入手アイテムに予想だにしないヒントが付いてる奴
……あーしんどくなってきたけど私は元気でありたいです。
「とりあえず、このエモさの塊みたいな宝物を読み進めてたら間違いなく頭スパークして某走る英雄宜しく家に向けて走り出すから……今は自重ね」
「そうですね、既にご実家での雰囲気に戻りかけていますから」
はっ!? しまった!? む、無意識で素が出てしまっていた……な、なんという手紙の魔力。ロイ君指摘サンキュウ。やっぱりこれは危険な麻薬……一度嵌れば抜け出せない底なし沼っ……!
「ふぅ、温もりに予想以上に飢えていたようね……取り合えず、これは丁重に丁重に保存した上で、ちょこっとずつ服用することにしましょう……」
さぁて、私室の何処へ仕舞い込むべきか。無くしたりしようもんなら不定の狂気確定の致命的な精神ダメージを負うことは確定なので……滅多に無くさないような。
「……ベッドの、マットレスと土台の隙間にでも置いておきましょうか」
「それはさすがに取り出しにくいのでは?」
「取り出しにくいくらいの場所なら、滅多に無くしたりはしないでしょう? それに大事なものは秘密の場所に大切に仕舞い込んでおきたいものよ」
という事でベッドと土台の間にそっと隠して……あくっそ、マットレスが重いじゃないの。くの、持ちあがれ、持ち上がれってんだ。ぐぬぬぬぬぬ、頑張って私の筋肉。あ、駄目だこれ、私の筋肉が『ダメっす』とか言ってる気が……
「よっと……さ、お嬢様。私が持ち上げてるうちに、お早く」
「……あ、ありがとう」
はい、最初からロイ君に頼めばよかったですね……いや、なんか、テンションが実家時代に戻ってるからさ、こう、いろいろ勢いのままに行動しちゃうというか。はぁ。
「もう少し落ち着かないとね……っと。これで良し、ね。ありがとう」
「いいえ。また読みたい時はいつでも声をおかけください」
「……流石に取り出すだけなら私でも出来ると思うから、仕舞う時だけお願い」
「承知いたしました」
うーむ、この前は出来るだけ一人で行動できる様にって一人で行動したというのに。うみゅう、頼りっぱにならない様に改めて気を引き締めねばならんか。
「……でも、でもでもちょっとだけ、ちょっとだけなら……」
「承知しました。取り押さえる準備は確と整えておきます」
「えっ、私ってそこまで信用ないかしら」
いやいや、幾らなんだって取り押さえる必要があるくらい混乱したり錯乱するとかはないでしょ。郷愁は時にすごいパワーを生むけど、それにも限度があるって。
「全く、大げさよ。私だって自制の心くらい多少は……」
本当に。こんな過保護な心配させちゃうんだから、やっぱり一人でも何でも出来るって事をちゃんとアピールしていく必要がある。まぁ、その辺りは地道にやってくしかないよなぁ……さて、どれ読もうかなぁ……良し!
「アメリアとアレウスの奴ね!」
「……」
さぁて、家ではどんな感じに過ごしてるのかなぁ、お姉ちゃんに教えてごらん……うんうん。ふむふむ。ほぉ、アメリアの訓練はそんな感じに……へぇ……
「……」
「……お嬢様、如何いたしました?」
「ロイ、帰り支度をなさい。私は先に家に向けて走り出すわ。窓をぶち破ってえぇ、もうジッとしてられない、我が健脚を見せつけてあげましょう」
「言わんこっちゃない! 落ち着いてくださいお嬢様!」
「……手間を取らせたわね……」
「いいえ。これが私の役割ですから。構いませんよ」
私、ここまで堪え性がないとは……うぅ、これでは手紙を読むのは自重するしかない。読むたびにロイ君に抑えてもらってたら迷惑かけるどころの話ではない。なんてこった。学園生活での数少ない癒しが。
「……この上は、ヘリメルとベスティを徹底的に可愛がって癒しを充填するしか」
「お嬢様、ショックなのは分かりますがうわごとはご自重ください」
うわっ!? ……とはいえ正論。私、癒しを求めるあまりちょっと頭が外れたというか頭の大切な場所が緩んだというか。ちょっと冷静になろう。うん。
「癒しが欲しいですわ……」
「気持ちは分からないでもないですが、そうしみじみと呟かないでください。流石に大公令嬢として、草臥れすぎなのは如何なものかと」
「草臥れてるっていうのは流石に止して」
そこまで女に拘ってるわけじゃないけど、流石に草臥れるって言われるのはショックにすぎるわ……ロイ君に文句を言うつもりは無いし、ぶっちゃけ言えないけどもう少し容赦とか優しさが欲しいと思ってしまうのは……我儘でしょうか?
「ともかく、この手紙はしばらく封印ね……ベッドの下に」
「結局隠し場所はそこなんですか。取り出すだけなら簡単なのでは?」
「それ故に自制心を鍛える鍛錬になるんじゃないかとか思いながら実はたまに取り出して眺めようかなとか思ってみたり見なかったり……」
「負けてませんか、欲望に」
負けないが? お嬢様の意思は強いから絶対負けないが? この手紙は私にとって劇薬すぎるからそう簡単に読まないから! 舐めんなよ、一度間違えたら学習するんだよ私は! 多分!
『――手紙の最後になるが、愛しいメタリア。お前に直線関係はないかもしれないが、一応伝えておくとする。王宮にて力をつけるため、学び舎を利用する家が出てきている。特に、ジェイル、という名の家の子供には気を付けてほしい』
そして後でそれを知ってしまい崩れ落ちるやーつ。




