと……まぁ、いいけれど」


 最近この従者は、毎夜毎にどこかに出かけるようになった。私をほったらかして何処かに行くのに思う所がない訳でも無いが……まぁ、ちゃんと私が寝る前には戻って来ているので、プライベートに踏み込むのも失礼だと思い、何をしに行くかは聞いていない。


「……シノブ」

「はい」

「貴方を従者として引き入れて、もう結構経つわね」

「……そんなに時間たってたんですか? 私はそういうのを考えたことないので」

「はー……本当にあなたって可愛げないわね。一応、貴女を拾ったのは私なのだけど」




 ……あの女に苦い敗北を刻まされた。怒りに任せ、あの女を必ずやどうにかしてやると思っていたけど、どうしようかも分からなくて。気晴らしに馬車を引かせ、領地を巡っていた。苛立ちを込めて街並みを眺めていた。そんな時にシノブを拾った。


『……』


 ふと、目が合ったのだ。

 不思議な少年だった。見たこともない、真っ黒で、金のボタンが縦にズラッとついた服を着て、路地裏に倒れこんでいた。でも、目だけは何か、酷くギラギラと輝いていて。


『……わたしとくる?』


 思わず馬車を降りて、手を伸ばした私。そのギラついた瞳に、何故か共感を感じたのだ。この人は、私と同じように、何かに飢えてここに居る。何かを求めて、でも届かなくてこんな目をしていた。


『わたしにつかえるのなら、あげる。なにがほしいのかは、わからないけど』

『……荒事なら、役に立つ。だから、飯を食わせろ』


 私を見た瞳。思い出せば、まるで飢えたオオカミの様にも思えるその瞳を見て、当時の私は震えあがった。いえ、恐怖ではなくて。歓喜……でもなかったけど。


 ――此奴は、きっととても凄い拾い物だ。此奴と会うのは運命だったのだ。


 私が思った通り、シノブはエリィアの家で鍛えられるようになるなり、恐ろしい程に頭角を表した。流石に白鯨には及ばずとも、それなりの練度を誇っていた我が家の騎士団ですら、どんどん成長していくシノブに追いつけなかった。


『あいつは怪物だ、才能の塊だ』

『何時か、エリィア家最強の騎士として、この騎士団を白鯨にも劣らない精鋭にする』


 と囁かれ始めたのも頷ける。それ程まで圧倒的な才覚を見せつけて、シノブはお父様や親戚達の信頼を獲得した。実力優先、実力主義の我が家において、多少の出自の不透明さなどあって無きが如し。


『ファラリス。お前が拾ってきた男だ。お前が好きに運用するがいい』

『分かりましたわ』


 そう言われはしたが、それも体の良い言い訳ではある。我が家の唯一の跡取りである私へとシノブを任せる、と言ったのは、将来私が当主となった際に、我が家の騎士団の頂点へと己を据える、と言外に言ったようなもの。


『貴方は将来の騎士団長。栄達は保証されたようなものですわね』

『……えぇ、まぁ』


 そうなった時も、この男はずいぶんとそっけなかったが。

 私がこうしてこの学び舎に連れてきたのも、将来の事を考えて様々な経験をさせるためというのも確かにあった。大きかったのは、あの女への対抗意識、だけども。




「まぁ、拾ってもらったのには感謝してますよ。一応」

「アンタいい加減に減らず口を直さないと粛清しますわよホントに……!」

「口調、崩れてますよー」


 いい加減シバきまわしてやろうかしらこの歩く不躾。ったく、やっぱりマナー等の徹底をした方が宜しいかしら……まぁ、それも夏に一度家に戻ってからになるけど。


「……そろそろ寝る時間ですわね。今日も護衛、頼みますわね」

「はいはい。ある程度まではやりますから、安心してお休みください」

「……全く、本当に」


 こんな性格で、何も問題を起こしていないのが幸運というべきか……判断、早まったかもしれないわ……いえいえ、将来、私は堂々とエリィアの上に立つ身、この程度は乗りこなして見せないといけませんね。




「……彼奴がパパに例の事をチクれば、事を起こす準備は整う。その時、お嬢様、アンタには上手い事踊ってもらうさ。まぁ安心しろ。悪いようにはしない。アンタは、正義のヒロインになる」


「そして、俺が()()()()()()()辿()()()()ための、一手にも、な」

ゲームスタート。

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