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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:ここ最近の裏事情 御実家編

「……メタリアは、大丈夫なんだろうか」

「当主様、一日に三回しみじみとお嬢様の心配をするのを止してください。笑うのを堪えればいいのか心配をすればいいのか、使用人達が反応に実に困っております」


 ……そんなショボンとした顔してもダメなものはダメだから、自重してほしい。


「そんな事言ったってなぁ、マクレス。我が子が自分の手元から離れて生活しているというのは予想以上に、こう、心細くなるというかなぁ」

「気持ちはわからないでもないですが、度が過ぎますよ。過保護にしすぎないよう、態々護衛の彼に言った貴方がその体たらくでどうするのですか」

「うぅ……流石はマクレスだ。冷静かつ沈着な指摘をしてくれる……」


 そうでもしないとこの人の失態をカバーする等、到底出来ん。優秀なのは確かだが、一切ミスをしない訳でもない。この人が見逃すような、本当に細かいミスを見つけようとすれば、必然的により自分を磨かざるを得ない。


「しかし、グリーンビートが比較的安全な場所とはいえ、何かトラブルが無いとも言い切れん……特に最近は、国内の情勢もあまり安定してないない」

「……確か、お嬢様や王子が巻き込まれた一件も関係していたと記憶していますが」

「そうだ。国王陛下のご子息三人は、それぞれ優秀だが、それ故に将来。誰が国王陛下の後を継ぎ、国のその後を担うか……陣営関係なく、意見は割れている」


 ……それ故に、一番問題がある王子を始末する、という過激派すら出て来た。と。


「状況を鑑み、旦那様はシュレク王子の後ろ盾になったのでしたな」

「立場に状況、シュレク王子は不幸だとは思う……それに加えて、本来の王位継承者に関する揉め事も絡んでくるのだからな……この国の成立以来、これ以上無い程にこの国は揺れている」


 状況は複雑に絡み合い、そしてその影響は……どこまで波及するか分からない。


「お嬢様も、害が及ぶと? その余波を原因として」

「あり得ない訳ではない……シュレク王子が亡き者になれば多少はその状況も解決するだろうと……だが、その選択肢は初めから取るに値しない」


 平和の為に一人を殺す。一面だけ見れば、間違いはない、正しい行いなのかもしれないが、しかし……そうする必要がある状況なのかと言えば。


「我々の努力でどうにかなるのであれば、誰も見殺しにする必要はないからな」

「——それを分かっているのであれば、動揺するよりも先に努力をなさいませ。お嬢様がこうなってしまったのも、貴方の選択ゆえなのですから」

「しまった、こうなるのも仕方ないと言い訳するつもりが……しくじった」


 間抜けか……まぁ、折角自滅したのだから諦めて仕事をして欲しい。


「……まぁ、そろそろ真面目にやるとしよう。不安も若干晴れたしな」

「えぇ、そうしてください。そもそも、今やっているのも、その不安を取り除くための仕事でしょうに。それを進める度にお嬢様の身の安全はより保障されるのですから」

「間接的に、な。そりゃあより直接的に守りたいと思っても仕方ないだろうに」


 だからと言ってお嬢様の事をぐちぐちと言っても仕方ないでしょうに。全く、アメリアお嬢様や、アレウス様を見習って欲しい。二人ともお嬢様を信じ、まったく動じていないというのに……はぁ。


「しかし……この報告を見れば、心配にもなる。見ろ、また王宮は揺れているらしい」

「……『ディラン王子、ゼン王子をそれぞれ国王陛下へ推薦する動きが増加。それに伴い両王子をそれぞれ推す派閥による小競り合いが始まった模様』……これは」

「まったく、王宮が珍しく熱を持っていると調べてみれば……シュレク王子が学び舎に行って、私が継承者争いに関わらなくなったと判断した途端にこれだ」


 水面下での争いは、既に始まっている、という事だろうか。


「そして王子が成人した時に向け……学び舎を通じて、将来に向けての布石を打とうとする動きも出てくるやもしれん。どうにも、不安は拭えん」

「子供を道具としてしか見ていない輩など、路傍の小石の如く溢れていますからな」


 そして、そのパワーゲームが、もし大きな災いを招くとすれば……学び舎にいるお嬢様は真っ先に渦中に巻き込まれるかもしれない。


「エリィア伯爵家など、その事を私より早く聞きつけ、万が一の事を考え娘に選りすぐりの護衛を付けて学校に送ったらしい」

「かの家も、なかなかに耳聡い事で。流石は、急進してきた若き家、ですかな」

「だがかの家はかの家で上昇志向が強すぎる。危うい。この状況の、台風の目とならねば良いのだが……いや、蛇足か。仕事に戻るとしよう」


 ……ロイが無能だとは思っていない。白鯨騎士団に入った経緯、先の問題、様々あるとは言え、人格的にも実力的にも、白鯨騎士団の生粋の古参連中と変わらぬ信頼を置ける程に有能な男ではある。


「……『しかし、この話を聞いてしまうと、それでも不安になる』、か」

「っ、口に出ていましたか?」

「いいや。俺と同じような思考を辿ったろう事は、容易に想像できたからな」

「そう、ですか……」


 仕事をサボるのを容認する訳ではない。しかし、不安だと口から零していたというのは成る程、仕方ないような気もしてきた。


「何が起きても不思議ではない、火事場の王宮、そして」

「その延長線にある学園。何もない、安全だと思うには……些か、な」

「分かりました。グリーンビートには、古い知り合いもいます。彼女に、少し様子を見てもらうように、頼んで見ます」

「あぁ、頼んだ」


 ……この時ばかりは、無駄に長く生きたこの身に感謝したくなる。頼れるツテが多いというのは、素晴らしい事だと思う。


「……手紙を書く、など。何年ぶりかな」


裏事情とか言いつつ、久しぶりに爺を書きたかっただけ。

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